発作性上室頻拍の止め方:2015年ACC/AHA/HRSガイドラインより:JACC誌
ACC/AHA/HRSから上室頻拍の管理に関する新しいガイドラインがでています。開業してからあまりお目にかかりませんが,それでも時に頻拍に出くわすとやや緊張します。
このへんでおさらいの意味で,急性期治療につきまとめてみます。
2015 ACC/AHA/HRS Guideline for the Management of Adult Patients With Supraventricular Tachycardia
A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Clinical Practice Guidelines and the Heart Rhythm Society
Richard L. Page et al
J Am Coll Cardiol. 2015;():. doi:10.1016/j.jacc.2015.08.856
まずは「上室頻拍(SVT)の定義」
・「頻拍」とは心房 and/or 心室拍数>100bpm
・SVT:ヒス束より上位が関与する頻拍
・inappropriate sinus tachycardia(不適切な洞性頻拍),心房頻拍(単一起源,多起源),マクロリエントリー心房頻拍(心房粗動),接合部性頻拍,AVNRT(房室結節リエントリー性頻拍),副伝導路の関与するリエントリー性頻拍
<発作性上室頻拍の定義>
・規則正しく速い頻拍。突然発症停止
・AVNRT,AVRT(房室リエントリー性頻拍),心房頻拍
<機序のわからない規則正しいSVTの急性期治療>
迷走神経操作 and/or アデノシン静注
↓
効果ない場合,行えない場合
↓
血行動態安定
↓
はい)β遮断薬,ジルチアゼム,ベラパミル静注→効果なし→カルディオバージョン
いいえ)カルディオバージョン
<迷走神経操作について:推奨度I,エビデンスレベルB-R>
・迷走神経操作(バルザルバ手技,頚動脈洞マッサージ)の迅速な施行はSVT停止の第一選択
・仰臥位で行う
・房室結節の関与しない頻拍には無効
・バルサルバ手技:ゴールドスタンダードな方法なし。一般には喉頭蓋を閉じての10〜30秒の息ごらえは胸痛内圧30〜40mmHG増加に相当
・頸動脈洞マッサージ:聴診による血管雑音のないことを確かめる。右または左の頸動脈を5〜10秒一定の圧力で押す
・他の方法:ダイビング反射(冷たい氷や濡れタオルを顔につける。検査室で回を10度の水に浸す
・148例の検討では,バルサルバ手技が頸動脈洞マッサージよりも効果的。複数主義による停止率27.7%
・眼球圧迫は危険でありすべきでない
<アデノシン静注:推奨度I,エビデンスレベルB-R>
・AVRT,AVNRTに対する停止率は78〜96%
・副作用として胸部不快感,息切れ,顔面紅潮などがあるが,超短時間作動なので,重篤なものはまれ
・心房粗動,心房頻拍との鑑別にも有用:アデノシンがこれらを止めることはまれ
・近位部からの急速静注+生食フラッシュが勧められる
・静注中は心電図を連続して取ることで診断にもつながる
<血行動態不安定時のカルディオバージョン:推奨度I,エビデンスレベルB-NR>
・迷走神経操作が失敗し,血行動態不安定であれば,速やかにカルディオバージョンを施行すべき
<血行動態安定時のカルディオバージョン:推奨度I,エビデンスレベルB-NR>
・SVT停止には極めて効果的
・全身鎮静あるいは麻酔下
・薬物静注で80〜98%は止まるとしても,まれに止まらないことがあるので,カルディオバージョンが必要な場合もある
<ジルチアゼム,ベラパミル静注:推奨度II-a,エビデンスレベルB-R>
・停止率:64〜98%
・あくまで血行動態安定時
・低血圧を招くことがあるので,20分程度の緩徐な静注が良い
・心室頻拍と早期興奮を伴う心房細動には禁忌
・β遮断薬が不適あるいはアデノシンで再発を繰り替えす場合にも有用
・収縮期心不全には不適
<β遮断薬静注:推奨度II-a,エビデンスレベルB-NR>
・エビデンスは限定的
・エスモロールとジルチアゼムではジルチアゼムが優る
・しかしながら,β遮断薬は安全で血行動態安定例での使用はリーズナブル
### SVTは,心室内変行伝導を伴う場合を除き,基本的に幅の狭い(120msec未満)QRSで規則正しい頻拍症です。そうした頻拍を見た場合,まず迷走神経操作を試みる。成功率は27%程度ながらこれで止まれば注射はいりません。
しかし一般的には止まらないことが多いので静注となります。専門医時代はアデノシンを躊躇なく使っていましたが,町医者としては患者さんに苦痛を与えることは忍びなくまた結構緊張するため,ほとんどベラパミルの静注を行っています。
当院では1Aを生食20CCにといて,まず半分を5分程度で静注し,その後数分観察,止まらなければもう5分かけて残りを入れます。血行動態が安定した若い人は5分で全部入れても良いと思われます。これで30分程度観察すると90%は止まると思われます。それでも止まらない場合は紹介します。
静注する前に血圧,心不全の有無を十分把握することが必須です。
$$$本日の夕焼け。怖いくらいに燃え盛りました。
このへんでおさらいの意味で,急性期治療につきまとめてみます。
2015 ACC/AHA/HRS Guideline for the Management of Adult Patients With Supraventricular Tachycardia
