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心房細動ガイドラインにおける「考慮可」とは何をどう「考慮」すればよいのか

本日あるメーカー主催の講演会で講演し、日本循環器学会の心房細動治療ガイドラインで、いつも疑問となる「考慮可」について考えてみました。
(この講演での謝礼は頂いておりません)。

本ガイドラインの”キモ”である21ページのチャートには2つの「考慮可」があります。ひとつはCHADS2スコア1点でリバーロキサバン,エドキサバン、ワルファリンは「考慮可」となっている点。もう一つはその他のリスクですべての抗凝固薬が「考慮可」となっている点です。

今回はその他のリスクの考慮可を考えてみます。その他のリスクは実はCHADS2スコア0点のことで、0点でも「心筋症」「65歳〜74歳」「血管疾患」では考慮していいよ、ということだと思います。この内心筋症はエビデンスもあるし、経験上特に肥大型心筋症は抗凝固療法していないと高率に脳梗塞になります。

「血管疾患」は心筋梗塞などですが、血管疾患のかたは高血圧や糖尿病、脳卒中の既往、高齢など必ずありますのでこれを加えることでの診断能の向上は少ないと思われます。

問題は「65〜74歳」です。何を「考慮」すればよいのでしょう

まずエビデンスです。有名なBMJのデンマークコホート研究の図ですが、「65歳以上」は高血圧、糖尿病、心不全と同等またはそれ以上のリスクのように見えます(BMJ 2011; 342:d124)

a0119856_0222617.png


いっぽう同じ北欧のスウェーデンの大規模コホート研究ですが、65歳以上の虚血性脳卒中のハザード比はなんと3.07倍です。
エビデンス的には65歳以上も、かなりのリスクを持っていると言えます。ちなみに有名野球監督は68歳で脳塞栓になっています(EHJ 2012; 33: 1500)

a0119856_0214454.png


でも例えば、こんな人を考えてください
a0119856_0241128.png

こういう人にいきなり抗凝固薬を勧めてもなかなか同意を得られないかもしれません。それまで全く元気で無症候性。動悸なし。それなのにある日突然、出血の副作用があるようなちょっと怖い薬を飲め、と言われてもだれでも困惑します。

こういうときにこのひとの抗凝固薬の適応度を「考慮」するのです。
何を考慮するか。まず血栓が起きやすい病態生理を持っているか。たとえば、血圧は本当に高くないか、喫煙、腎障害のような他の塞栓症危険因子がないかを考慮します。

つぎに患者さんがどの程度服薬に同意しているか。その納得度をさぐります。お話してみて前向きな感じかどうか、これもかなり重要です。

そして医者自身のスキルもあります。こういう若いCHADS2スコアの低い方にはNOACを使うことが推奨されていると思いますが、NOACの処方に慣れているか、など「考慮」すべきです。

たとえば、65〜74歳でも、喫煙があり、血圧コントロールが不良などのリスクを持つなど、動脈硬化の因子を多く持つひとは積極的に「考慮する」。
一方患者さんがあまり乗り気でない場合は積極的には服薬の意思決定をせまらないように「考慮する」ということなのだろうと思います。

要するにエビデンス以外の「病態生理」「患者の価値観」「医師の専門性」の3点を患者さんごとに考慮するということかとおもいます。
さしてさらに、上記3つそれぞれの妥当性や強さによって、おすすめするときの積極性につき「考慮する」

ガイドラインはエビデンス重視ですので、エビデンス以外の患者のナラティブ、医師のナラティブを考慮する。
まとめるとそういうことになろうかと思います。

このようなエビデンスと実際のそれ以外の要素のバランスを考え、行動するところに医師の裁量を発揮する予知が十分あるし、これもまた医療の醍醐味の一つと思うわけです。
by dobashinaika | 2014-08-01 00:26 | 抗凝固療法:ガイドライン | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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