新しいガイドラインにより抗凝固薬の適応が増えるのは良いことなのか?:JAMAIM
Effect of the 2014 Atrial Fibrillation Guideline Revisions on the Proportion of Patients Recommended for Oral Anticoagulation
Emily C. O’Brien et al
JAMA Internal Medicine Published online March 2, 2015
目的:米国の新しい心房細動ガイドライン(2014)は抗凝固療法にどのような影響を及ぼしたのか
方法:
・米国176カ所の18歳以上の外来心房細動患者の登録研究(ORBIT-AF)
・一次アウトカム:2011年、2014年のそれぞれのガイドラインにおけるベースラインの抗凝固療法推奨患者率
・2011ではCHADS2スコア、2014年ではCHA2DS2-VAScスコアが採用されておりこの点を考慮
・特に65歳と性別に注目
結果:
1)2010年5月〜2012年8月。10,132例:平均75歳
2)抗凝固療法を勧められた患者割合:2011年71.8%→2014年90.8% ; P<0.001
3)65歳未満:43.1%→60.6%、65歳以上:79.1%→98.6%
4)女性:76.7%→97.7%
5)新たに推奨となった1936例中1つのリスク因子で推奨となった例:43.6%、2つ:49.5%、3つ:6.9%
6)「年齢」での新たな推奨は81.4%、「血管疾患」は35.1%
7)1つのリスク因子だけで追加となった人の因子:女性20.7%、年齢63.8%、血管疾患15.5%
8)新基準により新たに抗凝固療法の推奨となる患者は増加し、あらたに988500人が推奨とされた
結論:以前のガイドラインでは推奨されなかった患者のうち3分の2が、2014ガイドラインで新たに推奨とされた。今後の研究により評価される。
### 新たに推奨となるのはCHADS2で75歳以上だったのがCHA2DS2-VAScで65歳以上になったことで増えたひとだったいうことですね。
このレターはDuke大学のそれこそリサーチ当事者(COI数社あり)のものですが、興味深いのはこれに対するUCSFの先生(COIなし)からのInvited Commetaryです。このように適応が増えたことは"Is this a good thing?" 「本当にいいことなの?」と疑問を呈しています。
ガイドラインと現実世界とのギャップが深まるのでは?と疑念が呈され、例として「66歳女性」はこれまでノーリスクとされていたのがこれからは高リスクになることをあげています。
疑念の根拠として以下が挙げられています。
・CHADS2スコアもCHA2DS2-VAScスコアもそのc統計量は同等で、しかもそれほど高くない
・両スコアの根拠となる年間脳梗塞発症率は以前のものであり、現在その発症率は、昨今の強力な治療により以前より低くなっている
そしてあるリスク評価のスキームから別のスキームに変更する根拠はない、脳梗塞は低くなるだろうが出血も増えるだろうと訴えています。
結論として、まだ新ガイドラインを現実世界に当てはめるには根拠欠如であり、リスクとベネフィットのバランスを考え、コストベネフットも加味した視点を提案してます。
昨日に続いて、NOAC隆盛、適応拡大隆盛の風潮に水を指すような、釘を差すような言説です。
私には至極真っ当なコメントのように思われます。CHADS2スコアの元論文は古いです。最近出た日本のpooled analysisiの脳梗塞発症率もかなり低率です(これ自体も鵜呑みにはできませんが)。個人的に、最近は、次のガイドラインではまた新たなスコアで適応を再検討した方がいいかなあという感じがしています。その時はそうですね、HA2S2スコアくらいになってるかも。。。ちがうかな。
この論文とコメンタリーの筆者のCOIの差異もひとつのヒントかもしれません。
$$$ 近くの散歩道の街路樹(金木犀?)。ほんの少しですが芽吹き始めてました。

Emily C. O’Brien et al
JAMA Internal Medicine Published online March 2, 2015
目的:米国の新しい心房細動ガイドライン(2014)は抗凝固療法にどのような影響を及ぼしたのか
方法:
・米国176カ所の18歳以上の外来心房細動患者の登録研究(ORBIT-AF)
・一次アウトカム:2011年、2014年のそれぞれのガイドラインにおけるベースラインの抗凝固療法推奨患者率
・2011ではCHADS2スコア、2014年ではCHA2DS2-VAScスコアが採用されておりこの点を考慮
・特に65歳と性別に注目
結果:
1)2010年5月〜2012年8月。10,132例:平均75歳
2)抗凝固療法を勧められた患者割合:2011年71.8%→2014年90.8% ; P<0.001
3)65歳未満:43.1%→60.6%、65歳以上:79.1%→98.6%
4)女性:76.7%→97.7%
5)新たに推奨となった1936例中1つのリスク因子で推奨となった例:43.6%、2つ:49.5%、3つ:6.9%
6)「年齢」での新たな推奨は81.4%、「血管疾患」は35.1%
7)1つのリスク因子だけで追加となった人の因子:女性20.7%、年齢63.8%、血管疾患15.5%
8)新基準により新たに抗凝固療法の推奨となる患者は増加し、あらたに988500人が推奨とされた
結論:以前のガイドラインでは推奨されなかった患者のうち3分の2が、2014ガイドラインで新たに推奨とされた。今後の研究により評価される。
### 新たに推奨となるのはCHADS2で75歳以上だったのがCHA2DS2-VAScで65歳以上になったことで増えたひとだったいうことですね。
このレターはDuke大学のそれこそリサーチ当事者(COI数社あり)のものですが、興味深いのはこれに対するUCSFの先生(COIなし)からのInvited Commetaryです。このように適応が増えたことは"Is this a good thing?" 「本当にいいことなの?」と疑問を呈しています。
ガイドラインと現実世界とのギャップが深まるのでは?と疑念が呈され、例として「66歳女性」はこれまでノーリスクとされていたのがこれからは高リスクになることをあげています。
疑念の根拠として以下が挙げられています。
・CHADS2スコアもCHA2DS2-VAScスコアもそのc統計量は同等で、しかもそれほど高くない
・両スコアの根拠となる年間脳梗塞発症率は以前のものであり、現在その発症率は、昨今の強力な治療により以前より低くなっている
そしてあるリスク評価のスキームから別のスキームに変更する根拠はない、脳梗塞は低くなるだろうが出血も増えるだろうと訴えています。
結論として、まだ新ガイドラインを現実世界に当てはめるには根拠欠如であり、リスクとベネフィットのバランスを考え、コストベネフットも加味した視点を提案してます。
昨日に続いて、NOAC隆盛、適応拡大隆盛の風潮に水を指すような、釘を差すような言説です。
私には至極真っ当なコメントのように思われます。CHADS2スコアの元論文は古いです。最近出た日本のpooled analysisiの脳梗塞発症率もかなり低率です(これ自体も鵜呑みにはできませんが)。個人的に、最近は、次のガイドラインではまた新たなスコアで適応を再検討した方がいいかなあという感じがしています。その時はそうですね、HA2S2スコアくらいになってるかも。。。ちがうかな。
この論文とコメンタリーの筆者のCOIの差異もひとつのヒントかもしれません。
$$$ 近くの散歩道の街路樹(金木犀?)。ほんの少しですが芽吹き始めてました。

by dobashinaika
| 2015-03-06 23:48
| 抗凝固療法:ガイドライン
|
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土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。
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筆者は、2013年4月以降、ブログ内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません
●医療法人土橋内科医院
●日経メディカルオンライン連載「プライマリケア医のための心房細動入門リターンズ」
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