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共病記(12)〜医者が患者になった時〜:医療とは”リハビリテーション”である。

前回(2月12日)から、だいぶたってしまい、もう記憶も薄れかけてはいるのですが、昨年夏の病気(椎骨動脈解離+小脳梗塞)でどうしても、書いておきたいことがあったので、ようやくではありますが、重い筆(キーボード)を執ることにしました。

入院後ちょうど1週間で、点滴と尿道カテーテルが外れ、晴れて自由の?身になったのですが、その日の朝(8月15日)は、まだ到底立つことは無理だろうなと思っていました。かなりグラグラがなくなったとはいえ、まだまっすぐより左に首を向けると高速ランダムめまいが襲ってきました。ベッドを60度位までギャッジアップしてなんとか座っていられるようにはなりましたが、まだとても不安です。こんなので立てるわけないよナー、あと1週間はねたままかなーと思っていました。

ところが、午後になり、リハビリの先生(理学療法士)の病室訪問とともに、そうした懸念は見事に打ち砕かれました。
主治医に今日からリハだとは知らされてはいましたが、まず寝ながらの手足の運動などだろうと思っていたのです。

ところが、リハの先生は2、3回、臥位で足や手を他動的に動かしたあと、すぐに「ベッドの脇に座ってみましょう」とおっしゃたのです。
一瞬耳を疑ったわけですが、先生の目は確信に満ちた感じだったので、釣られるように、ゆっくりではありますが、ベッドの柵をささえに、まずベッドの上に座り、その後向きを90度変え、ベッドの縁におしりをおき、足を床におろしました。
これだけの一連の動作ですが、時に頭がグラつくものの、なんとかベッドの縁には座れるようになっていました。

これだけでも驚きでしたが、先生は、さらに「ではこのままちょっと立ってみましょうか」とおっしゃったのです。
やっぱりかなり冒険的な言葉ではありましたが、ベッドに自分の力で座れた今となっては、「あれ、できそうかも」という感じでした。
そしてやはりベッド柵を手をしっかり握り、ゆっくり足を伸ばしました。
すると。。想像以上に体が軽く感じられ、ふわっと体に羽が生えたような、いやなにか見えない力のようなもので背中が持ち上げられるような感じで、立てのです。もちろん頭はフラフラするし左に向くのは恐怖でしたが、それでもなんとか二本足でアームストロング船長のように?立つことができたのです。

この時の先生の確信に満ちた笑顔を忘れることはできません。そして単に自分が自分の力で、自分の足で立てたのだという、ただそれだけのことなのに、病気をする前だったら当たり前の単なる立つという動作なのに、自力で立てたことそのものに深く静かに感動しました。
ただ一人で立つという、健常者だったら当たり前のことそのことに無上の喜びを感じることができる。これがリハビリの力だと思います。

その後の2週間は、土日を除いて毎日1時間、病院一階の理学療法室に通いました。最初の1周間は看護師さんに車イスを押してもらい、最後の1週間は自力で車いすで行くようになりました。リハは、平行棒を使っての歩行、ベッドの上でのバランスボールなどから、後半は先生を伴っての歩行などでしたが、極めて順調に経過し、入院約3週間で、8月の最後に退院出来ました。

入院中、見舞ってくれた同級生の精神科医からすすめられてオリバー・サックスの「左足をとりもどすまで」という本を読みました。オリバー・サックスは有名な脳外科医ですが、山中で転落事故にあい、手術によって傷は癒えましたが、左足の麻痺及び知覚が全くなくなり、自分のものであるとは感じられなくなってしまいました。「患者」としての内面世界を垣間見るのに素晴らしい本ですが、その中で左足の感覚が戻ってくるときの感動的なシーンが綴られています。興味深いことに、左足が充電され生き返った感覚が訪れた時に聞こえてきたのが、それまであまり熱狂的なファンでもなかったメンデルスゾーンのバイオリン協奏曲だったのです。

ほとんど同じような経験が、私にもありました。退院したとはいえ、外へ出かけるのはかなり困難と感じていた時期、仙台で毎年初秋に行われるジャズ・フェスにはちょっと行きたいと思っていて、1日だけ天候の良い時に出かけました。まだ立って音楽を長く聴くことはままならないので、座れる会場を選んでそれでも1時間位で帰ろうとしたその時です。初秋の心地よい風とともに、なんとも自然な感じの、空気に溶けこむような歌声が聞こえてきました。

