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日本人における抗凝固薬内服下での抜歯時の出血リスクは無視できない?:BMJ Open誌

Evaluation of postextraction bleeding incidence to compare patients receiving and not receiving warfarin therapy: a cross-sectional, multicentre, observational study
Hiroshi Iwabuchi et al
BMJ Open 2014;4:e005777 doi:10.1136/bmjopen-2014-005777


疑問:日本人において、抗凝固療法下の抜歯後の出血リスクはどの程度か?リスク因子はなにか?

デザイン:クロスセクショナル、多施設、観察研究

セッティング:口腔外科のある(日本の)26病院

対象:
・2817本の歯:ワルファリン内服496例、非内服2321例
・62.2歳
・2008年1月〜2010年3月
・ワルファリン群の抜歯7日以内のPTINRは3.0未満

介入:
・単一歯の抜歯
・出血、合併症を記録

アウトカム:基本的止血手技で管理できない抜歯後の出血

結果:
1)出血の報告:ワルファリン群35歯7.1% vs. 非ワルファリン群49歯2.1%

2)臨床的に明らかな出血:ワルファリン群18歯3.6%、非ワルファリン群9歯0.4%

3)出血率:ワルファリン群2.77% vs. 非ワルファリン群0.39%

4)出血の予測因子(単変量解析):高齢(OR 0.197, p=0.001),、PT-INR (OR 3.635, p=0.003)、下顎孔交通麻酔 (OR 4.854, p=0.050) 、抜歯ソケットでの異常肉芽組織の形成 (OR 2.900, p=0.031)

5)出血の予測因子(多変量解析):高齢(OR 0.126, p=0.001), 抗血小板薬 (OR 0.100, p=0.049), PT-INR (OR 7.797, p=0.001) 、抜歯部位の急性炎症の既往(OR 3.722, p=0.037)

結論:このデータは、ワルファリン服用者における抜歯後の出血は少ないが明らかに増加することが示唆される。両群とも絶対リスクは低いが出血は無視できない。

### 日本の大学歯学部や大きな病院からの報告です。

以前調べた米国の報告では、抜歯時に管理できない口腔内出血の頻度は0.31%という論文や、全体の出血はワルファリン群で1.6%、非ワルファリン群で1.3%というデータ等ワルファリン内服下の出血はいずれも無視できる程度か非服用時と変わりなしとされてきました。
Dun AS, et al. Perioperative management of patients receiving oral anticoagulants: a systematic review.Arch Intern Med. 2003;163:901-8.

Jaffer AK, et al. Variations in perioperative warfarin management: outcomes and practice patterns atnine hospitals. Am J Med. 2010;123:141-50.

しかしながら、最新の日本の観察研究ではワルファリン群の抜歯時出血は2.77%と、米国よりも多いようです。高齢、PT-INR高値、抗血小板薬併用者などではもっと頻度が高いと思われます。

この論文も、ここ2〜3日当ブログで見てきた日本のデータ同様欧米のこれまでのデータとはやや様相が異なっているように思います。これまでとにかく抜歯時はワルファリンは止めないの一辺倒で、歯科の先生に返事を出していましたが、高齢者やINR高値例ではこれまで以上に出血注意の喚起をする必要があるかもしれないと思って読みました。

血栓塞栓症のデータがないのと、観察研究のためワルファリン中止例はそれだけ出血リスクが高い例だった可能性もあります(とするとますますワルファリン群の出血が多めに思われますが)。全文をあたってみたいところです。

しかしここ数日、抗凝固療法に関する日本の一定規模の観察研究を連続して読みましたが、ほんとに今のガイドラインでいいの?という原点に戻っての疑問が改めて湧いてくる感じがしています。日本の抗凝固薬服用者における全体的な治療水準、塞栓や出血リスクの人種差などなど、当然のことではありますがもっと考え込む必要を感じます。

$$$ 今日の道路は怖かったですね。
日本人における抗凝固薬内服下での抜歯時の出血リスクは無視できない?:BMJ Open誌_a0119856_22781.jpg

でもまた日の出が拝めてHappy
日本人における抗凝固薬内服下での抜歯時の出血リスクは無視できない?:BMJ Open誌_a0119856_226491.jpg

by dobashinaika | 2014-12-19 22:12 | 抗凝固療法:抜歯、内視鏡、手術 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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