英国NICEの抗凝固薬意思決定ツールには考えさせられる
以前紹介した英国NICE(英国王立臨床評価研究所)の心房細動ガイドラインの付帯資料として患者さん向けの「意思決定支援ツール」が公表されていますが、これが、私などには感動モノの出来栄えなので、その一端をチャプターごとに紹介します
。http://guidance.nice.org.uk/CG180/PatientDecisionAid/pdf/English
「心房細動とはなにか」
大まかな心房細動の症状などの記載があり。
「あなたの脳卒中リスクを減らす治療オプション」
”あなたは抗凝固薬を飲むか飲まないかを選ぶことができます。もし飲むと決めた場合はどの抗凝固薬を飲むかを決める必要があります。このツールはどの選択肢に重きをおくかについて助言し、あなたを正しい決定に導くためのものです”
と宣言されています。
「あなたの選択を助ける意思決定ツールの使用」
”もしあなたが、心房細動と診断されたら、直ぐに意思決定をする必要があります(数日以内に)。でも大抵の人はすぐに決めなければならないわけではありません”との記載があります。
「NICEは何を勧めるのか」
・CHA2DS2-VAScスコアとHAS-BLEDスコアに基づいて決める
・しかし以下のことを心に留めておくことが大切
1)だれもその一人の人に将来何が起こるかはわからない
2)たとえあなたがどちらかのスコアが低いかゼロであっても、あなたは脳梗塞や大出血をきたすかもしれない
3)もしあなたのスコアが高くても、それはあなたが必ず脳梗塞や大出血を起こすことを意味しません
4)抗凝固薬をのむことはある人々を脳梗塞になることから救いますが、幾人かの人は例え抗凝固薬を飲んでも、脳卒中を発症します。
5)抗凝固薬を飲むことは大出血リスクを増やしますが、この薬を飲む多数の人に大出血が起こるわけではありません。何人かのひとは薬を飲まなくても、大出血をきたします。
「あなたの脳梗塞リスクを減らすための治療方法についての詳細」:
「何も飲まない」「ワルファリンを飲む」「NOACを飲む」の3つの選択肢ごとに以下の問に対する答えを図入りで説明
1.その選択はどういうものですか?:薬の飲み方など
2.私の脳卒中リスクは減りますか?
3.私の大出血リスクは減りますか?
4.他の主な副作用はなんですか?
5.定期的な採血が必要ですか?
6.薬を飲み忘れたらどうなりますか?
7.食べ物、飲み物に気をつけるべきですか?
8.他の薬との飲み合わせはどうですか?
9.緊急でない手術(抜歯含む)の時はどうなりますか?
10.緊急時(けがや緊急手術)に中和薬が必要なときはどうなりますか?
「その選択をどう思いますか?」
以下の質問につき「大変重要」「重要」「重要でない」「全く重要でない」のどれかに○をつける
・薬は何を飲むか、そしてその回数
・脳梗塞リスクへの効果
・他の主要な副作用
・定期的な採血の必要性
・飲み忘れた時に何が起こるか
・食時や飲み物への影響
・他に飲んでいる薬の影響
・緊急でない手術の時どうなるか?
・中和薬が必要な場合どうなるか?
「その他ヘルスケアプロフェッショナルに話したいことを書いてください」
### 考えさせられるツールです。
「NICEは何を勧めるのか」の5つの説明文は、英国のヘルスケアプロがあくまで患者さんを一人の人として、自律した一個人として扱うという精神に貫かれているように思います。ここに書かれていることは、全く真実であり、リスクを客観的に捉える視点が徹底化されていると思います。
ただし、日本でこのような文言を文章化して、患者さんにお見せした場合どうなるか。懸念はあります。
「たとえあなたがどちらかのスコアが低いかゼロであっても、あなたは脳梗塞や大出血をきたすかもしれない」
こう言われたら、患者さんは相当戸惑うのではないでしょうか?