A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Clinical Practice Guidelines and the Heart Rhythm Society
Richard L. Page et al
J Am Coll Cardiol. 2015;():. doi:10.1016/j.jacc.2015.08.856
まずは「上室頻拍(SVT)の定義」
・「頻拍」とは心房 and/or 心室拍数>100bpm
・SVT:ヒス束より上位が関与する頻拍
・inappropriate sinus tachycardia(不適切な洞性頻拍),心房頻拍(単一起源,多起源),マクロリエントリー心房頻拍(心房粗動),接合部性頻拍,AVNRT(房室結節リエントリー性頻拍),副伝導路の関与するリエントリー性頻拍
<発作性上室頻拍の定義>
・規則正しく速い頻拍。突然発症停止
・AVNRT,AVRT(房室リエントリー性頻拍),心房頻拍
<機序のわからない規則正しいSVTの急性期治療>
迷走神経操作 and/or アデノシン静注
↓
効果ない場合,行えない場合
↓
血行動態安定
↓
はい)β遮断薬,ジルチアゼム,ベラパミル静注→効果なし→カルディオバージョン
いいえ)カルディオバージョン
<迷走神経操作について:推奨度I,エビデンスレベルB-R>
・迷走神経操作(バルザルバ手技,頚動脈洞マッサージ)の迅速な施行はSVT停止の第一選択
・仰臥位で行う
・房室結節の関与しない頻拍には無効
・バルサルバ手技:ゴールドスタンダードな方法なし。一般には喉頭蓋を閉じての10〜30秒の息ごらえは胸痛内圧30〜40mmHG増加に相当
・頸動脈洞マッサージ:聴診による血管雑音のないことを確かめる。右または左の頸動脈を5〜10秒一定の圧力で押す
・他の方法:ダイビング反射(冷たい氷や濡れタオルを顔につける。検査室で回を10度の水に浸す
・148例の検討では,バルサルバ手技が頸動脈洞マッサージよりも効果的。複数主義による停止率27.7%
・眼球圧迫は危険でありすべきでない
<アデノシン静注:推奨度I,エビデンスレベルB-R>
・AVRT,AVNRTに対する停止率は78〜96%
・副作用として胸部不快感,息切れ,顔面紅潮などがあるが,超短時間作動なので,重篤なものはまれ
・心房粗動,心房頻拍との鑑別にも有用:アデノシンがこれらを止めることはまれ
・近位部からの急速静注+生食フラッシュが勧められる
・静注中は心電図を連続して取ることで診断にもつながる
<血行動態不安定時のカルディオバージョン:推奨度I,エビデンスレベルB-NR>
・迷走神経操作が失敗し,血行動態不安定であれば,速やかにカルディオバージョンを施行すべき
<血行動態安定時のカルディオバージョン:推奨度I,エビデンスレベルB-NR>
・SVT停止には極めて効果的
・全身鎮静あるいは麻酔下
・薬物静注で80〜98%は止まるとしても,まれに止まらないことがあるので,カルディオバージョンが必要な場合もある
<ジルチアゼム,ベラパミル静注:推奨度II-a,エビデンスレベルB-R>
・停止率:64〜98%
・あくまで血行動態安定時
・低血圧を招くことがあるので,20分程度の緩徐な静注が良い
・心室頻拍と早期興奮を伴う心房細動には禁忌
・β遮断薬が不適あるいはアデノシンで再発を繰り替えす場合にも有用
・収縮期心不全には不適
<β遮断薬静注:推奨度II-a,エビデンスレベルB-NR>
・エビデンスは限定的
・エスモロールとジルチアゼムではジルチアゼムが優る
・しかしながら,β遮断薬は安全で血行動態安定例での使用はリーズナブル
### SVTは,心室内変行伝導を伴う場合を除き,基本的に幅の狭い(120msec未満)QRSで規則正しい頻拍症です。そうした頻拍を見た場合,まず迷走神経操作を試みる。成功率は27%程度ながらこれで止まれば注射はいりません。
しかし一般的には止まらないことが多いので静注となります。専門医時代はアデノシンを躊躇なく使っていましたが,町医者としては患者さんに苦痛を与えることは忍びなくまた結構緊張するため,ほとんどベラパミルの静注を行っています。
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by dobashinaika
| 2015-10-10 22:34
| 不整脈全般
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土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。
by dobashinaika
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筆者は、2013年4月以降、ブログ内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません
●医療法人土橋内科医院
●日経メディカルオンライン連載「プライマリケア医のための心房細動入門リターンズ」
●ケアネット連載「Dr,小田倉の心房細動な日々〜ダイジェスト版〜」
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