西公園にある、人がたくさん集まる特別な会場でしたが、後ろのほうで当然立って聞かざるを得ない状況で、そのどこまでの伸びていくような歌声に釘付けとな、1時間近くめまいや足の震えを感じることなく、その歌手の歌を聞き入ってしまったのです。そのときは歌手の名前もよくわかりませんでしたが、あとでパンフを見たらBirdという女性ボーカルの方でした。普段、あまり聴くことのないジャンルだったにもかかわらず、何故か心の中にいつのまにか自然に入ってきて、しかも自分が1時間近くも立っていられたことに非常に驚きました。

思うに、人間が病気から回復するとき、もちろん徐々に快方へと向かうわけですが、もしかるすと一歩一歩良くなるというのでなくて、何かをきっかけにして急にジャンプアップするものなのだ、「回復」とはそういうものなのだと思ったのです。あるいは回復でなくても良いかもしれません。自転車の運転でも、浅田真央選手のトリプルアクセルでもかまいません。それまで到底できないと思うことができるという時、その福音はあるとき突然、それまでとは不連続な形式でもって、ジャンプアップの形で舞い降りてくるように思うのです。

そしてそのきっかけに何か音楽とか、外部の啓示みたいなものが後押しするのではないか、今回の経験でそんな風に思えました。

では、なぜ人間の体が回復するとき「突然に」良くなったとおもうのでしょうか? それは人間が病気から回復するとき、その回復の目安(指標)を「立てる」「支えなしで歩ける」「思うように仕事ができる」などのように「〜ができる」という「機能の回復」というものに設定しているからだと思うのです。

機能の回復という視点で見れば、「〜ができる」か「できない」かは二者択一になります。目に見える形での評価法が採用されているわけです。白黒がはっきりしていますので、そのことが「できた」ときには、突然出来たように思うわけです。実際は「できる」までには体の各機能が連続変数で上昇しているわけで、そのことはリハ中にも実感できるわけではありますが、でも「立てた」ということそのことは、それまでの立てなかった時とは何百倍かの飛躍感を持って心に残るのです。

私たちは「病気が治った」というとき、どういう身体の「機能」を念頭に置き、目的として設定しているのかによって病気からの「回復感」は大きく変わります。病気の前に100%戻ることなのか、ある程度のところで折り合いをつけるのか。軽度な機能低下なら良いのですが、障害が重いほど、病気前への完全な回復は難しくなります。特に「老い」がその原因の根底にある病気の場合100%の機能回復はできないことのほうが多いでしょう。このようなとき、そのゴールをどこに設定するのか、このへんでよしとするのか。100%の正常化を望むのではなく、その都度その都度の状態をその時点での「最適なもの」として受け入れられるのか、否か。この葛藤が「病気を生きる」ということかもしれません。

結局のところ病気と向き合うということは、その都度の状態をいかに最適なものとして「感じ」「受け止められるか」ということにかかってきます。病気が「治る」ということ、あるいは病気からの回復とは「正常化」ではなく「最適化」です。

前回の「2人の自分」に即して言えば、痛み苦しみをかんじている「身体のじぶん」の変化を「言葉のじぶん」がどのあたりでよしとして受け入れられるか。めまいがひどいけれども、このくらいのことができればそれでいいと思う「このくらい」のレベルを、「言葉のじぶん」がどの辺りに設定し了解するか。

医療の役割とは、そのゴールをなるべく病気の前の状態に近づくように高めることがひとつですが、もうひとつ、低めのゴールであっても、それがその時点での最適なものとして受け入れらるような環境を患者さんの周囲に作ることも、また大きな役割のように思います。

リハビリテーションの語源を見てみましょう。ラテン語でre(再び) - habiris(適した)。つまり再び「適した」状態になることを意味しています。そうです。医療とは広い意味でリハビリテーションそのものなのです。


$$$ 昨日の桜、今朝はここまで開花しました。そして夕方にはもっと花開いていました。桜の開花というのも、不意に突然開いてそのあと急速に、、という感じのように思えますね。
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by dobashinaika | 2015-04-07 00:28 | 医者が患者になった時 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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