非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は本当に抗凝固薬の出血リスクを増やすのか?:AIM誌
Relation of Nonsteroidal Anti-inflammatory Drugs to Serious Bleeding and Thromboembolism Risk in Patients With Atrial Fibrillation Receiving Antithrombotic Therapy:A Nationwide Cohort Study
Morten Lamberts et al
Ann Intern Med. 2014;161(10):690-698
疑問;NSAIDは抗凝固薬の出血リスクを本当に増加させるのか?
試験デザイン:観察コホート研究
セッティング:全国登録
患者;1997〜2011年に入院したデンマークの心房細動患者
評価項目;NSAIDと抗凝固薬使用下での重大な出血と血栓塞栓症の絶対リスク。Coxモデル仕様
結果:
1)心房細動患者150,900人(平均75歳、女性47%)、うちNSAID使用者53732人35.6%、平均追跡期間6.2年
2)重大な出血:11.4%、血栓塞栓症13.0%
3)3ヶ月の時点で、NSAID曝露14日以内の場合の重大な出血は1000人中3.5イベント;非NA|SAID例は1.5イベント
4)全体の絶対リスク減少(重大出血)は1.9/1000人
5)経口抗凝固薬服用者に限ると絶対リスク減少は2.5人/1000人
6)NSAIDによる出血及び血栓塞栓症増加は全ての抗凝固薬レジメンで同じ
7)推奨される最小限以上のNSAID量では、出血のハザード比は確実に上昇する
限界:観察研究デザイン、未測定の交絡因子
結論:NSAIDの使用は重大な出血と血栓塞栓症のリスク増加に関係あり。短期間のNSAID投与も出血リスクと関連あり、臨床医は心房細動患者におけるNSAID使用に注意を払うべき
### NSAIDがワーファリンの作用を増強することはよく知られていて、機序はCYP2C9で代謝されるNSAIDであれば酵素への競合が起こりワルファリンの血中濃度が増強することが言われていますね。消化管粘膜への作用や抗血小板抗血小版機能の変化はそれに拍車をかけるかもしれません。
そうした機序もあり、NSIADでINRが高くなることはよく経験するのですが、実際の出血がどのくらいなのかのこれだけ多くの対象でのエビデンスはありませんでした。
平均6年で10%はかなり多いと思われます。当院ではこれまでNSAID長期投与で10年間に2日、上部消化管出血の方がおられました。いずれも関節リウマチ等で他院整形外科からNSAIDが処方されていた方です。INRを注意深く低めにし、PPIを投与していても起きるときは起きました。
かぜ症状などで3日間ロキソニンを出すといった場合、大出血の経験はありませんが、PT-INRは2の後半から3台に上がることはよく経験しますね。近年はワルファリン患者さんに少なくとも鎮痛剤としてNSIADを使用することはほとんどしないようにはしています。(だいたいアセトアミノフェン)。
整形外科など、他科との連携も大事な問題だと思われます。
$$$以前紹介した大きな酒造会社の跡地の公園です。綺麗に色づきました。
Morten Lamberts et al
Ann Intern Med. 2014;161(10):690-698
疑問;NSAIDは抗凝固薬の出血リスクを本当に増加させるのか?
