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日本の患者は、抗凝固薬による出血を米国の患者ほど怖がらず,医師が考えるよりも寛容

Comparing Patient and Physician Risk Tolerance for Bleeding Events Associated with Anticoagulants in Atrial Fibrillation— evidence from the United States and Japan
Ken Okumura, et al
VALUE IN HEALTH REGIONAL ISSUES 6C (2015) 65–72
http://www.ispor.org/preference-based-assessment_atrial-fibrillation_US_Japan.pdf

目的:抗凝固療法のリスクとベネフィットの感じ方の定量化、及びこのことが患者と医師とで国別にどう違うかについて検討

方法
・直接選択実験を施行
・抗凝固薬のベネフィットとリスクに対する選好の差異を検討

結果:
1)米国:患者186人、医師107人。日本:患者162人、医師164人

2)日本の患者は米国より出血リスクを嫌がらない

3)両国の医師共に障害の残る脳梗塞と残らない脳卒中を区別しない

4)米国の患者は、出血リスクが障害の残らない脳梗塞予防の結果である時でも、臨床上有意な出血に、医師ほど寛容ではない

5)日本の患者は、上記の場合医師よりも寛容である
日本の患者は、抗凝固薬による出血を米国の患者ほど怖がらず,医師が考えるよりも寛容_a0119856_223258.png


結論:全体に米国においては、患者−医師間で抗凝固薬のベネフィットとリスクに対する価値観は統計上有意な違いはなかった。両国とも医師の間では、脳卒中別にリスクの捉え方に違いはなかった。しかし日本では患者と医師の間では違いが見られた。

### 実データですが、何種類かのバーチャル患者のプロフィールを見て、全死亡を1とした時、例えば後遺症のない脳梗塞はいくつくらいのインパクトなのかを点数付けします。後遺症のない脳梗塞2人と死亡1人が吊り合う印象であれば、後遺症のない脳梗塞は0.5となります。

まず例えば頭蓋外出血ですが、米国の患者が0.92に対し、日本の患者は0.24です。臨床的に有意な小出血も米国0.29に対し日本はなんと0.06でした。
また脳梗塞でも、後遺症の残る脳梗塞の場合、米国患者は1.68でなんと死亡よりもインパクトが高いですが、日本の患者は0.62でした。

更に医師ー患者のリスクの捉え方の差異については、後遺症のある脳梗塞を1%減らすのに見合う出血リスクで評価した場合、米国はだいたい同じだったのに対し、日本は小出血については医師が3%程度なのに対し患者は11%くらいと、非常に出血に対して寛容である基質が浮き彫りになっています。

実に興味深いですね。日本の患者は多少の出血に対してもあまり米国ほど嫌がらない(梗塞に対しても)、しかも医師が考えているよりも、ということです。ある意味医師が選んだ治療について、出血というリスクに抗することなく忠実に遂行するイメージが浮かび上がります。

私は、日本人はもっとリスクに対して警戒心が強く、米国のほうが多少のリスクを犯しても脳梗塞予防の実を取る気質があるのかと思っていました。「出血」という現象に対する捉え方の違いかもしれません。

当然、質問の聞き方などにも左右されます。日本人はそもそもこうしたバーチャルなリスクというものに対しての実感がわかないというか、バーチャルと自分を重ね合わせることをあまり深く考えないからという考察も可能かもしれません。

とにかく、リスク、出血、といったものに対する捉え方に日米でかなり違いがあるようで、もっと考察してみようと思います。

$$$今日のにゃんこ。このネコが堂々としてたてがみが立派でした。思わずひれ伏しそう。
日本の患者は、抗凝固薬による出血を米国の患者ほど怖がらず,医師が考えるよりも寛容_a0119856_2219912.jpg

by dobashinaika | 2015-06-08 22:20 | 抗凝固療法:全般 | Comments(2)
Commented by 心配性 at 2015-06-09 06:36 x
脳梗塞を起こしているから議長という大役を降りると、1か月前に会見した大きい梗塞を示す神経脱落症状のない大物政治家が、1か月後、脳梗塞を起こして死亡しました。わが国の脳梗塞の治療がここまで無力だとはわたしは思わない。何も情報がありませんが、多分心房細動そして梗塞予防薬、NOACの投与で致命的な大出血を起こして死亡したと考えると今回の転帰がよく理解できます。梗塞治療中に死に直結する大梗塞を起こすとは考えにくい。麻痺が残ったり、植物人間になることはあるでしょうが。先生のニュートラルな抗凝固療法に関する解説をこれからも期待します。患者の正しい治療方針選択のためにも。
Commented by dobashinaika at 2015-06-29 18:35
コメントありがとうございます。これからもご愛読いただけるよう努力いたします。


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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