人気ブログランキング |

共病記(1)〜医者が病気になった時〜

仙台七夕の最後の日、まだ夏の盛りで蒸し暑い夜でした。

午後8時頃、いつものように診療を終え、自分の部屋で明日までの紹介状を書き、その日の患者さんの振り返りを終えて、帰宅しようと立ち上がった瞬間でした。

突然、目の前の風景が、ものすごい速さで下に下がっては戻り、次は右にぎゅんと移動してはまた戻ると言うこれまで経験したことのないような感覚に襲われました。もとより、回転系の乗り物が苦手で、例えば遊園地のコーヒーカップに乗ると必ず目がぐるぐる回ってしまうので、幼稚園のとき以来絶対乗らないようにしていました。でもコーヒーカップの時は景色がどちらか一定の決まった方向に割とゆっくり回る感じで、休めばほどなくおさまりました。しかし今回の感じは全く違いました。

移動する方向がその都度全くと言っていいほどまちまちで、しかも大変な速さで動くのです。すぐに椅子の脇の床面に倒れました。目を開けるとあの超高速展開が襲ってくるので、当然目をつぶりましたが、目をつぶっても今度は深い闇の底に頭全体が落ち込むような感覚がやってきて、それは非常なる恐怖でした。

それと同時に猛烈な吐き気が襲ってきました。床に吐くわけにはいかないので、右脇にあるゴミ箱に吐こうとしましたが、数センチ頭を上げることもままなりません。ようやく力を振り絞って、ゴミ箱に顔を突っ込みましたが、嗚咽ばかりで吐くものが出てきません。そのうち全身の冷や汗と悪寒が激しく襲ってきました。

「ヤバイヤバイヤバイ」。実際心の中でそう叫びました。あるいは声に出ていたかもしれません。「ヤバイヤバい」とすぐ口につくのは、語彙がない証拠と何かに書いてありましたが、恥ずかしながらほんとにそのフレーズしか出てこなかったのだから仕方ありません(笑)。

しかしそれと同時にその当時話題になっていた、あるトピックな科学的スキャンダルで自死した医師のことが脳裏をかすめました。
「このままだとあの先生と同じあっちの世界に行ってしまうかもしれない」そのスキャンダルのテレビ映像などもまぎれこみながらそんなことが瞬時に頭をよぎりました。

びっくりしたのが、そのような激動とも言える襲来下にあっても、こういったある種の言葉のリフレインとか、ひとつの映像とかが鮮明に浮かび上がるということです。
これこそ無意識的領域と言うのかもしれません。

それから1分位して、ようやく医者としての思考回路が少し起動し始めました。全身発汗にめまい、吐き気だから、気温のせいもあり(そのときなぜかエアコンをつけていませんでした)熱中症をまず鑑別診断の第一候補、末梢性めまいを第2候補として考えました、一応専門の心房細動心原性脳塞栓だったらシャレにならないと思い(と言うより本能的にでしたが)自脈を取ったところ、整でした。熱中症だったら点滴をしなければならないとこの時点で思い立ち、家にいる家人(妻:元看護師)に電話をしようと携帯電話を探しましたが、机の上にあることは発見できたものの、起き上がって取り上げることができません。

頭をほんの数センチも上げると、例の多方向性ランダム高速風景移動が襲ってきます。でも、とにかく携帯をゲットしないことには何も始まりません。このときは本当の意味で、渾身の力を振り絞って、上半身だけ起き上がり、片目だけあけて机の縁から数センチに横たわる携帯を素早く右手で取り上げました。もちろんその直後、まさに地獄のようなあの高速移動が襲ってきました。

目をつぶってそれをやり過ごした後、どうにかスマホの「よく使う項目」から妻のところをタッチし、電話しました.後から聞くとまさに息も絶え絶えにヤバイ早く来てとか言っていたそうです(ここでも「ヤバイ」)。幸い家は歩いても近くなので、すぐに妻がやってきました。ドアを開けた瞬間声を上げていましたが、その直後には事の重大さを悟ったようで、診察室から血圧計と点滴セット一式を素早く持ってきてくれました。

そこでようやく血圧を測ったところ177/100mmHgだったのです。熱中症だと思っていた予測がかなり怪しくなり、又今まで経験したことのない高血圧の値に心底恐れを感じました。そのまま点滴を30分しましたが症状は一向に治まりません。血圧も下がりません。「脳血管の問題かもしれない」このとき始めて本当の意味で「ヤバい」と思いました。

そのうち、尿意を感じていることに気づきました。しかも猛烈な。少しの体の動きでも失禁してしまいそうな感じでした。先ほどと同じように渾身の力を振り絞って、トイレまで歩こうと一瞬起き上がりましたが、今度はもう1センチたりとも頭を上げることもできませんでした。

これはもう病院に行くしかない。。神経内科医として最も尊敬している医師の自宅に電話して、アドバイスをもらいました。その結果私が医師生活のほとんどを過ごした市内の病院に救急搬送されることになりました。

まもなく、救急車のサイレンとともに救急隊の方が私の部屋に2−3人入られ、瞬く間に担架に乗せられました。このとき既に午後11時を回っていました。ご近所の方は、まさか医院から医者が救急車で運ばれるなど思ってもみないことでしたでしょう。その後ほどなくして、初めての長期にわたる入院生活に入ることになります。