試験デザイン:観察コホート研究
セッティング:全国登録
患者;1997〜2011年に入院したデンマークの心房細動患者
評価項目;NSAIDと抗凝固薬使用下での重大な出血と血栓塞栓症の絶対リスク。Coxモデル仕様
結果:
1)心房細動患者150,900人(平均75歳、女性47%)、うちNSAID使用者53732人35.6%、平均追跡期間6.2年
2)重大な出血:11.4%、血栓塞栓症13.0%
3)3ヶ月の時点で、NSAID曝露14日以内の場合の重大な出血は1000人中3.5イベント;非NA|SAID例は1.5イベント
4)全体の絶対リスク減少(重大出血)は1.9/1000人
5)経口抗凝固薬服用者に限ると絶対リスク減少は2.5人/1000人
6)NSAIDによる出血及び血栓塞栓症増加は全ての抗凝固薬レジメンで同じ
7)推奨される最小限以上のNSAID量では、出血のハザード比は確実に上昇する
限界:観察研究デザイン、未測定の交絡因子
結論:NSAIDの使用は重大な出血と血栓塞栓症のリスク増加に関係あり。短期間のNSAID投与も出血リスクと関連あり、臨床医は心房細動患者におけるNSAID使用に注意を払うべき
### NSAIDがワーファリンの作用を増強することはよく知られていて、機序はCYP2C9で代謝されるNSAIDであれば酵素への競合が起こりワルファリンの血中濃度が増強することが言われていますね。消化管粘膜への作用や抗血小板抗血小版機能の変化はそれに拍車をかけるかもしれません。
そうした機序もあり、NSIADでINRが高くなることはよく経験するのですが、実際の出血がどのくらいなのかのこれだけ多くの対象でのエビデンスはありませんでした。
平均6年で10%はかなり多いと思われます。当院ではこれまでNSAID長期投与で10年間に2日、上部消化管出血の方がおられました。いずれも関節リウマチ等で他院整形外科からNSAIDが処方されていた方です。INRを注意深く低めにし、PPIを投与していても起きるときは起きました。
かぜ症状などで3日間ロキソニンを出すといった場合、大出血の経験はありませんが、PT-INRは2の後半から3台に上がることはよく経験しますね。近年はワルファリン患者さんに少なくとも鎮痛剤としてNSIADを使用することはほとんどしないようにはしています。(だいたいアセトアミノフェン)。
整形外科など、他科との連携も大事な問題だと思われます。
$$$以前紹介した大きな酒造会社の跡地の公園です。綺麗に色づきました。
by dobashinaika
| 2014-11-18 22:05
| 抗凝固療法:ワーファリン
|
Comments(1)
Commented
by
さすけ
at 2019-08-25 23:46
x
ワーファリンについてのブログ、拝見させていただきました。
実は先日、母を亡くしております。
昨年の心臓手術(人工弁置換)後にワーファリンを服用していましたが、心臓手術を行ったのと同じ病院で膝の手術を行い、その後に鎮痛剤として投与されたロキソニンを服用後に肺胞出血を起こし、その後に呼吸困難となっていき、一カ月程で亡くなりました。
医師からは肺胞出血の原因は定かではないと言われたものの、血液検査等では何も異常はなく、ロキソニンによってワーファリンの効果が助長されたことによるものではないかと個人的には思っております。
よろしければ質問させていただきたいのですが、母へのロキソニンの投与というのは、他に選択肢は考えられなかったのでしょうか?
鎮痛剤も色々とあると思いますが、他の薬も検討した上でのロキソニンだったのか、何も考えずに投与されたのかと疑問に思っております。
当該病院・医師に聞くのが一番早いというのはもちろんわかっているのですが、まずは第三者の意見を伺ってみたいと思い、勝手ながら質問させていただいた次第です。
お手すきの際にご回答いただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします。
実は先日、母を亡くしております。
昨年の心臓手術(人工弁置換)後にワーファリンを服用していましたが、心臓手術を行ったのと同じ病院で膝の手術を行い、その後に鎮痛剤として投与されたロキソニンを服用後に肺胞出血を起こし、その後に呼吸困難となっていき、一カ月程で亡くなりました。
医師からは肺胞出血の原因は定かではないと言われたものの、血液検査等では何も異常はなく、ロキソニンによってワーファリンの効果が助長されたことによるものではないかと個人的には思っております。
よろしければ質問させていただきたいのですが、母へのロキソニンの投与というのは、他に選択肢は考えられなかったのでしょうか?
鎮痛剤も色々とあると思いますが、他の薬も検討した上でのロキソニンだったのか、何も考えずに投与されたのかと疑問に思っております。
当該病院・医師に聞くのが一番早いというのはもちろんわかっているのですが、まずは第三者の意見を伺ってみたいと思い、勝手ながら質問させていただいた次第です。
お手すきの際にご回答いただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします。
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土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。
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筆者は、2013年4月以降、ブログ内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません
●医療法人土橋内科医院
●日経メディカルオンライン連載「プライマリケア医のための心房細動入門リターンズ」
●ケアネット連載「Dr,小田倉の心房細動な日々〜ダイジェスト版〜」
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