心血管診療におけるノンアドヒアランスについての総説:EHJ誌
European Heart Journalの「心血管治療におけるノンアドヒアランス(服薬アドヒアランス不良)」についての総説
Non-adherence to cardiovascular medications* Kumaran Kolandaivelu1,2,
Benjamin B. Leiden, Patrick T. O'Gara, Deepak L. Bhatt
Eur Heart J (2014)doi:10.1093/eurheartj/ehu364
キーポイントは以下
・ノンアドヒアランスは世界的であり治療不良、アウトカム劣化のリスク因子
・ノンアドヒアランスのインパクトは治療による、特定の治療の文脈内で定義され評価される
・ノンアドヒアランスの原因は多要素であり、患者特異的である。スクリーニングツールの適応は不確定で無効と考えられる
・ノンアドヒアランスの治療は多元的で、エネルギーを使う:テーラーメイドでコラボ化されたスクリーニングが必要。それらは患者、プロバイダー、ペイヤーが費用対効果を最大限にするために必要とされる
ノンアドヒアランスはグローバルなもので、REACHレジストリーの服薬アドヒアランスは最も低い中近東で40%くらい、最高のアジアでも70%くらいです。その他主要な心血管系登録研究も、66〜78%くらいのアドヒアランスです。
また一般的にRCTのアドヒアランスは良好で、スタチンの試験で有名なWOSCOPSは75%、4Sは88%でしたが、登録研究のOntariI Databaseでは
30~40% でした。
アドヒアランスがアウトカムに及ぼす影響は薬によっても違うので一律に語れません。半減期の長い薬はそれほど影響されませんが、短い薬は致死的となることがあります。
しかしそうはいっても、トータルとして、ノンアドヒアランスの患者さんは継続して飲むひとよりアウトカムは一般的に悪いです。
PREMIER試験ではノンアドヒアランスの人の死亡率はアスピリンにおいて1.83倍、スタチンで2.86倍でした。
その原因としては、多くのものが関与しており以下が挙げられています。
治療的側面として:副作用、薬の多さ、コスト
患者の要因として:低ヘルスリテラシー、社会経済的地位、年齢、性別、宗教、地域、民族、文化的経験的信仰、メンタルヘルス
ヘルスシステムとして:エビデンスベースと解決策の欠如
プロバイダーの問題として:不敵さつなコミュニケーション、早急な判断、ポリファーマシー、文化的経験的信仰
病院の問題として:適切なスクリーングツールの欠如、サポート体制の欠如、診療時間の短さ、医師がよく変わること
保険上の問題として:医療保険がない
対策としてはこれらの克服となるわけですが、なかなかひと筋なわでは行かないようです。
教育ツールとしては昔ながらのカレンダーや薬箱から、モバイルPCアプリなどによるネットワークシステムまででており、アドヒアランスを評価するバイオマーカーも開発されています。しかしコストや複雑さなどの点から、広く普及するには至っていません。
しかしやはり患者教育はやり方によっては有効で、FAMEというトライアルでは、従来通りの方法と、マルチコンポーネントな方法(ブリスターパックの配布など)を比較し、当初2群とも従来通りの方法では5%のアドヒアランス(本当?)しかなかったのが、マルチコンポーネント法だと98.7%に増加し、それを従来通り戻すと21.7%に減り、戻さない群では97.4%だったとのことです。
まあ教育ばかりでなく、薬そのものへのモチベーション、ゴールの共有、ポリファーマシーや服薬回数の減少などの取り組みも重要と思われます。
しかし登録研究のアドヒアランスが50%未満とか良くて70%というのでは、RCTがそのまま現実世界に適応したくてもできないわけですね。
筆者の言うように、「ノンアドヒアランスはEBMを土台から崩す(undermine)」わけで、エビデンスの批判的吟味と平行して、いやこれまであまり取り組まれてこなかったので、それ以上に今後のメインテーマだろうと思います。
Non-adherence to cardiovascular medications* Kumaran Kolandaivelu1,2,
Benjamin B. Leiden, Patrick T. O'Gara, Deepak L. Bhatt
Eur Heart J (2014)doi:10.1093/eurheartj/ehu364
