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PCI前の出血リスク評価が出血回避策施行と出血率低下につながる:BMJのある意味画期的な論文

Precision medicine to improve use of bleeding avoidance strategies and reduce bleeding in patients undergoing percutaneous coronary intervention: prospective cohort study before and after implementation of personalized bleeding risks.
John A Spertus et al
BMJ (Clinical research ed.). 2015;350;h1302. doi: 10.1136/bmj.h1302.


目的:経皮的冠動脈形成術(PCI)施行患者において事前の出血リスク評価が、出血回避策実施の改善及び出血減少につながるかどうかを検証

デザイン:リスク層別化前後で、出血回避策施行の有無と出血率を比較する前向きコホート研究

セッティング:米国の9病院

参加者:ST上昇型心筋梗塞(STEMI)でPCI予定の患者

主要評価項目:出血リスク層別化ごとに出血回避策としてbivalirudin投与、撓骨動脈アプローチ、血管閉鎖デバイスの使用。周術期の出血率。対照群はリスク層別化を思考していない1135病院のプールデータ。出血回避策についても病院レベル、医師のレベルの多様性も評価

結果:
1)術前評価非施行例7408例、施行例3529例

2)手術部位出血回避策実施率:評価施行例の日施行例に対するオッズ比:1.81 (1.44-2.27)

3)高リスク患者の実施率増加(オッズ比2.03)は低リスク患者(オッズ比1.41)より有意に大

4)手術部位の出血:評価施行例1.0% vs. 非施行令1,7%:オッズ比0.56(0.40〜0.78)
PCI前の出血リスク評価が出血回避策施行と出血率低下につながる:BMJのある意味画期的な論文_a0119856_2291350.gif

5)出血率低下は高リスク例ほど顕著

6)出血回避策は病院間、医師間でばらつきが大きい。

結論:事前の前向きで個別の出血リスク評価は出血回避策施行率上昇及び出血率低下に関連した。病院間、医師間の格差はそれの是正、安全性、ケアの室改善の重要性を示唆している。

### あえてPCI関連の論文を取り上げましたが、この論文、ある意味画期的でおそらく最近では最もインパクトのある論文と言っても過言ではないと個人的に考えましたので、取り上げました(日本循環器学会で香坂先生も"記念碑的"とおっしゃっておられました)。

さらっと読むと、出血リスクの評価をしたほうが、しない場合に比べて、出血への対策をきちんとするので出血率も下がるというもので、当然かと思われます。しかしよく考えますと、実際に、事前のリスク評価を行う群と行わなかった群とを比較して、その評価が医師の行動変容を促し、なおかつアウトカムを良くしたというような検証研究はこれまでそうそうないと思われます。

たとえば心房細動。CHADS2スコアあるいは出血リスクですとHAS-BLEDスコアですが、こうしたスコアは各種ガイドラインでも全面的に推奨されていますが、実際は点数別の塞栓率とか出血率しか明らかではありません。しかも対象は元論文のコホートのみです。実際にCHADS2スコアを使った群と使わずに経験的に行った群とを比較して、抗凝固療法の施行実施率及び塞栓、出血率などのアウトカムを比較した研究は皆無と思われます。

CHADS2スコアを無視して抗凝固をしたら、絶対塞栓症も出血率も増えると思われるかもしれませんが、しかしながら、最近のの日本の大規模コホートでは、必ずしも低リスク例の血栓塞栓率が高くないことが示されています。昔のデータで算出されたCHADS2スコアが、今の日本でどの程度アウトカムに寄与しているのか、実はわかっていないとも思われます。

高血圧ガイドラインにしても、血清脂質のガイドラインにしても同じで、血圧やLDLコレステロール値がこのくらいの集団の予後はどの程度というのは算出されていますし、また降圧薬やスタチンでここまで下げるとアウトカムはこのくらいというのもエビデンスとして出されることはあります。しかしながら、治療前のリスク評価が医師の処方内容に影響し、しかもアウトカムを良くしたという、リスク評価の有効性の検証が行われたことは稀有のように思われます。

それにしてもこのグラフは非常に印象的です。リスクをきちんと評価した場合は、低リスクで抗凝固薬を使用せず高リスクで使用する医師が増えている一方、最初から最後まで全く使わない、あるいはかならず使う医師が一定数いることも示しています。
PCI前の出血リスク評価が出血回避策施行と出血率低下につながる:BMJのある意味画期的な論文_a0119856_2210185.gif

実際問題として、この病院間、医師間のばらつきが最大の問題かと思われます。

最近特にCHADS2スコアの特に低リスクでの(日本での)妥当性に問題意識を持っているところなので、こうしたリスク層別化の検証は大切であるなあと再認識しました。

$$$ こちら今日昭和の日のあおば通。いよいよ新緑。杜の都が一番輝く季節がやって来ました。
PCI前の出血リスク評価が出血回避策施行と出血率低下につながる:BMJのある意味画期的な論文_a0119856_22105227.jpg

by dobashinaika | 2015-04-29 22:12 | 虚血性心疾患 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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