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長期間宇宙飛行と不整脈:Journal of Arrhythmia誌

Journal of Arrhythmia Volume 30, Issue 3 , Pages 139-149, June 2014
Cardiac arrhythmias during long-duration spaceflights
Tagayasu Anzai et al


1.イントロ

2.歴史

2.1 アポロ計画
・2人:心室期外収縮、心房期外収縮。1人は低カリウムが原因

2.2 スカイラブ計画
・いくつか報告あり、多くは心室期外収縮
・下半身陰圧訓練中の心室期外収縮ショートランや心房期外収縮の報告あり
・一人に宇宙遊泳中に多源性心室期外収縮

2.3 MIR計画(ロシア)
・一人で心室頻拍14連発(215/分)が認められた:K, Ca異常が原因の可能性
・75の不整脈と23の伝導傷害が報告された

2.4 スペースシャトル計画
・14人中9人で宇宙遊泳中に不整脈あり;電解質異常が原因の可能性

3.宇宙飛行の心臓への影響
・重力の体液への影響:極微重力は体液が頭部に変位し、離陸後すぐに心拡大や心拍出量が増大
・ドイツのミッションでは離陸10日後、左室重量が12%減少
・STS-107ミッションでは離陸直後に心拍出量が29%増加
・地球帰還後血液量が10−20%低下し起立性低血圧が増加との報告あり

4.長期宇宙飛行時の心血管問題の可能性

4.1 QT延長あるいは他の心電図変化
・MRIとISS(国際宇宙ステーション)のミッション中、24%でQTcが0.45以上に延長
徐脈、クルーの服用する薬剤(抗菌薬、抗うつ薬、ベラパミル、プロプラノロールなど)、自律神経異常などが原因
・Microvolt T-wave alternates(MTWA:T波交代現象)
9−16日間の頭部ティルトダウン試験では17−42%にMTWAが出現

4.2 放射線
・56Feイオン0.1−0.2Gy暴露で15ヶ月後のマウスの冠動脈変性を認めた実験あり
・40歳男性が、火星での往復1000日のミッションを担った場合の放射線暴露による超過死亡リスクは1.3〜13%

4.3 精神的ストレス
・大地震、9.11事件での心疾患死やICD作動率増加の報告あり

4.4 低カリウム
・アポロ計画ではクルーの低カリウムが認められた
・長期飛行による尿中カリウムの増加→筋萎縮、不適切摂取
・ISSミッションでは1日3.2gのカリウム摂取

5. 長期飛行中の致死性不整脈の可能性
・The 2004 NASA Bioastronautics Critical Path Roadmapでは宇宙飛行の第一の心血管リスクとして重症不整脈と心血管機能低下が規定されている
・短期〜中期飛行での致死性不整脈リスクは年間1%

6. 非致死性不整脈

6.1 心房細動
・心房細動を含む上室頻拍はISSでの医学的不適合条件として考慮される
・同年代の若年者に比べ、宇宙飛行士は心房細動有病率が高い
・NASAのコホート研究では2001年から100人中5人が心房性不整脈のアブレーションを受けた
・環境の変化、運動訓練などの関与

6.2 心室期外収縮
・アポロ計画では多数のVPCの報告があったがミッション中止例はなし

7. スクリーニング
・身体診察、心電図、ホルター、血液検査、心エコー、トレッドミル、冠動脈カルシウムスコアなど

8. 長期飛行のために将来的に可能性のある心臓検査
8.1 
8.2 遺伝子検査
・LQRS, Brugada, ARVC, 心房細動

8.3 画像診断
・MDCT, MRI:日本の宇宙飛行士は 2008−2009年参加の際、320列MDCTを受けている

9. 現在飛行中に施工可能な治療
・宇宙飛行士は、飛行18ヶ月前以内に40−70時間の医学的トレーニングを受ける
・その後の学習効果は不明
・NASAにはCHeCSと呼ばれる医学組織があり、飛行士の健康管理を行っている

9.1 アドバンストライフサポートパック
・AED,気道確保、緊急手術、経口薬、静注、血圧計などあり

10.致死性不整脈の院内治療(省略)

11.ISS治療と病院内治療の違い
・極微重力下では生理食塩水バックの空気が消えないで残るので、血圧計カフを巻いて絞りだす必要あり
・CO2ディテクターが使えないので、古典的な方法での挿管となり、食道挿管になってしまう
・ISS内ではエピネフリン、リドカイン、アトロピンの3剤しか使えない
・ISS内では通常の胸部圧迫法心臓マッサージはできないので、Evetts–Russomano method が用いられる
・自動心臓マッサージが有効だろう

12. 今後の対策
・致死性不整脈診断のための遠隔医療システム
JAXAが開発中。地球から宇宙飛行士の心音や心電図を診ることができ、その上で指示を出せる
新システムの電子聴診器が有用
・過度の被曝からの防御
酸化ストレス防止のためのビタミンE,C,Aなどの摂取は必要
しかし宇宙船内では、果物や野菜の長期保存は無理
船内での栽培が考えられるが、水の確保が困難
放射線シールドの開発が期待される
・オメガ3不飽和脂肪酸摂取
・カリウム、マグネシウムの適正摂取

13. 結論
長期飛行にはたくさんの障害がある。クルーは将来、ISSでは経験したこのとのないような多くの医学的問題に出会うであろう。不整脈は将来克服すべき最大の医学的課題のひとつ。遺伝的不整脈は致死的であり、将来遺伝子検査が火星への飛行前に加わる可能性あり。新しい薬剤やデバイスがより重要。人類は宇宙の新しい地平を切り開き、新しい技術や設備、医学的治療を開発し、新しい地平に適応するよう運命づけられていると信じる。

### 七夕の日にふさわしい話題を取り上げてみました。

非常に面白かったので、全部まとめてしまいました。かなり端折ったり、意訳もありますので、ご注意ください。
様々なファクターが絡んでいることに驚きます。100人中5人の宇宙飛行士が心房性不整脈のカテーテルアブレーションを受けているのですねー。

火星まで行くのに、1.3〜13%の死亡リスク増加とは、考えさせられますね。

宇宙船内での心臓マッサージも難しいそうで、とにかく大変な環境です。
今後、宇宙飛行士の方々を見る目が変わりそうです。
by dobashinaika | 2014-07-07 21:49 | 不整脈全般 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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