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抗凝固薬のアドヒアランスに関する総説:なぜ抗凝固薬は飲めないのか

When the Rubber Meets the Road: Adherence and Persistence with Non–Vitamin K Antagonist
Oral Anticoagulants and Old Oral Anticoagulants in the Real World—A Problem or A Myth ?
Deepa Suryanarayan et al
Semin Thromb Hemost. 2014 Nov 10. [Epub ahead of print]


抗凝固薬のアドヒアランスに関する総説です。

タイトルは「いつが正念場?〜問題なのか神話なのか」くらいの意味でしょうか・

<アドヒアランス、コンプライアンス、パーシステンス>
* アドヒアランス不良は今に始まってことでなく、ヒポクラテスも「処方されたものについて嘘をつく患者の過ちに注意せよ」と言っている
* アドヒアランスは、ヘルスケア提供者により処方された薬をどのくらい飲むか,と定義される
* コンプライアンスは、患者の受身的な役割、医療者の需要に従うもののような含みがあるが、アドヒアランスは、主体的で、医療者とのコラボ的な役割と言った意味合いを含蓄している
* パーシスシテンスは、研究において、継続的医療の話題の時に用いられ、薬の導入から中止までの時間として定義される
* パーシステンス率とははじめの6ヶ月での脱落率をいう
* 慢性疾患では、処方通りに飲む人は約50%と言われている
* 急性期は、慢性期よりは良い
* 1日1回の服薬回数ではアドヒアランス79 .14%、1日4回だと51 .20%
* 新処方の28%は封を切られないし、開けられた薬のアドヒアランスは25〜50%との報告あり
* アドヒアランスが高い場合は、低い場合より生存率も高い
* 腰、膝の手術では経口薬の方がへパリンに比べ、アドヒアランスと満足度が高い
* アドヒアランス不良のインパクトは多岐にわたる
* 効果のみならず重症度、死亡率、経済的負担、医療リソースの流出など
* 米国1年間のアドヒアランス不要に伴うコストは100〜300ミリオンドル、12,500人の死亡に匹敵
* 特に、高齢者慢性疾患、たとえば心房細動患者のアドヒアランス不良は、脳梗塞増加という大きなインパクトを持ち、入院の延長、在宅ケア、医療コストの増加を生む

<ビタミンK阻害薬(VKA)のアドヒアランス>
* INRレベルとアドヒアランスには強い関係有り、治療域にはいる最大の時間がVKA治療では重要
* アドヒアランス不良は説明できないINR変動の主要因
* 最近のデータベース研究では、8040人の静脈血栓塞栓症の再発高リスク例のうち、76,9%がワルファリン管理不良で51.5%が治療中止
* アドヒアランス良好(服薬率0.8以上)な患者は、イベントが少なく、アドヒアランス不良例は再発率が3倍
* 27,458人のVKA服用心房細動(TTR63%)集団で、TTR70%以上の患者は、30%以下に比べ脳梗塞79%減少
* VKAのアドヒアランス不良率は22〜58%。低TTRだけでなく、高死亡率、高合併症率と関連
* VKA治療患者の22%が1年以内に中止し、2.7年追跡で33%が中止した
* ATRIA研究では1年以内に1/4が中止



* Underuse, underdoseの原因は多元的
* ある研究では、若年、男、非白人、一定の主治医なしで不良で、脳梗塞既往者は良好
* アドヒアランス不良者は、VKA服用をより重荷に感じ、利益は少ないと思っている
* 高齢者119人の研究では、10.1%の患者が一回も処方を開けない
* 認知機能、薬の扱い、処方数、最近の処方の変化が影響する
* メディケアのコホート研究では、白人のほうがアフリカン・アメリカンやヒスパニックよりVKA処方は頻回で、モニタリングがより規則正しい
* 高校教育以上の教育の欠如、能動的な雇用、資産乱用、精神疾患、ホームレス、介護サポート欠如もリスク因子
* しかし、ほとんどの研究でアドヒアランス率を直接測定してはいない。
* the INR Adherence and Genetics studyで:電子ピルボトルキャップを使用した136人の心房細動対象の研究あり。3施設、32週追跡
* 92%の人が、一回はボトルを開け忘れる
* 36%の人が、全体の20%以上 の開封を忘れる
* 4%の人は、10%の頻度で別のボトルを開けてしまう
* 低アドヒアランスと抗凝固能低減とは関係有り
* 10%の飲み忘れで、2倍の抗凝固能の減少あり
* アドヒアランス不良は、教育レベル、雇用状況、メンタルヘルス、認知機能に関連あり

<なぜNAOCのアドヒアランスが心配なのか?>
* 短い半減期の問題
* モニターしないので飲むことを思い出すのが難しい
* 重大な帰結の可能性
* モニターできないので、アドヒアランス不良の早い把握ができない
* アドヒアランスをどう測定するのが良いのか
* 血中濃度、アンケート、錠数カウント、電子的モニタリングシステム、薬局のリフィル記録、患者日誌のレビュー、生化学マーカー
* これらは全て、必ずしも完全なアドヒアランスを示さない
* 方法の組合あわせが必要

