日本の低リスク心房細動患者には抗凝固薬は必要ないのか?:CJ誌Editorial
Is Anticoagulant Therapy Unnecessary for Lower-Risk Japanese Patients With Atrial Fibrillation? – Lessons From the SAMURAI-NVAF and BAT Studies –
Kazunori Toyoda
Circulation Journal 12月24日
・SAMURAI NVAF Studyは、1192人の虚血性脳卒中およびTIA後7日以内のNVAF登録患者(2011年9月〜2014年3月)が対象・脳卒中/TIAに先立って抗凝固療法が施行されたのは、高CHADS2スコアにもかかわらす36.8%にすぎなかった。
・その理由の最多はイベント前に心房細動が診断されていないことであるが、リスクの高低を問わず30%以上の症例で心房細動がわかっていても投与されていなかった。
・Suzukiらのプール解析では、抗凝固療法非施行例のNVAFの虚血性脳卒中発症率は13.3/1000人年で、CHADS2スコア低(0点)、中(1点)、高(2点以上)リスクごとの発症率は各5.4, 9.3, 24.7/1000人年
・この解析での特に低リスク例への投与率は、BAT Studyに比べて低い
・BAT Studyは心血管疾患、脳血管疾患のために抗血栓症法を施行されている4009人対象。心房細動は1221例
・CHADS2スコア低、中、高リスクごとの虚血性脳卒中発症率は0.76,1.46.2.90%
・各リスク群ごとの抗凝固療法非施行例は、各12.0, 22.9, 65.1%
・抗凝固療法非施行例全体では39.0/1000人年(中リスク群)
・この発症率はCHADS2スコアの最初の評価論文やEuro Heart Survey、日本のInoueらの研究とほぼ等しい
・SuzukiらのデータとBAT試験を含む他のデータとの差はなにか?
・Suzukiらは、10年以上に渡る間の特に合併症に対する医療環境の違いの可能性を指摘している
・BAT研究はNVAFだけが対象ではないので、リミテーションあり
・にもかかわらず、Suzukikiらの3つのメジャーな日本のデータベースで示された低リスク例における低発症率はある意味楽観的といえるかもしれない
・この研究にのみ基づいて、CHADS2スコア1点の人に抗凝固療法が施行されれないのは望ましくないかもしれない
・Suzukiらはこの研究ではCHADS2スコア2点以上のひとで高発症率だったことを強調し、CHADS2スコア1点以下の人の低発症率は強調していない
・CHADS2スコア1点の項目のうち、高血圧、糖尿病、心不全は治療可能だが、年齢は変更不可
・Suzukiらの研究では年齢は他の4項目よりも最も強く脳卒中リスクに影響する
・Loire Valley AFプロジェクトでは、75歳以上で他のリスクのないNVAFの脳卒中発症率は32.6/1000人年→こういう人には抗凝固療法は必須である
・裏を返せば、75歳未満でCHADS2スコア1点への推奨度は、将来高血圧、糖尿病、心不全の治療が勧めば更に弱まるかもしれない
・上記3つの日本のコホートは日本のNVAFに対する適切な抗凝固療法を示した点で好ましい。この研究で日本においても虚血性、出血性療法の脳卒中が西洋よりもよりありふれたものであることが示された。2〜3の試験が走っているのでさらなる治験が得られるだろう。
### 12月に読みました日本の3大心房細動コホート研究のプール解析に対する国循豊田先生によるエディトリアルです(その時のブログはこちら)。
勉強になるので全文訳してしまいました。
この中で論文予定のSAMURAI AF Studyのデータが紹介されていますが、非常に興味深いです。
これによるとCHADS2スコア2点以上でも抗凝固療法ありが37%、なしが63%です。中でも心房細動と診断されているのに抗凝固薬無しが全体の30.0%に上っています。「心房細動合併脳梗塞患者の63%が事前の抗凝固薬投与されておらず、その半分は事前に心房細動がわかっていた」ということです。わかっていたのになぜ出していないか、理由をぜひとも知りたいですね。なんといっても日本でこれだけ多くの心房細動脳卒中コホートにおける抗凝固療法の実態評価は初めてと思われますので。
一方最近の3大コホートは、抗凝固薬なしでの虚血性脳卒中リスクが13.3/10000人年。以前のBAT研究や他の海外研究などでは約40/1000人年と比べかなり3大コホートは低い。とくにCHADS2スコア1点以下は年間1%以下ですので、前ブログで書いたように、抗凝固薬は必要ないレベルになるかもしれません。それに対しBAT研究の1点は3.9%と高率です。
しかし豊田先生は、年齢と高血圧、糖尿病、心不全を一律に考えず、75歳以上は重視せよと戒められています。
Suzuki先生の解析でもCHADS2スコアのA(年齢)とS(脳卒中の既往)が危険因子としてのハザード比が高く、H(高血圧)がそれについでいます。
以前から折にふれて言っていることですがCHADS2スコア1点に関しては、一律に考えず、血圧、糖尿病、心不全の管理状況に加え、腎機能、喫煙など他の因子を個々の患者さんごとに「考慮」することの大切さを再認識させられます。
CHADS2スコア1点の抗凝固薬適応はガイドラインでは「考慮可」となっていますが、こういうグレイゾーンにこそ、エビデンスだけでなく患者さんの好みと医師の裁量(=この場合血圧、血糖管理、その他の動脈硬化関連因子を総合的に考える)を統合して意思決定する姿勢が求められるという、ある意味EBMの醍醐味を味わえる領域とも言えます。
それにしても将来高血圧、糖尿病などがCHADS2スコア0.5点になる日が来るかもでしょうか?
