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心房細動抗凝固療法のリスク評価に関する論争?:Circulation J誌

Circulation Journal 8月号より

Modern Management of Atrial Fibrillation Requires Initial Identification of “Low-Risk” Patients Using the CHA2DS2-VASc Score, and Not Focusing on “High-Risk” Prediction
Gregory YH Lip et al
Circulation Journal Vol. 78 (2014) No. 8 p. 1843-1845


University of Birmingham CentreのGregory YH Lip先生が同雑誌6月号の東邦大学の池田先生のEditorialに対するコメントを寄せています。

池田先生のEditorialは以下です。
Which Score Should Be Used for Risk Stratification of Ischemic Stroke in Patients With Atrial Fibrillation
– A Simple or Detailed Approach? –
Circulation JournalVol.78, June 2014


その元論文は以下です。
CHADS2, CHA2DS2-VASc, and R2CHADS2 Scores Are Associated With 3-Month Functional Outcome of Stroke in Patients With Prior Coronary Artery Disease
Hoshino T et al
Circ J 2014; 78: 1481–1485


Lip先生のコメントは以下のようにまとめられます。
・Hoshinoらの論文は心房細動患者は全体の28.8%で11.8%の抗凝固薬内服患者の解析であり、心房細動コホート自体の予後予測を扱ってはいない
・別な大規模コホートではCHA2DS2-VAScスコアのほうがCHADS2スコアより予測能(c統計量)がよい
http://dobashin.exblog.jp/12036073/
・腎機能や多くのバイオマーカーは、予測能を改善するまでに至っていない
http://dobashin.exblog.jp/17632970/
・CHADS2スコアで「低リスク群」とされた患者は致死的で重大な脳卒中リスクにさらされるかもしれない
・デンマークの大規模コホートではCHADS2スコア0点でも年間3.2%の脳卒中リスクがある
・74歳女性で末梢血管疾患の既往のある患者(CHADS2スコア0点、CHA2DS2-VAScスコア3点)に対し抗凝固療法を控えることにだれが合理性を見出すのか?
・最近のサーベイではCHA2DS2-VAScスコア、HAS-BLEDスコアがかなり普及してきている
・世界的に、CHA2DS2-VAScスコアの妥当性が示されているがCHADS2スコアはそうではない
・欧州、アジア太平洋、米国、英国のガイドラインはCHA2DS2-VAScスコア採用

そして結論として以下のような図が示されています。
First stepとしてCHA2DS2-VAScスコア0点または女性のみの1点なら抗凝固療法なし。
Second stepとして上記以外なら抗凝固療法を決断し、TTR70%以上のビタミンK阻害薬またはNOAC
心房細動抗凝固療法のリスク評価に関する論争?:Circulation J誌_a0119856_071587.jpg


### あるEditorialが他のEditorialのコメントについてコメント(批判?)するという感じで、このようなやりとりはあまり見たことがなく、しかしそこには興味深い問題があると思われます。

まず、もとの論文が各スコアの「心房細動患者の脳卒中予測能」を比較した論文ではないので、なんでそこが論点にされたのかがそもそも変な感じがします。

私としては、CHADS2スコアかCHA2DS2-VAScスコアの二項対立の図式というのももはや不毛のような気もします。日本の2013年版ガイドラインも、よく見ると「女性」の代わりに心筋症が入っているだけで変形CHA2DS2-VAScスコアだと思います。
私は以前から言っているように、CHADS2スコアの75歳以上を65歳以上に変えて、1点以上は原則として投与という立場です。「血管疾患は」「高血圧」「糖尿病」「心不全」のどれかに吸収されるし、「女性」は65歳未満ではリスクとしてはエビデンスに乏しいし、という感じです。

となると結局Lip先生の図とほぼ同じということになります。

(追記)日本のガイドラインのあのアルゴリズムでCHADS2スコアの「0点」が、「その他のリスク」の「心筋症」「65歳〜74歳」「血管疾患」なんですね。私はこのアルゴリズムは「基本的にCHADS2スコアで適応を考えるが、0点の場合は以下の3項目を考慮する」と解釈しています。
ただこれはこれで、スコアリングの項目を差別化することになり、わかりやすくなったかどうかは微妙かもしれません。
心房細動抗凝固療法のリスク評価に関する論争?:Circulation J誌_a0119856_8275637.png


今回「おお」と思ったのは、TTRが70%以上なら(70%でNOACに匹敵すると考えられた根拠はいまひとつ不明で引用論文には詳細は記載なさそうでしたが)ワルファリンで良いと、Lip先生がわざわざ図にして公表されていることです。ESCガイドラインでもNICEでもTTRのことは触れられていないように思いました。

日本の場合、70歳未満でもINR1.6-2.6でよいとなればTTR70%は結構な患者さんがクリアすると思われます。がガイドライン通りだとかなり苦しくなります。この辺をどう考えるか。。。

それは置くとしても、私の経験上約7割の患者さんはかなりINRは安定していますので、のこり3割の患者さんにNOACを考えるという私のスタンスが推された感じでした。日本でもこの事をもっと検証していくべきだと思います。
by dobashinaika | 2014-08-08 00:14 | 抗凝固療法:適応、スコア評価 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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