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ジゴキシンの安全性と効果に関する400万人年対象のシステマティックレビュー&メタ解析:BMJ誌

Safety and efficacy of digoxin: systematic review and meta-analysis of observational and controlled trial data
BMJ 2015;351:h4451


目的:すべての観察研究とRCTを通じてジゴキシンの死亡と臨床アウトカムに関するインパクトを明らかにする

方法;1960年から2014年までの出版されたジゴキシンvsコントロール比較のすべての論文を包括的にサーチ

データ合成:研究デザイン,解析方法,出版バイアスなどを補正していないまたは補正されたデータ

アウトカム:一次アウトカム=全死亡,二次アウトカム=入院:ランダム効果モデル

結果:
1)システマティックレビュー:52研究,621,845人

2)ジゴキシン群は対照群より2.4歳高齢,左室EFは低め(33%vs42%),糖尿病,利尿薬,抗不整脈薬使用が多い

3)メタ解析:75件研究,40,062,10人年

4)全死亡(ジゴキシンの対照群に対するpooled risk比):非補正1.75(1.57−1.97),補正1.61(1.31−1.97),プロペンシティースコア補正1.18(1.09−1.26),RCT0.99 (0.93-1.05)

5)メタ回帰分析は,ベースラインの差異がジゴキシン群の死亡率に明らかに関係していることを示している

6)特に利尿薬を使うような心不全の重症度が影響していた:p=0.0004

7)よりよい方法とバイアスの少ない研究ではジゴキシン群の死亡率はよりニュートラルに近くなった;P<0.001

8)すべての研究タイプを越えてジゴキシンはわずかだが統計上明らかな入院の減少をもたらした:リスク比0.92(0.89−0.95),p=0.001

結論:ジゴキシンはRCTにおいては,死亡率において対照群と同等の効果であり,すべての研究タイプで入院リスクは減少させた。統計解析にかかわらず,処方バイアスが観察研究の価値を制限する。

### うわ。そういうことだったんですか。Lip先生のグループからですが,最近のジゴキシン劣勢を覆すかのようなメタ解析結果が出てしまっています。例えば最近のEHJのメタ解析はハザード比1.21でジゴキシン群で明らかに死亡率が多いって言っています。
http://dobashin.exblog.jp/21197269/
でもこれ観察研究も含んでのデータなんですね。あと最近出ているジゴキシン不利のデータも実は大きな研究のサブ解析が多いのです。

一方本メタ解析は75研究400万人年対象です(EHJは19研究)。
そして上記のバイアスが少なくなるほど,ジゴシンと対照群との差は縮まることが示されています。これは選択バイアス,つまりジゴキシンを処方されるような人は心不全(利尿薬使用)が特に多く,それだけ重症だから処方していることに起因しているとしています。
ジゴキシンの安全性と効果に関する400万人年対象のシステマティックレビュー&メタ解析:BMJ誌_a0119856_18385439.gif


こういう研究を見せられると,メタ解析においても十分な批判的吟味をしないと確かなことは言えないということを実感させられます。

最後のシェーマが非常に教訓的ですね。心房細動単独例だとやはりなんとも言えない,しかし心不全がからんでいる場合や心不全単独の場合はやはり使用を考えて良いということが示唆されています。心不全合併心房細動ではβ遮断薬も使いにくいのですがかと言って最近の趨勢でジゴキシンもどうかなと思っていましたが,少し自信が持てます。
ジゴキシンの安全性と効果に関する400万人年対象のシステマティックレビュー&メタ解析:BMJ誌_a0119856_18391643.gif


$$$ 当院の掲示板の月替りポスターメニュー。先週まで貼っていましたが,誰も見向きもしていませんでした,こう寒くては。ストーブをつけたと仰る患者さんも多数です。早々に撤去です。
ジゴキシンの安全性と効果に関する400万人年対象のシステマティックレビュー&メタ解析:BMJ誌_a0119856_18394122.jpg

by dobashinaika | 2015-08-31 18:45 | 心房細動:ダウンストリーム治療 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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