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散歩哲学(3)〜医者が病気になった時:「〜のために」ではなく

NHKの朝の番組で「マインドフルネス」について取り上げていました。
その中でマインドフルネスは、仕事が忙しくて多数の問題が一身に降り注いだ時にパニックにならないようにするための、一つの方法と言われていました。
やり方としては何も考えないのではなく、呼吸に集中し、今目の前で起きていることに集中するということだそうです。

新しい精神の高め方でとても興味深かかったのですが、一つ気になったのはグーグルやインテル、それに日本のいろいろな企業が研修メニューに取り入れたりしていて、いわば「トレーニング」の一環としてやっているということでした。

もちろんマインドフルネスについて深い知識があるわけではありませんでの、その正しい目的はわかりません。しかしNHKではマインドフルネスを集中力を高めるための「治療法」として取り上げていました。この「治療法」という考え方がちょっとあれ、と思ったのです。

これを見て、まず思いついたのが、禅宗特に曹洞宗の坐禅における「只管打坐(しかんたざ)」です。禅宗の場合坐禅は「ただ座ること」で、そこに何か目的があって坐禅するわけではない、と思いました。しいて言えば、ただひたすら座ることで仏そのものになるためなのかもしれませんが。

只管打坐と比較してマインドフルネスを見て思ったのは、瞑想まで「〜のために」と思ってすることもないのではないだろうか。ということです。私たちの日々の生活は小さな「〜のために」の連続だと思われます。明日の仕事の「ために」調べ物をする。忘年会の「ために」予約をする。健康になる「ために」散歩する。
すべての行動、一挙手一投足が何かの目的のための手段または機能であるように解釈されるのが、私たちの日々の生活、ひいては人生かもしれません。

私たち医者の行っている医療はその最たるものですね。体がもとのようになる「ために」薬を飲む。痛みを取る「ために」注射をする。私の敬愛する科学哲学者の戸田山和久さんは、このような目的を設定し手段を考えて行動することを「目的手段推論」と名づけていますが、治療行為はまさに目的手段推論の典型です。

でも、われわれ目的ばかりに固執してしまいますと、変な袋小路に迷いこむこともよく経験します。健康が、すごく大きな目標、それ以外ないというような目標になってしまうと、ひたすら健康を目指すあまり、様々な健康法を試さずにいられなくなる、あるいは血圧の5とか10くらいのあがり下がりが気になって睡れなくなってしまう。。。ちょっとオーバーですが、健康を目的手段推論に押し込んでしまうとやっかいなことになるかもしれません。

本来、健康は別の何らかのものの「ための」手段だろうと思います。というより、そういった目的ー手段という連鎖を離れた、だた「健康だ」という単なる有り様の事のように思われます。病気をした時に初めて「元のようにあれもできるようになりたい」「これも楽にやれるようになりたい」と感じ、目的手段推論の連鎖に入るわけです。しかし、大きな病気をして現在まだめまいや頭痛に悩まされている今の状態から考えると、これはこれでひとつの「有り様」だろうと思うのです。目的手段連鎖をあまり追わないで、今のめまいのする状態でも何とかやっていくことを受け入れるというか。

ただ、ではいかに「のために」ではなく、ただただハッピーに生きるには、そのためには、、、と考えるとまた目的手段推論に陥る、、というわけで、われわれは目的手段推論から決して逃れられないわけですが。(そこから逃れられられた場合を、仏になるということかもしれません)。

と、理屈っぽく長々話したところで散歩です(笑)。
散歩こそは目的手段連鎖を離れることのできる。生命発露(笑)の行いなのです。散歩を始めた最初の頃はたしかにめまい解消のため、とかそれこそ健康のためにとか考えていたのですが、最近はもうただ散歩するために散歩をする、それが好きだから散歩をするという境地(?)に達しています。

買い物に行く「ため」でなく、足腰の筋トレの「ために」でもなく、ただ散歩する。目的などない。おそらく、このような目的のない時間、目的手段推論とは別の前提で動く時間をいかに持てるかが、人生の鍵となるようにも思います。

けさは近くのアパートの塀の朝顔を写真に取りました。こんな寒い朝でも朝顔が咲くんですね。わたし、恥ずかしながら朝顔は夏休みの宿題のために咲くものだ、というか夏のものだと思っていました。

ただ散歩する=「只管打歩」しますと、朝顔、野良猫、雲、近所の板塀のお屋敷、モーニングムーン、柿の木それぞれに、日々新しい趣が出てきて、それを感じるのは「楽しい」です。盆栽とか、音楽にしても絵にしても、とにかくなんにしても「〜のために」しないのがいいんですね。

ただただ散歩していくと、自分が意図しなかった何かと何かが自分の中でつながります。朝顔を見て小学校の宿題を思い出すとか、野良猫を見てそのネコの来し方行末を案じてしまうとか。。。「何かと何かが自分の中で予期しない形でネットワークを作る」これが、目的に固執しないで物事をしていった時に感じる「楽しさ」の源泉のように思います。

「〜のために歩くな。ただ歩け」です。
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by dobashinaika | 2014-11-12 00:24 | 医者が患者になった時 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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