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薬(心血管系薬剤)を飲みたくない理由:NEJM誌

NEJMに「信念を超えてー人々は心臓病の薬を飲むことをどう感じるか?」と題する論説が論説されています。要約しましたのでご参照ください。

Beyond Belief — How People Feel about Taking Medications for Heart Disease
Lisa Rosenbaum, M.D.
N Engl J Med 2015; 372:183-187


・友人が、肥満の72歳(兄弟2人が脳卒中)の父が全く薬物を飲まないことを心配している
・以前からノンアドヒアランスの研究をしている
・米国の半数の患者が処方された薬を飲まない
・非白人、うつ、女性が関連すると言われている
・でもよくわかっていない
・心筋梗塞既往者20人に継続的なインタビューを施行した

<リスクと嫌悪感>
・多くの研究の参加者が、心血管薬への嫌悪感を表明している
・「私を薬をのむひとには決してなりたくない」「薬は飲みたくない、それだけ」「私は古い人間。私はなにも飲みたくない」
・(研究への)多くの参加者はスタチンの持つ潜在的な副作用に基づいて服薬を却下する
・「訴訟の対象になるようなものなら、飲まない」

・副作用へのネガティブな感情はwell-described risk-perception frameworkで説明されやすい
・George Loewenstein:感情的な反応は人々を確率ではなく、(副作用の)可能性に対しより敏感にさせる」
・ネガティブな感情は少ないリスクの確率を大きく見積もり、ポジティブな感情はベネフィットを過大評価する
・Paul Slovic:ネガティブな感情は、リスクの情報により潜在的なベネフィットを低く見積もらせる
・Slovicはベネフィットについてのコミュニケーションが薬剤嫌悪感への一つの対策と言っている

<自然主義とアイデンティティー>
・試験参加者は頻繁に「自然」を好むことを表明する
・「化学物質」が自然の秩序を乱す
・「Drug」という言葉それ自体が「そもそも体にない物質である」
・「私は医療行為が嫌いーとくに化学物質」
・祖母の夜の「ビタミン」儀式
・「たとえ強くないとしても薬は飲まない。多くの人々は薬を強いものと考える傾向あり」

・健康と病気の間の緊張関係は逆説的なダイナミズムがある
・PCIが終わると薬剤は必要ないという信念を持ちやすい
・くすりを一回飲んで症状が良くなるとやめてしまえると考える→医者に行きたくないので薬を辞めたいといいう考え

・病の長く辛い体験は薬を飲むことを良しとする記憶を形成させる

・病人というレッテルを貼られたくない気持ちがある
・リハビリテーションプログラムはひとが心臓疾患と毛のうとの両者を兼ね備えているという環境形成をおこなっている

<ベネフィットの可視化>
・明らかに心筋梗塞の既往のある心電図の方に「検査はあなたの心臓のダメージを明らかにします」というと「コンピューターはとくに物事を悪くする。(人の心臓を)壊さないでくれ」といわれた
・医療行為のもたらすべねフットは気づきにい(軽微)という問題

・薬剤の目的を尋ねると曖昧に答える人が多いが、抗血小板薬ははっきり答える人が多い。
・多くのインタビューで、「血液希釈薬(さらさら薬)」を詰まったパイプのアナロジーで捉えている
・「この薬は血液の流れを保ってくれる」
・出血や青あざにより血液の流れを保っているというアピールがなされる

・抗血小板薬のアドヒアランスは良好:MI FREEE試験ではスタチン、β遮断薬、ASEi、ARBの服薬率は36〜49%だったのに対しクロピドグレルは70%
・抗血小板薬のパイプをスカスカに開かせるようなイメージを他の薬に持たせるにはどうしたらよいか

・酸素の需要を減らす、リモデリングを抑制するなどといったイメージは持ちにくい
・心臓の力が落ちるのを防ぐといったイメージを退院前に持ってもらう
・経験者のビデオもひとつの方法

<依存性への忌避感>
・スタチンを過食の時にだけ飲む人がいる
・薬に頼ることがひとつの中毒のように思えてしまう
・服薬が弱さや失敗の表現とらえる

・薬をのむことは生まれつきの「不全」を明らかにすることであり、生活習慣の変化で健康をコントロール出来る考える傾向あり
・多くのひとは最も大事なことはダイエットと運動であり、薬剤というひとは少数
・彼らは生活習慣が改善できれば薬剤から離脱できると考える

・これらの考えの根拠として、服薬はコントロールできないものとして経験されるということがある
・中毒、依存症に対する嫌悪というのがその極端なバージョンである

・この義務感が服薬を躊躇させるかもしれないが、解決の鍵にもなる
・自己効力感を強調することは良いが強調し過ぎると薬剤の代替物と思わせてしまう。
・あくまで義務でなく、自らの選択と感じるよう手助けすることが大切

<情緒的知性>
・コンプライアンスは受身的でアドヒアランスは相補的。そうした表面的な表現へのこだわりだけでは、真に患者のノンアドヒアランス対策を考えることにならない
・ノンアドヒアランスを患者の問題として扱いがちだが、薬をのむことに対する人々の感情を知ることが大切

### 20人の心筋梗塞既往者のインタビューを通じて、「薬をなぜ飲まないか」に関して考察されています。
大雑把にまとめるとノンアドヒアランスの根底にあるものとして
・リスク(可能性)は大きく、ベネフット(確率)は小さく見積もられやすい
・「薬=化学物質はとりたくない。自然のものは良い」という感情
・手術やカテーテルでもう治ってしまったという錯覚
・薬を飲んで一時症状(や検査結果)が良くなったのでやめられる
・医者に行きたくないのでやめる
・「病人」というレッテルをはられたくない
・飲むと依存症になってしまう
・薬はコントロール出来ないものである→薬でなくてダイエットや運動のみで治したいという願望

等が挙げられています。

また対策として抗血小板薬が、パイプを詰まらせないよう保つイメージを持っていることから、ベネフットに対してビジュアルに訴える、自己効力感に訴えることなどが記されています。

ただし抗凝固薬については、出血のネガティブなイメージが強いので、それほどアドヒアランスが良いとは思えません。
この辺りのことは拙著「プライマリ・ケア医のための心房細動入門」で詳しく書いたつもりですので、ご参照ください。
このことに関する以前のブログはこちら

$$$ 今日の散歩から
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by dobashinaika | 2015-01-11 01:15 | リスク/意思決定 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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