心房細動患者の手術時ヘパリンブリッジの血栓塞栓率は非施行群と同じ。出血は多い:NEJM誌RCT
Perioperative Bridging Anticoagulation in Patients with Atrial Fibrillation
James D. Douketis et al
NEJM June 22, 2015
背景:心房細動患者の待機手術時、抗凝固療法のブリッジングは必要かどうか不明。抗凝固ブリッジング非施行が血栓塞栓症において、低分子ヘパリンブリッジングに非劣性かつ出血において優位であるとの仮説を立てた。
方法:
P:心房細動でワルファリンが投与されたす周術期の患者
E:低分子ヘパリン(100IU/kg)ブリッジング:1日2回術前24時間まで3日間および術後5〜10日
C:偽薬
O:動脈血栓塞栓症(脳卒中/全身性塞栓症/TIA)、大出血:術後30日追跡
T:RCT
結果:
1)1884人。非施行群934例、ブリッジ群950例、
2)血栓塞栓症:非施行群0.4%、ブリッジ群0.3%:P=0.01(非劣性)
3)大出血:非施行群1,3%、ブリッジ群3.2%:P=0.005(優位性)
結論:待機的手術のためにワルファリンを中止した心房細動患者において、ブリッジング非施行は低分子ヘパリンブリッジに比べて、血栓塞栓症においては非劣性かつ出血は減少させた。
### ついにでたという感じです。RCTです。これまではサブ解析や観察研究だけでした。
http://dobashin.exblog.jp/20530181/
患者背景ですが、両群とも平均年齢71〜72歳、CHADS2スコア2.3〜2.4点。術前中止期間は両群とも5.2日。術後開始は平均1.5日。消化器系手術が44%、心胸郭系手術17.2%、整形外科手術9.2%。89.4%は低出血リスク手術でした。
もっと具体的に見ると、消化器内視鏡、心臓カテーテル、歯科、皮膚、白内障、腹腔内臓器切除、肺切除、整形外科、末梢血管血管、泌尿器領域、心臓ペースメーカーなどです。
ただサプリメンタリーをよく読むと手術手技には消化器内視鏡が多く含まれていて、大手術の症例数は全体としては90例ずつくらいと少ないところは要注意かと思われます。
抗凝固療法が周術期の血栓塞栓症に無関係な理由として筆者は、手術手技自体や術中血圧の要素のほうが大きいことを指摘しています。またワルファリン中止のリバウンドによる過凝固とヘパリンによるその抑制効果はこの研究によって支持されなくなったと述べています。
研究の限界としては、CHADS2スコア5〜6点の高リスク例が少ない。頸動脈剥離術、大きながんの手術、心臓手術、脳手術が含まれていない。血栓塞栓症イベントがそもそも少ない。等が挙げられています。
そうですねー。ワルファリンやめたときの実際の血栓塞栓症は、ヘパリンで予防されるのでなく、手術手技それ自体や血圧で決まると考えるのは妥当かもしれませんkudorね。
ただ、大手術や高リスク例まで全部に当てはめるまでには至っていないようです。更に大きな手術のみでもRCTが出れば完璧ですが。
でもたとえばESCなどは、この論文が出たことで少なくとも一般的な手術でのヘパリンブリッジは「勧められない」とするステートメントなどを速いうちに出すような気がします。医学常識はこうして変わっていくのですねー。
$$$ご近所の立葵。元気に立位を保っています。

James D. Douketis et al
NEJM June 22, 2015
背景:心房細動患者の待機手術時、抗凝固療法のブリッジングは必要かどうか不明。抗凝固ブリッジング非施行が血栓塞栓症において、低分子ヘパリンブリッジングに非劣性かつ出血において優位であるとの仮説を立てた。
方法:
P:心房細動でワルファリンが投与されたす周術期の患者
E:低分子ヘパリン(100IU/kg)ブリッジング:1日2回術前24時間まで3日間および術後5〜10日
C:偽薬
O:動脈血栓塞栓症(脳卒中/全身性塞栓症/TIA)、大出血:術後30日追跡
T:RCT
結果:
1)1884人。非施行群934例、ブリッジ群950例、
2)血栓塞栓症:非施行群0.4%、ブリッジ群0.3%:P=0.01(非劣性)
3)大出血:非施行群1,3%、ブリッジ群3.2%:P=0.005(優位性)
結論:待機的手術のためにワルファリンを中止した心房細動患者において、ブリッジング非施行は低分子ヘパリンブリッジに比べて、血栓塞栓症においては非劣性かつ出血は減少させた。
### ついにでたという感じです。RCTです。これまではサブ解析や観察研究だけでした。
http://dobashin.exblog.jp/20530181/
患者背景ですが、両群とも平均年齢71〜72歳、CHADS2スコア2.3〜2.4点。術前中止期間は両群とも5.2日。術後開始は平均1.5日。消化器系手術が44%、心胸郭系手術17.2%、整形外科手術9.2%。89.4%は低出血リスク手術でした。
もっと具体的に見ると、消化器内視鏡、心臓カテーテル、歯科、皮膚、白内障、腹腔内臓器切除、肺切除、整形外科、末梢血管血管、泌尿器領域、心臓ペースメーカーなどです。
ただサプリメンタリーをよく読むと手術手技には消化器内視鏡が多く含まれていて、大手術の症例数は全体としては90例ずつくらいと少ないところは要注意かと思われます。
抗凝固療法が周術期の血栓塞栓症に無関係な理由として筆者は、手術手技自体や術中血圧の要素のほうが大きいことを指摘しています。またワルファリン中止のリバウンドによる過凝固とヘパリンによるその抑制効果はこの研究によって支持されなくなったと述べています。
研究の限界としては、CHADS2スコア5〜6点の高リスク例が少ない。頸動脈剥離術、大きながんの手術、心臓手術、脳手術が含まれていない。血栓塞栓症イベントがそもそも少ない。等が挙げられています。
そうですねー。ワルファリンやめたときの実際の血栓塞栓症は、ヘパリンで予防されるのでなく、手術手技それ自体や血圧で決まると考えるのは妥当かもしれませんkudorね。
ただ、大手術や高リスク例まで全部に当てはめるまでには至っていないようです。更に大きな手術のみでもRCTが出れば完璧ですが。
でもたとえばESCなどは、この論文が出たことで少なくとも一般的な手術でのヘパリンブリッジは「勧められない」とするステートメントなどを速いうちに出すような気がします。医学常識はこうして変わっていくのですねー。
$$$ご近所の立葵。元気に立位を保っています。

by dobashinaika
| 2015-06-24 21:45
| 抗凝固療法:抜歯、内視鏡、手術
|
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土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。
by dobashinaika
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筆者は、2013年4月以降、ブログ内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません
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