キーポイントは以下
・ノンアドヒアランスは世界的であり治療不良、アウトカム劣化のリスク因子
・ノンアドヒアランスのインパクトは治療による、特定の治療の文脈内で定義され評価される
・ノンアドヒアランスの原因は多要素であり、患者特異的である。スクリーニングツールの適応は不確定で無効と考えられる
・ノンアドヒアランスの治療は多元的で、エネルギーを使う:テーラーメイドでコラボ化されたスクリーニングが必要。それらは患者、プロバイダー、ペイヤーが費用対効果を最大限にするために必要とされる
ノンアドヒアランスはグローバルなもので、REACHレジストリーの服薬アドヒアランスは最も低い中近東で40%くらい、最高のアジアでも70%くらいです。その他主要な心血管系登録研究も、66〜78%くらいのアドヒアランスです。
また一般的にRCTのアドヒアランスは良好で、スタチンの試験で有名なWOSCOPSは75%、4Sは88%でしたが、登録研究のOntariI Databaseでは
30~40% でした。
アドヒアランスがアウトカムに及ぼす影響は薬によっても違うので一律に語れません。半減期の長い薬はそれほど影響されませんが、短い薬は致死的となることがあります。
しかしそうはいっても、トータルとして、ノンアドヒアランスの患者さんは継続して飲むひとよりアウトカムは一般的に悪いです。
PREMIER試験ではノンアドヒアランスの人の死亡率はアスピリンにおいて1.83倍、スタチンで2.86倍でした。
その原因としては、多くのものが関与しており以下が挙げられています。
治療的側面として:副作用、薬の多さ、コスト
患者の要因として:低ヘルスリテラシー、社会経済的地位、年齢、性別、宗教、地域、民族、文化的経験的信仰、メンタルヘルス
ヘルスシステムとして:エビデンスベースと解決策の欠如
プロバイダーの問題として:不敵さつなコミュニケーション、早急な判断、ポリファーマシー、文化的経験的信仰
病院の問題として:適切なスクリーングツールの欠如、サポート体制の欠如、診療時間の短さ、医師がよく変わること
保険上の問題として:医療保険がない
対策としてはこれらの克服となるわけですが、なかなかひと筋なわでは行かないようです。
教育ツールとしては昔ながらのカレンダーや薬箱から、モバイルPCアプリなどによるネットワークシステムまででており、アドヒアランスを評価するバイオマーカーも開発されています。しかしコストや複雑さなどの点から、広く普及するには至っていません。
しかしやはり患者教育はやり方によっては有効で、FAMEというトライアルでは、従来通りの方法と、マルチコンポーネントな方法(ブリスターパックの配布など)を比較し、当初2群とも従来通りの方法では5%のアドヒアランス(本当?)しかなかったのが、マルチコンポーネント法だと98.7%に増加し、それを従来通り戻すと21.7%に減り、戻さない群では97.4%だったとのことです。
まあ教育ばかりでなく、薬そのものへのモチベーション、ゴールの共有、ポリファーマシーや服薬回数の減少などの取り組みも重要と思われます。
しかし登録研究のアドヒアランスが50%未満とか良くて70%というのでは、RCTがそのまま現実世界に適応したくてもできないわけですね。
筆者の言うように、「ノンアドヒアランスはEBMを土台から崩す(undermine)」わけで、エビデンスの批判的吟味と平行して、いやこれまであまり取り組まれてこなかったので、それ以上に今後のメインテーマだろうと思います。
by dobashinaika
| 2014-10-08 23:48
| EBM
|
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土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。
by dobashinaika
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筆者は、2013年4月以降、ブログ内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません
●医療法人土橋内科医院
●日経メディカルオンライン連載「プライマリケア医のための心房細動入門リターンズ」
●ケアネット連載「Dr,小田倉の心房細動な日々〜ダイジェスト版〜」
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