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なぜ新薬発売後に重大な副作用が出てしまうのか?

既に報道されておりますように、糖尿病新薬のSGLT2阻害薬における市販後調査で2人の死亡例が報告されたとの報道がなされました。
http://www.yomiuri.co.jp/national/20141011-OYT1T50075.html?from=fb

対象薬はサノフィと興和が製造販売を手がける「アプルウェイ/デベルザ」と、アストラゼネカなどが販売する「フォシーガ」です。以下のPDFに概要が報告されています。
http://e-mr.sanofi.co.jp/di/information/APWPV999F1.pdf?date=20141012210604
http://med2.astrazeneca.co.jp/product/fxg_report201410.pdf

両者とも、脱水が背景にあり利尿薬を服用しているケースのようです。
もちろん、上記の条件が揃っていても重篤にならないケースも有り、正確な死因は今後の検討がまたれるところです。

しかしながら、同薬は本年4月の発売以来既に日本糖尿病学会から「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」が2回も出され、そのなかで「利尿薬との併用 は推奨されない。」と明記されています。

また別の薬ですが、最近では新規経口抗凝固薬(NOAC)の登場の時にも、最初の市場上梓薬であるプラザキサが発売されて5ヶ月でブルーレターがでて、5例の死亡報告が紹介され、これらはいずれも添付文書から外れた腎機能低下患者に投与されていた例でした。
http://dobashin.exblog.jp/13276881/

これらの新薬は、いずれも製薬会社が莫大な資金を投入して開発し、これまた莫大な資金による第III相臨床試験を経て世に出たものです。どちらもそれまでの治療薬とは異なる新しい機序の薬として、メディアその他で盛大に宣伝されたのは記憶にあたらしいところです。

もちろん市販後調査は全数調査ではありませんし、先行薬でも副作用としての死亡報告はありますので、新薬が既存薬に比べリスク(インパクトx確率)が高いかどうかは、この段階では不明です。

ここで問題にしたいのはリスクの多寡ではなく、添付文書や学会から注意喚起がなされていたのにもかかわらず、どうしてそこから外れた使用がなされてしまうのかということです。こうした新薬の発売当初にどうして毎度のごとくこのような深刻な有害事象が起きてしまうのでしょうか

まず一番目に問題となるのは、やはり上記のような注意喚起がなされているにもかかわらず利尿薬投与下で処方した医師側のあり方でしょう。特に新薬の場合、添付文書をよく把握し、また学会からの情報には敏感になるべきでしょう。

しかし問題の背景はもっと深いものがあると思われます。
こうした新薬は、今言ったように莫大な経費をかけた無作為化比較試験(RCT)を経て、ある程度の臨床的有効性と安全性が保証された上で当局の認可がおります。しかしこの無作為比較試験を主な根拠とした有効性安全性には問題があります。

たとえばNOACのRCTはすでに4つの1万人以上規模のものが結果発表され、認可の最大の根拠となっているわけですが、このRCTというのが現実世界の対象患者とは性質を異にする集団なのです。RCTは厳密な選考基準、除外基準を通って選ばれた患者集団であり、服薬アドヒアランスは良好で、重症合併症や超高齢者の登録は非常に少ないのです。英国のgeneral physician対象の調査では、実際の診療所で処方する患者さんのうちRCTの選択基準に合致する人は56〜74%に過ぎなかったという報告もあります。
http://dobashin.exblog.jp/17009757/

このように、そもそも現実世界の病院診療所の患者さんは、RCTのような整ったプロフィールのひとばかりでない、様々な背景を持った人の集団ですので、実際処方してみたら、予期しなかったような有害事象が出現する可能性が常にあると言わざるを得ません。

以前ものべましたが、こうしたRCTと現実世界のギャップを埋めるものとして登録研究を始めとする観察研究がありますが、SGLT2もNOACもそうした観察研究が出る前のRCTの段階から市場に出回りました。その分野の専門医でない場合、そうしたRCTの選択基準まではチェックしませんし、ある特殊なケースでどのような有害事象が予想されるという点に関して、専門医が感じるような臨床的経験もありません。

もちろん、処方するすべての医師に、処方上の基本的注意事項の把握が求められるのは当然ですが、この問題は、そのような医師側の問題だけでなく、今述べたような新薬の信頼性に関する構造的な問題も、同時にいやそれ以上に考えるべきではないかと思います。

たとえば、ヨーロッパの不整脈学会(EHRA)では、NOACの使い方に関して、ガイドラインとはまた別に、処方の仕方、患者フォローアップの仕方から他薬への切り替え方に至るまで、詳細かつ明確に、実践的な手引書が作られています。
http://www.escardio.org/communities/EHRA/publications/novel-oral-anticoagulants-for-atrial-fibrillation/Pages/welcome.aspx

全部の新薬でという訳にはいかないかもしれませんが、非専門医にも広く処方が求められる今回のような薬では、専門医がまず一定期間使用し、また登録研究がある程度出揃い、上記のようなプラクティカルガイドが専門医の間で作られるようになってから非専門医が初めて処方できるような、一定の規則を設けるのもひとつの方策ではないかと思われます。

そうしたシステムが確立されでもしない限り、非専門医としての基本は、少なくとも「ある一定のコンセンサスが出るまでは非専門医は新薬の処方は、見守りの姿勢」だと思います。

先日のブログで、ノンアドヒアランスの総説を読みましたが、このように薬剤処方の根幹に関わるような問題は、その要因も構造的です。ノンアドヒアランスの原因も、患者のリテラシー不足などといった単一なものではなく、薬そのものの問題、患者側の問題、医師側の問題、医療システムの問題など、さまざまな要因が絡んだ複雑な様相なのであるのが常であり、そのためそれに対する方策もmultimodalにならざるを得ません

新薬有害事象対策も同様で、われわれ医師側も十分慎重な姿勢が求められますが、同時にシステムそのものの問題点へのアプローチがもっと論議されて良いのではと思います。

えーそれで、しかしながら、実はこの問題はさらに根が深くて、これほど大きな新薬開発には莫大な宣伝が付きもので、そのような製薬会社経由の情報がやはり情報源の中の大きな位置を占めてしまうという医師の情報収集のあり方に言及せざるをえないことになります(やっぱりそこかw)。これこそ構造的な問題だと思われます。開業医はMRさんの情報だけを鵜呑みにするな、自分で情報を収集するスキルを身につけよ、、、といくら言葉にしても現実世界は堅固かもしれません。これもシステムへの介入が必要なのだろうと思います。具体的方策は。。上記のような規制も一法ですが。。。また考えます。

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今朝の散歩は広瀬川河畔から牛越橋付近。朝の7時ですが既に芋煮会始まってました^^
by dobashinaika | 2014-10-12 22:49 | 医療の問題 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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