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ジギタリスは心房細動患者の死亡率上昇に関与する:JACC誌

休んでいる間に重要な論文が結構出ていますね。
まずはこれ。

Increased Mortality Associated With Digoxin in Contemporary Patients With Atrial Fibrillation: Findings From the TREAT-AF Study
Turakhia MP, Santangeli P, Winkelmayer WC, et al.
J Am Coll Cardiol 2014;64:660-668.


疑問:ジゴキシンは新規発症心房細動の予後を悪化させるのか?

方法;
・退役軍人協会からのTREAT-AF (The Retrospective Evaluation and Assessment of Therapies in AF) study のデータを使用
・2004~2008年まで、外来で90日の間に新たに診断された心房細動患者対象
・多変量解析、プロペンシティーマッチさせたCox比例ハザードモデル、感度分析を使用

結果:
1)353,168人年中、122,465人のうち、28,679人(23.4%)がジゴキシン使用

2)平均72歳。98.4%男性

3)死亡率:ジゴキシン群95 vs. 無治療群67 対1000人年。p<0.001

4)ジゴキシン使用は、死亡率の独立危険因子
     多変量解析後ハザード比:1.26(1.23−1.29.p<0.001)
     プロペンシティーマッチ後:1.21 (1.17-1.25. p<0.001)

5)服薬アドヒアランス補正後も同様

6)死亡リスクは年令、性別、腎機能、ベータ遮断薬、アミオダロン、ワルファリン使用に影響されない

結論;
ジゴキシンは服薬アドヒアランス、腎機能、心血管合併症、併存治療に無関係に、新規発症心房細動の死亡率を上げた。この所見は心房細動治療にジゴキシンを推奨している心血管関係の団体の推奨への挑戦

### 従来より、ジギタリスの心房細動レートコントロール関する効果については疑問符がついており、同様の試験でも正反対の解釈が発表されたりしていました。たとえば、AFFIRM試験のサブ解析です.以下のように2つの論文が正反対の結論を導いています。
http://dobashin.exblog.jp/17683246/

これらは、みな後付け解析であり、また対象例数も少なく、よりエビデンスレベルの高い試験が待たれていました。

今回の試験は、やはり観察研究ながら、傾向スコアマッチや多変量解析、感度分析などを駆使し、なるべく交絡因子を少なくする手法が施されています.また対象例数はかなり多いです。
これまでの研究の中では最も信頼に足る試験一つと思われます。なお心不全例は25%未満とのことです。

Limitationとしては、やはりそうとはいえ観察研究ですので、ジゴキシン投与の可否は現場判断になること、心機能が明示されていないので、ジゴキシン群では低心機能の例が多いかもしれないこと、退役軍人病院対象なのでほとんど男性であることなどがあげられると思われます。

機序としてはいろいろありますが、やはりジゴキシンの持つ迷走神経抑制効果は弱く、少しの運動などで相殺されてしまうことや、心房筋の不応期をかえって短縮される、あるいはくすりそのものの副作用など、以前から様々考えられていますね。

Editorialでも指摘されているように、この論文が出た以上、心房細動レートコントロールの第一選択としてジギタリスを使うことはしない、ということかと思います.そうはいっても当院でもまだかなりの方に処方しており、全国の施設でもまだまだ使われていると思います。ベータ遮断薬やCCBにどうきりかえるか、少々困った問題です。
by dobashinaika | 2014-08-23 10:00 | 心房細動:ダウンストリーム治療 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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