$$$本日の朝焼け。どこかの医院の広告が。。
Kazunori Toyoda
Circulation Journal 12月24日
・SAMURAI NVAF Studyは、1192人の虚血性脳卒中およびTIA後7日以内のNVAF登録患者(2011年9月〜2014年3月)が対象・脳卒中/TIAに先立って抗凝固療法が施行されたのは、高CHADS2スコアにもかかわらす36.8%にすぎなかった。
・その理由の最多はイベント前に心房細動が診断されていないことであるが、リスクの高低を問わず30%以上の症例で心房細動がわかっていても投与されていなかった。
・Suzukiらのプール解析では、抗凝固療法非施行例のNVAFの虚血性脳卒中発症率は13.3/1000人年で、CHADS2スコア低(0点)、中(1点)、高(2点以上)リスクごとの発症率は各5.4, 9.3, 24.7/1000人年
・この解析での特に低リスク例への投与率は、BAT Studyに比べて低い
・BAT Studyは心血管疾患、脳血管疾患のために抗血栓症法を施行されている4009人対象。心房細動は1221例
・CHADS2スコア低、中、高リスクごとの虚血性脳卒中発症率は0.76,1.46.2.90%
・各リスク群ごとの抗凝固療法非施行例は、各12.0, 22.9, 65.1%
・抗凝固療法非施行例全体では39.0/1000人年(中リスク群)
・この発症率はCHADS2スコアの最初の評価論文やEuro Heart Survey、日本のInoueらの研究とほぼ等しい
・SuzukiらのデータとBAT試験を含む他のデータとの差はなにか?
・Suzukiらは、10年以上に渡る間の特に合併症に対する医療環境の違いの可能性を指摘している
・BAT研究はNVAFだけが対象ではないので、リミテーションあり
・にもかかわらず、Suzukikiらの3つのメジャーな日本のデータベースで示された低リスク例における低発症率はある意味楽観的といえるかもしれない
・この研究にのみ基づいて、CHADS2スコア1点の人に抗凝固療法が施行されれないのは望ましくないかもしれない
・Suzukiらはこの研究ではCHADS2スコア2点以上のひとで高発症率だったことを強調し、CHADS2スコア1点以下の人の低発症率は強調していない
・CHADS2スコア1点の項目のうち、高血圧、糖尿病、心不全は治療可能だが、年齢は変更不可
・Suzukiらの研究では年齢は他の4項目よりも最も強く脳卒中リスクに影響する
・Loire Valley AFプロジェクトでは、75歳以上で他のリスクのないNVAFの脳卒中発症率は32.6/1000人年→こういう人には抗凝固療法は必須である
・裏を返せば、75歳未満でCHADS2スコア1点への推奨度は、将来高血圧、糖尿病、心不全の治療が勧めば更に弱まるかもしれない
・上記3つの日本のコホートは日本のNVAFに対する適切な抗凝固療法を示した点で好ましい。この研究で日本においても虚血性、出血性療法の脳卒中が西洋よりもよりありふれたものであることが示された。2〜3の試験が走っているのでさらなる治験が得られるだろう。
### 12月に読みました日本の3大心房細動コホート研究のプール解析に対する国循豊田先生によるエディトリアルです(その時のブログはこちら)。
勉強になるので全文訳してしまいました。
この中で論文予定のSAMURAI AF Studyのデータが紹介されていますが、非常に興味深いです。
これによるとCHADS2スコア2点以上でも抗凝固療法ありが37%、なしが63%です。中でも心房細動と診断されているのに抗凝固薬無しが全体の30.0%に上っています。「心房細動合併脳梗塞患者の63%が事前の抗凝固薬投与されておらず、その半分は事前に心房細動がわかっていた」ということです。わかっていたのになぜ出していないか、理由をぜひとも知りたいですね。なんといっても日本でこれだけ多くの心房細動脳卒中コホートにおける抗凝固療法の実態評価は初めてと思われますので。
一方最近の3大コホートは、抗凝固薬なしでの虚血性脳卒中リスクが13.3/10000人年。以前のBAT研究や他の海外研究などでは約40/1000人年と比べかなり3大コホートは低い。とくにCHADS2スコア1点以下は年間1%以下ですので、前ブログで書いたように、抗凝固薬は必要ないレベルになるかもしれません。それに対しBAT研究の1点は3.9%と高率です。
しかし豊田先生は、年齢と高血圧、糖尿病、心不全を一律に考えず、75歳以上は重視せよと戒められています。
Suzuki先生の解析でもCHADS2スコアのA(年齢)とS(脳卒中の既往)が危険因子としてのハザード比が高く、H(高血圧)がそれについでいます。
以前から折にふれて言っていることですがCHADS2スコア1点に関しては、一律に考えず、血圧、糖尿病、心不全の管理状況に加え、腎機能、喫煙など他の因子を個々の患者さんごとに「考慮」することの大切さを再認識させられます。
CHADS2スコア1点の抗凝固薬適応はガイドラインでは「考慮可」となっていますが、こういうグレイゾーンにこそ、エビデンスだけでなく患者さんの好みと医師の裁量(=この場合血圧、血糖管理、その他の動脈硬化関連因子を総合的に考える)を統合して意思決定する姿勢が求められるという、ある意味EBMの醍醐味を味わえる領域とも言えます。
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by dobashinaika
| 2015-01-05 23:06
| 抗凝固療法:適応、スコア評価
|
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土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。
by dobashinaika
筆者は、2013年4月以降、ブログ内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません
●医療法人土橋内科医院
●日経メディカルオンライン連載「プライマリケア医のための心房細動入門リターンズ」
●ケアネット連載「Dr,小田倉の心房細動な日々〜ダイジェスト版〜」
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