< NOACにおけるクリニカルトライアルでのアドヒアランス不良に関するデータ>
* ダビガトランの大規模コホート研究ではアドヒアランスの調査なし
* RE−LY試験のダビガトランのアドヒアランスは95%
* ただし、RE-LYでも110mgで15%、150mgで16%、ワルファリン群で10%(1年)の予期せぬ中止例あり
* 1日2回より1回のアドヒアランスのほうが良好と言われているが、一方、1日1回のほうが飲み忘れは重大
* 現在知られているダビガトランのリアルワールドデータ
* ニュージーランドの92人の患者;3〜12か月追跡で主な中止要因は消化器症状
* アメリカのデータでは、パーシステンスはダビガトランのほうがワルファリンより良い:1年で63%vs.39%
* 低い塞栓症率または高い出血リスクの人ほどパーシステンス不良
* もう一つの研究では4ヶ月で17%がノンパーシステンス
* ニュージーランドでは、70人中24%がダビガトラン中止:4人消化管症状、3人出血、19人は1日2回が難しい、13人は飲み忘れ
* 退役軍人病院の後方研究では、MPR(総投薬量に対する実服薬量の割合)については、薬剤師が管理した群と通常の方法とでアドヒアランスに有意差なし
* Schulmanらの研究では、80%以下のアドヒアランスの人が12%
* 最近の退役軍人病院の大規模コホート5,376人の研究では、薬剤電子管理システムでアドヒアランス80%未満が27.8%。この研究では低アドヒアランスが死亡率、脳梗塞率上昇に関与:アドヒアランス10%減ごとにハザード比1.13
* 以上は、追跡期間が短いこと、アドヒアランス測定、対象患者のばらつきに注意
* さらなる追跡、特に1日1回と1日2回の比較が興味あり

< 抗凝固薬のアドヒアランス向上戦略>
* 患者教育は必要かもしれないが、教育とVKAへの理解度が良好な抗凝固薬管理に関連しないとの報告もあり
* 最近のメタ解析でも、抗凝固薬の補助的な患者研究がアウトカムを良くするというエビデンスには乏しい
* 一方降圧薬や糖尿病薬対象の前向き研究では、患者教育がアドヒアランス維持に効果アリとの報告あり
* EHRAも導入期、処方変更の際に、カードや家族とのグループセッション、さまざまなエイドが推奨されている
* 個々の患者との接触や会話を通して、抗凝固薬の利点欠点の詳細をはじめに提供することで、次回の受診の継続の力となる
* 用量が固定であることには利がある
* スマホ、ブリスターパック、アラーム、薬剤ボックスなどのデバイスが有用:アドヒアランス不良を24〜26%改善した
* 多元的で、患者の好みにあったテーラーメード的アプローチがなされるべき

< 結論>アドヒアランス不良は考慮すべき問題。VKAのデータが参考になる。NOACのデータは少ない。治療の個別化、飲み忘れ測定法の開発などが必要

### マクマスター大学の先生による抗凝固薬アドヒアランスの総説。大事なことなので、ほぼ全訳してしまいました。だた、NOACのデータは、ほぼこれまでブログで取り上げたもので、あまり新しいものはありません。

表を見ますとワーファリンの服薬中止率は7.8〜33%くらい(追跡1.1〜2.7年)。NOACは、RCTだけですが、ダビガトランのは上記のように15〜16%、リバーロキサバンは23.7%、アピキサバンは25.3%、エドキサバンは33〜34%でした。

なんか、RCTなのにNOACの中止率、すごく多くないですか?全文にはこれまでのNOACのRCT(心房細動以外も含む)の服薬中止率がほとんど載っているのですが、これを見て、ちょっと愕然としています。あのRCT のデータは20〜30%飲まなくなったひとのが入っているのですね。

リアルワールドだともっとなのでしょう。レベルの高いデータがまだ無いですが。

そして一生懸命やった患者教育が、あまり効果が無いかもしれないなど言われると。。。ややあんたんたる気持ちになります。

自分の経験では、薬のモチベーションは、やはり、最初にゴールをしっかり共有することだと思うのですが、最近はそれだけではダメで、継続的にリスクを喚起することがたいせつだと思うようになっています。

結局「今の姿ではない未来の自分が病気になったとき」を想起して、そうならないことを目指すっていうのは、人間難しいと思うのです。「〜できるようにしよう」「〜になれるよう努力しよう」といった「達成目標」だったらモチベーションは継続しやすいすが、「〜にならないようにしよう」という目標は、まあ自分は大丈夫だという認知バイアスに負けてしまいがちです。

VKAであれNOACであれ、抗凝固薬のアドヒアランス不良の本質は、このネガティブな目標行動というところにありと見ています。

追記:出典を誤記しておりました。Thromb Hemost 雑誌の論文ではなく、リンク先のセミナー本のサマリーからでした。訂正いたします。

$$$ それにしても紅葉というのは、なんでこんなに鮮やかなんでしょうねえ。人工物でこんなに鮮やかなに青空に映える色を出せるのでしょうか
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あときょうのニャンコ
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by dobashinaika | 2014-11-14 23:20 | 抗凝固療法:全般 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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