医療訴訟と抗凝固療法についての講演を聴く
昨日は、医療訴訟における抗凝固療法について、医師と弁護士のダブルライセンスを持つ先生のご講演を拝聴しました。
非常に示唆に富むお話で、考えされられました。
以下当日の私のメモをもとに、私自身が得られた治験を箇条書きします。
もし内容に誤りがございましたら私の責任ですので、ご指摘いただければ幸いです。
・ 裁判(民事)は私人同士のトラブル解決が目的であり、医学的真実追求の場ではない
・ 争点は、当事者が上げてきたものが争点であり、それ以外のことを裁判官は判断しない
・ 訴訟自体を避けるという発想が大事
・いくつかの事例紹介
・脳梗塞発症後、ヘパリン投与され、慢性期にワルファリンに変更する際、最高速をきたした例:ヘパリンの中止が早かったことへの懸念
・ 電気的除細動後INRチェック頻度が少ないため、脳梗塞が起きたとして訴訟となった例
・訴訟とは;過失の判断→結果の存在→因果関係の立証という構造を持つ
・ 因果関係立証の際に医学的に適切かが問われる
・ その際、薬剤添付文書の存在は大きい
・ 薬剤投与開始の判断については添付文書が根拠となるとの最高裁の判例がある
・ ガイドラインは医学的妥当性を担保するものとされる
・ ワーファリンの調節が妥当か、検査結果の解釈や頻度などもガイドラインに準拠したかどうかが問われる
・ 医師の習慣や経験はあまり大きく扱われない
・ 中でもエビデンスレベルが重視される
・ ガイドラインから外れた治療を行う場合は、相応の合理的根拠があればよい
・ ワーファリンの管理が難しい症例が存在するというような経験則は、裁判では理解されにくい
・ NOACにおいての判断基準としては、やはりガイドライン、特に適応基準のチャートなどは良い判断材料となる
・ 個別の論文が根拠とはなりにくい
・ 添付文書の記載は重い
### 添付文書とガイドラインの重要性を思い知らされました。
ガイドラインから外れる治療の場合、相応の合理的理由が必要というのも納得です。
ガイドラインに記載のない場合、あるが現実的には行われていない治療法の場合、たとえば超高齢者への抗凝固療法等の場合は、難しいと思われます。
質疑応答の中で、訴訟に至るケースはほとんどがコミュニケーション不足であるとおっしゃられていたのが大変印象的でした。
Commented
by
悩める循環器内科医
at 2015-06-01 12:38
x
非常に示唆に富むお話で、考えされられました。
以下当日の私のメモをもとに、私自身が得られた治験を箇条書きします。
もし内容に誤りがございましたら私の責任ですので、ご指摘いただければ幸いです。
・ 裁判(民事)は私人同士のトラブル解決が目的であり、医学的真実追求の場ではない
・ 争点は、当事者が上げてきたものが争点であり、それ以外のことを裁判官は判断しない
・ 訴訟自体を避けるという発想が大事
・いくつかの事例紹介
・脳梗塞発症後、ヘパリン投与され、慢性期にワルファリンに変更する際、最高速をきたした例:ヘパリンの中止が早かったことへの懸念
・ 電気的除細動後INRチェック頻度が少ないため、脳梗塞が起きたとして訴訟となった例
・訴訟とは;過失の判断→結果の存在→因果関係の立証という構造を持つ
・ 因果関係立証の際に医学的に適切かが問われる
・ その際、薬剤添付文書の存在は大きい
・ 薬剤投与開始の判断については添付文書が根拠となるとの最高裁の判例がある
・ ガイドラインは医学的妥当性を担保するものとされる
・ ワーファリンの調節が妥当か、検査結果の解釈や頻度などもガイドラインに準拠したかどうかが問われる
・ 医師の習慣や経験はあまり大きく扱われない
・ 中でもエビデンスレベルが重視される
・ ガイドラインから外れた治療を行う場合は、相応の合理的根拠があればよい
・ ワーファリンの管理が難しい症例が存在するというような経験則は、裁判では理解されにくい
・ NOACにおいての判断基準としては、やはりガイドライン、特に適応基準のチャートなどは良い判断材料となる
・ 個別の論文が根拠とはなりにくい
・ 添付文書の記載は重い
### 添付文書とガイドラインの重要性を思い知らされました。
ガイドラインから外れる治療の場合、相応の合理的理由が必要というのも納得です。
ガイドラインに記載のない場合、あるが現実的には行われていない治療法の場合、たとえば超高齢者への抗凝固療法等の場合は、難しいと思われます。
質疑応答の中で、訴訟に至るケースはほとんどがコミュニケーション不足であるとおっしゃられていたのが大変印象的でした。
by dobashinaika
| 2014-07-27 22:50
| 抗凝固療法:全般
|
Comments(2)

初めまして。突然のコメントをお許し下さい。
日頃から少なくない心房細動患者さんを治療している循環器内科医です。
最近の相次ぐ国内データ(観察研究主体で十分なデータではないと思いますが)から、CHADS2低スコア患者さんへの抗凝固そのものの導入や、PT-INR強度についてどうだろう?と思うことしばしばでした。
私も先日ダブルライセンスをお持ちの先生(講演内容からは多分同じ O先生ではないかと思います)の講演を拝聴する機会がありました。
添付文書の内容やガイドラインが想像以上に重視されることなどをはじめとして、ブログ記事と内容と内容を講演されました。
もちろん事故なく治療できるのが最善ですが、抗凝固療法は一定の割合で出血をきたす両刃の剣であると思っています。
ガイドラインをやや下回る領域でのワルファリンコントロールなども実臨床ではある程度許容してきたのですが、果たしてそれで良いのかと考えさせられました。
日頃から少なくない心房細動患者さんを治療している循環器内科医です。
最近の相次ぐ国内データ(観察研究主体で十分なデータではないと思いますが)から、CHADS2低スコア患者さんへの抗凝固そのものの導入や、PT-INR強度についてどうだろう?と思うことしばしばでした。
私も先日ダブルライセンスをお持ちの先生(講演内容からは多分同じ O先生ではないかと思います)の講演を拝聴する機会がありました。
添付文書の内容やガイドラインが想像以上に重視されることなどをはじめとして、ブログ記事と内容と内容を講演されました。
もちろん事故なく治療できるのが最善ですが、抗凝固療法は一定の割合で出血をきたす両刃の剣であると思っています。
ガイドラインをやや下回る領域でのワルファリンコントロールなども実臨床ではある程度許容してきたのですが、果たしてそれで良いのかと考えさせられました。
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コメントありがとうございます。御返事遅くれましてすみません。日本人のしっかりしたリスク評価のデータがないことも問題かと思います。特に高齢者はやはり、ワーファリンでゆるめにコントロールということでしか対応できないのが現状ですね。ご指摘の通り難しい問題と思います。
土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。
by dobashinaika
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筆者は、2013年4月以降、ブログ内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません
●医療法人土橋内科医院
●日経メディカルオンライン連載「プライマリケア医のための心房細動入門リターンズ」
●ケアネット連載「Dr,小田倉の心房細動な日々〜ダイジェスト版〜」
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