それを補うツールとして、ニコニコマークのシェーマが出てきます。
たとえば、これはCHA2DS2-VAScスコア2点の時、1,000人の心房細動のひとが抗凝固薬を飲まなければ赤の25人が脳卒中になり、残り975人はならない。これに抗凝固薬を飲んだ場合を想定すると下図のように、17人の人が脳卒中にならなくて済むが、8人は相変わらず脳卒中になる。残り975人は飲んでも飲まなくてもそのまま。
というふうに説明するわけです。
当院でもこれに類似の図を実際に使ったことがありますが、患者さんの反応は様々です。飲んで17人が助かるということを重視して飲むというひと、飲んでも飲まなくても975人はそのままで脳卒中にならないことで、そんなに薬とは聞かないものかとびっくりしするひと、飲んでも8人は脳卒中になることを重視して、飲みたくないというひと。
これに出血リスクが加わると、ますます飲みたくないという人が増えるかもしれません。
この図の提示は、絶対リスク表示ですが、患者さんが薬を飲まない傾向に傾くことが知られていますね。
http://dobashin.exblog.jp/12331254/
医師の説明の仕方にもかなり左右されるように思います。
それでも、こうしたある意味フェアな説明法国のガイドラインの付帯資料にしっかりと明記するところに、英国の偉いところを感じます。
日本版ツールを作りたいと強く思わされました。
。http://guidance.nice.org.uk/CG180/PatientDecisionAid/pdf/English
「心房細動とはなにか」
大まかな心房細動の症状などの記載があり。
「あなたの脳卒中リスクを減らす治療オプション」
”あなたは抗凝固薬を飲むか飲まないかを選ぶことができます。もし飲むと決めた場合はどの抗凝固薬を飲むかを決める必要があります。このツールはどの選択肢に重きをおくかについて助言し、あなたを正しい決定に導くためのものです”
と宣言されています。
「あなたの選択を助ける意思決定ツールの使用」
”もしあなたが、心房細動と診断されたら、直ぐに意思決定をする必要があります(数日以内に)。でも大抵の人はすぐに決めなければならないわけではありません”との記載があります。
「NICEは何を勧めるのか」
・CHA2DS2-VAScスコアとHAS-BLEDスコアに基づいて決める
・しかし以下のことを心に留めておくことが大切
1)だれもその一人の人に将来何が起こるかはわからない
2)たとえあなたがどちらかのスコアが低いかゼロであっても、あなたは脳梗塞や大出血をきたすかもしれない
3)もしあなたのスコアが高くても、それはあなたが必ず脳梗塞や大出血を起こすことを意味しません
4)抗凝固薬をのむことはある人々を脳梗塞になることから救いますが、幾人かの人は例え抗凝固薬を飲んでも、脳卒中を発症します。
5)抗凝固薬を飲むことは大出血リスクを増やしますが、この薬を飲む多数の人に大出血が起こるわけではありません。何人かのひとは薬を飲まなくても、大出血をきたします。
「あなたの脳梗塞リスクを減らすための治療方法についての詳細」:
「何も飲まない」「ワルファリンを飲む」「NOACを飲む」の3つの選択肢ごとに以下の問に対する答えを図入りで説明
1.その選択はどういうものですか?:薬の飲み方など
2.私の脳卒中リスクは減りますか?
3.私の大出血リスクは減りますか?
4.他の主な副作用はなんですか?
5.定期的な採血が必要ですか?
6.薬を飲み忘れたらどうなりますか?
7.食べ物、飲み物に気をつけるべきですか?
8.他の薬との飲み合わせはどうですか?
9.緊急でない手術(抜歯含む)の時はどうなりますか?
10.緊急時(けがや緊急手術)に中和薬が必要なときはどうなりますか?
「その選択をどう思いますか?」
以下の質問につき「大変重要」「重要」「重要でない」「全く重要でない」のどれかに○をつける
・薬は何を飲むか、そしてその回数
・脳梗塞リスクへの効果
・他の主要な副作用
・定期的な採血の必要性
・飲み忘れた時に何が起こるか
・食時や飲み物への影響
・他に飲んでいる薬の影響
・緊急でない手術の時どうなるか?
・中和薬が必要な場合どうなるか?
「その他ヘルスケアプロフェッショナルに話したいことを書いてください」
### 考えさせられるツールです。
「NICEは何を勧めるのか」の5つの説明文は、英国のヘルスケアプロがあくまで患者さんを一人の人として、自律した一個人として扱うという精神に貫かれているように思います。ここに書かれていることは、全く真実であり、リスクを客観的に捉える視点が徹底化されていると思います。
ただし、日本でこのような文言を文章化して、患者さんにお見せした場合どうなるか。懸念はあります。
「たとえあなたがどちらかのスコアが低いかゼロであっても、あなたは脳梗塞や大出血をきたすかもしれない」
こう言われたら、患者さんは相当戸惑うのではないでしょうか?
それを補うツールとして、ニコニコマークのシェーマが出てきます。
たとえば、これはCHA2DS2-VAScスコア2点の時、1,000人の心房細動のひとが抗凝固薬を飲まなければ赤の25人が脳卒中になり、残り975人はならない。これに抗凝固薬を飲んだ場合を想定すると下図のように、17人の人が脳卒中にならなくて済むが、8人は相変わらず脳卒中になる。残り975人は飲んでも飲まなくてもそのまま。
というふうに説明するわけです。
当院でもこれに類似の図を実際に使ったことがありますが、患者さんの反応は様々です。飲んで17人が助かるということを重視して飲むというひと、飲んでも飲まなくても975人はそのままで脳卒中にならないことで、そんなに薬とは聞かないものかとびっくりしするひと、飲んでも8人は脳卒中になることを重視して、飲みたくないというひと。
これに出血リスクが加わると、ますます飲みたくないという人が増えるかもしれません。
この図の提示は、絶対リスク表示ですが、患者さんが薬を飲まない傾向に傾くことが知られていますね。
http://dobashin.exblog.jp/12331254/
医師の説明の仕方にもかなり左右されるように思います。
それでも、こうしたある意味フェアな説明法国のガイドラインの付帯資料にしっかりと明記するところに、英国の偉いところを感じます。
日本版ツールを作りたいと強く思わされました。
by dobashinaika
| 2014-07-10 00:23
| 心房細動診療:根本原理
|
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土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。
by dobashinaika
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筆者は、2013年4月以降、ブログ内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません
●医療法人土橋内科医院
●日経メディカルオンライン連載「プライマリケア医のための心房細動入門リターンズ」
●ケアネット連載「Dr,小田倉の心房細動な日々〜ダイジェスト版〜」
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