86歳腎機能低下のNOACアスピリン併用例が止まらない鼻血を来した場合どうするか:JAMAIM誌

Optimizing the Safe Use of Direct Oral Anticoagulants in Older PatientsA Teachable Moment
Anne-Laure Sennesael,et al
JAMA Intern Med. 2015;175(10):1608-1609


JAMAIMのTeachable Momentで,現場からの実例を上げてのDOAC使用についての検討がありました。
非常に勉強になるのでご紹介します。

<症例>
・86歳女性,体重55kg
・止まらない鼻血のため救急外来受診

・心房細動あり,リバーロキサバン20mg1年間内服
・末梢血管疾患あり,アスピリン80mg9ヶ月内服
・4年前に生体弁手術
・入院時クレアチニンクリアランス21mL/min, Hb9.4, プロトロンビン時間30%(正常75〜100%)
・抗Xa活性が治療域以上のためリバーロキサバン中止
・2日後,リバーロキサバンの抗Xa活性は治療域内
・薬剤師による問診で,繰り返す鼻血のため,ここ2ヶ月間リバーロキサバンを半分(10mg)にしていたことが判明
・腎不全と高齢であることから,医療チームはリバーロキサバンからビタミンK阻害薬への変更を決定
・アスピリンも中止

<教訓>
・フレイル高齢者へのDOACの適正で安全な使用がこのケースの焦点
・本例のようなケースには,ビタミンK阻害薬が今だに有効
・くわえて,安定した末梢血管疾患にはアスピリンは不適切

・腎機能と年齢は出血における重要な因子
・ダビガトランでは出血症例の2/3は80歳以上で,その60%以上は中度〜高度の腎機能低下例
・腎機能低下例では用量の減量が勧められている
・本例ではCCr15-50にあるため,リバーロキサバンは15mg/日に減らすべきだった

・抗凝固薬使用例でのアスピリン使用は慎重さが要求される
・登録研究における大出血は,抗凝固薬抗血小板薬併用療法では抗凝固薬単独使用時の50%増加(1.8→3.0%,6ヶ月)
・併用療法の推奨は冠動脈ステント治療後12ヶ月まで
・安定した末梢血管疾患においては,抗凝固薬単独使用が勧められており,併用療法は利益に乏しく出血を増やす
・例外は機械弁症例だが,このときDAOCではなく,VKAが使用されるべき
・Steinbergらによれば心房細動患者の35%にアスピリンが併用されており,その40%は適応外
・本例でもアスピリンを減らすことが出血防止策となる

・DOACにモニターはいらないが,高齢者では緻密なフォローアップが必要
・受診時には腎機能,アドヒアランス,併用薬剤,副作用を確認
・本例では患者さんが自発的に用量を半分にしていたが,気付かれず→定期的な問診などによるレビューが出血を減らす

・DOACはVKAよりも数々のアドバンテージがあるけれども,現場ではいまだに試行錯誤の場合がある
・こうした文脈においては,従来通りの治療に価値がある
・この種のDOACを避けVKAを処方するような"less is more"(少ないことは多いこと)的なアプローチは,確立されたものではないが,説得力があり,エビデンス(腎機能評価,副作用のモニター,アスピリンの再検討)に基づくものである

### 非常に教訓的な症例です。

この症例,CCrが30未満なのに最大用量を出している時点でアウトです。添付文書上日本では10mg/日ですが,85歳以上でCCr30未満の方のエビデンスはROCKET-AFでもJ-ROCKETでも極めて少数かと思われます。

アピキサバン2.5mgx2を考える先生もおられるかもしれませんが,ここが問題で,いかに腎排泄が比較的少ないDOACであっても85歳以上の低用量使用のエビデンスはリバーロキサバン同様非常に少数だと思われます。

当院であればこの症例は最初からワルファリンでINR1.6〜2.0を目指すと思います。

DOAC全盛時代に入ろうとしていますが,この症例のように出血が意外に目立ち,他の薬剤への変更を余儀なくされる症例は当院のDOAC症例のうち過去4年間で約30%に認めております。多くは他のDOACに変更するか減量で出血は消えますが,すべてのDOACに転々と変更しても皮下出血を含む出血が消えず,最終的にワルファリンに戻した症例も数例診ています。

またアスピリン併用も高齢者では非常に厳しく考えるということもこの症例から学ぶべき点です。単にTIAらしきエピソードがあっただけで安易に出し続けていないか。安定狭心症に併用していないか。私が若い頃は,冠動脈疾患の一次予防でも何でもアスピリン礼賛の時代がありました。そうした方が未だに10年ー15年の長きに渡り漫然とアスピリンが出されていないか,再検討する必要があります。

Take Home messageとしてまとめてみます
1)高齢者,腎機能低下例では出血,腎機能,アドヒアランスについて緻密な問診や身体診察が大切(ワルファリンであっても)
2)高齢者,腎機能低下例では,DOACの安易な低用量処方ではなく,VKAによる慎重なINA管理が重要
3)ステント挿入12ヶ月(6ヶ月)以内の症例以外,高齢者での併用療法はすべきでなく,特にアスピリンの適応は適切に考える必要がある


$$$ 釣り好きな知り合いから閖上沖の釣りたてのイナダ(ブリの若魚)をおすそ分けしてもらいました。でもどうやってさばこう。。
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by dobashinaika | 2015-10-19 22:34 | 抗凝固療法:比較、使い分け | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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