### 退院して既に1ヶ月と3週間が過ぎ、まだ慢性的な後頭部痛と首を動かすたびに微妙なめまいがあるものの、ようやく心身に少し余裕ができてきています。
だんだん、発病時の感覚が失われ日常に戻りつつありますが、あのときの感覚をつなぎ止め、同じような病に悩む人の参考になればと考え、このような文章を書いています。

大きな病気を経て、思うことが多すぎて、それはもう語り尽くせません、ただ現在社会生活を曲がりなりにも営むことができている現状から考えると、私の場合ですが、病と言うのは
戦うものではなく、共にあるべきもの、自己と言うモザイクの中に突然やってきて(今回の場合)、そのパッチワークに時々刻々姿を変えながら組み込まれていくもののように思います。そういう意味では闘病記と言うより「共病記」と言った方が今回の場合しっくりきます。

続きも時間を見て書いていこうと思います。

と言うことで、今日の散歩。雲ひとつない秋の早朝の広瀬川。最高です。遠くにまたも芋煮会集団がいます。朝の7時なのに(笑)。
a0119856_22384168.jpg

by dobashinaika | 2014-10-19 22:49 | 医者が患者になった時 | Comments(2)
Commented at 2014-10-20 20:22 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by dobashinaika at 2014-10-20 22:28
お久しぶりです。さいわいその手前でとどまりました。今は普段通り診療しています。これからもよろしくお願い致します。


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


by dobashinaika

プロフィールを見る
画像一覧
更新通知を受け取る

S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

カテゴリ

全体
インフォメーション
医者が患者になった時
患者さん向けパンフレット
心房細動診療:根本原理
心房細動:重要論文リンク集
心房細動:疫学・リスク因子
心房細動:診断
抗凝固療法:全般
抗凝固療法:リアルワールドデータ
抗凝固療法:凝固系基礎知識
抗凝固療法:ガイドライン
抗凝固療法:各スコア一覧
抗凝固療法:抜歯、内視鏡、手術
抗凝固療法:適応、スコア評価
抗凝固療法:比較、使い分け
抗凝固療法:中和方法
抗凝固療法:抗血小板薬併用
脳卒中後
抗凝固療法:患者さん用パンフ
抗凝固療法:ワーファリン
抗凝固療法:ダビガトラン
抗凝固療法:リバーロキサバン
抗凝固療法:アピキサバン
抗凝固療法:エドキサバン
心房細動:アブレーション
心房細動:左心耳デバイス
心房細動:ダウンストリーム治療
心房細動:アップストリーム治療
心室性不整脈
Brugada症候群
心臓突然死
不整脈全般
リスク/意思決定
医療の問題
EBM
開業医生活
心理社会学的アプローチ
土橋内科医院
土橋通り界隈
開業医の勉強
感染症
音楽、美術など
虚血性心疾患
内分泌・甲状腺
循環器疾患その他
土橋EBM教室
寺子屋勉強会
ペースメーカー友の会
新型インフルエンザ
3.11
未分類

タグ

(40)
(35)
(35)
(27)
(27)
(26)
(25)
(24)
(21)
(20)
(20)
(19)
(18)
(16)
(14)
(13)
(13)
(13)
(13)
(13)

ブログパーツ

ライフログ

著作

もう怖くない 心房細動の抗凝固療法


プライマリ・ケア医のための心房細動入門

編集

治療 2015年 04 月号 [雑誌]

最近読んだ本

ケアの本質―生きることの意味


ケアリング―倫理と道徳の教育 女性の観点から


中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく)


健康格差社会への処方箋


神話・狂気・哄笑――ドイツ観念論における主体性 (Ν´υξ叢書)

最新の記事

【Apple Heart S..
at 2019-11-26 07:35
心房細動合併透析患者において..
at 2019-11-21 06:49
日本の心房細動患者の死因の半..
at 2019-11-11 07:22
CHA2DS2-VAScスコ..
at 2019-10-30 17:36
中高年開業医におけるヤブ化防..
at 2019-10-18 07:27
日経メディカルオンライン:第..
at 2019-10-15 06:26
新規発症心房細動では服薬アド..
at 2019-10-06 10:47
心房細動診断においてスマホに..
at 2019-09-19 06:30
第17回どばし健康カフェ「心..
at 2019-09-05 08:51
強い症状のない血行動態の安定..
at 2019-09-04 06:36

検索

記事ランキング

最新のコメント

いつもブログ拝見しており..
by さすらい at 16:25
いつもブログ拝見しており..
by さすらい at 16:25
取り上げていただきありが..
by 大塚俊哉 at 09:53
> 11さん ありがと..
by dobashinaika at 03:12
「とつぜんし」が・・・・..
by 11 at 07:29
> 山川玲子さん 山川..
by dobashinaika at 23:14
運慶展を観た方にWEB小..
by omachi at 19:45
> terryさん ご..
by dobashinaika at 08:38
簡潔なまとめ、有り難うご..
by 櫻井啓一郎 at 23:16
いつも大変勉強になります..
by n kagiyama at 14:39

以前の記事

2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 03月
2007年 03月
2006年 03月
2005年 08月
2005年 02月
2005年 01月

ブログジャンル

健康・医療
病気・闘病

画像一覧

ファン