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若年者の心房細動は早いうちから治すべきか?賛成派の意見:EHJ誌

European Heart Journal 7月2日号
昨日の続きで、若いうちからリズムコントロールに介入すべきかの、pro=賛成意見です。

Early management of atrial fibrillation to prevent cardiovascular complicationsStanley Nattel et al
Eur Heart J (2014) 35 (22): 1448-1456.


【イントロ】
・心房細動は進行性の病気
・発見されたとき、40%は持続性:無症候性であることと器質的変化が心房細動発症に先立つため
・早期発見早期治療が、心房細動の進行を防ぐはず

【短期リスクと心房細動進行の予測】
・発作性→持続性化率:年間5%、14年で77%
・若い、器質的心疾患のない発作性はこれよりおそい
・高齢で、器質的心疾患のある人は早い
・リスク多い人ほど進行早い
・適度な運動は進行を遅くさせる
・競技選手のような過度な運動は早める

【リモデリングの基礎】
・心房細動の促進には、構造的、電気的、自律神経的リモデリングが関与
・拡張期に筋小胞体から出るCaイオンの異常流出がDADをきたすことが機序

【心房細動関連リモデリングの基礎メカニズム】
省略

【基礎的メカニズムと臨床との関係】
・心房細動の頻度、持続時間、時間帯が、リモデリングに影響する
・心不全、高血圧などがリモデリングに影響する
・永続性に移行しない患者では、初期の状態から限定的にしか進行しない、または遺伝的にリモデリングから守られる因子を有しているのかもしれない

【抗リモデリング治療】
・抗不整脈薬には確固たるエビデンスなし
・アミオダロンにデータあり
・血行動態的な負荷軽減(僧帽弁交連切開など)は有効
・左房圧負荷軽減(CRTなど)は有効
・RAS阻害薬はネガティブデータ
・近年MRIでRAS径阻害薬の効果をみる研究あり
・microRNA修飾はリモデリング四郷の新しい治療になるかもしれない
・閾値下低レベルの迷走神経刺激が有効との動物実験あり

【エビデンス】
・レートコントロールと比較して、抗不整脈薬によるリズムコントロールは、一つを除きすべて優位性なし
・日本のJ-RHYTHM試験は唯一、リズムコントロール群で一次エンドポイントが有意であったが、発作性で合併心疾患がない例対象
(筆者注:この試験の一次エンドポイントは「治療への忍容性」を含む。これをのぞいたハードエンドポイントでは有意差なし)
・一旦構造的変化が起きたらリバースは難しい。なので早期介入が有効
・ATTENA試験ではドロネダロン群が、対照群より結果良好
・PALLAS試験ではドロネダロン群が死亡率高い
・ATTENAは発作性、PALLASは永続性対象

【進行中の試験】
・従来の分類ではダメなので、疫学に基づく分類が提唱されている
・左房径、左房機能、バイオマーカー、MRIイメージなどの評価が助けとなる
・CABANA試験とEAST試験の2つが、アブレーションと抗不整脈薬の予後比較の前向き試験として進行中

【早期発見早期治療は合併症を防げるのか?】
・心房細動を有する例は予後が悪い
・各種リスク因子が一過性心房細動に絡む
・一過性の心房細動は、何らかの合併症のサインである
・脈を撮ったり、新たなデバイスによる早期発見ができる
・ASSERT試験は、植込み型レコーダーで心房細動の新規発症の早期診断を見たもの
・同様のCRYSTAL-AF試験やREVEAL-AF試験が進行中

【結論】
・基礎疾患と心房細動の両者がリモデリングを促進し、発作性→持続性へと進行させる
・早期介入がこの進行を防ぐ可能性あり
・いまだ進行予防薬に関し有効性を示した報告なし:介入が遅いか対象が悪いのか
・進行中の試験では可能性を示す薬剤あり
・これまで数多くの試験が失敗だったのは、介入が遅すぎたから
・進行中の試験ではより早期でよりアクティブな介入をしている
・数多くの心房細動が世界中で眠っており、その中には脳卒中ハイリスクもたくさん含まれる
・進行中の試験や未来の試験が早期発見早期介入の有効性を示してくれれば、ラディカルな改善につながるだろう

### 今のところ、進行中の試験の結果待ちの段階、というのがこの論の全体の印象ですね。
早いうちに診断して、早いうちに介入したほうが良いことは理屈ではわかります。
しかし、まずこの診断法が難しい。無症候性のひとをくまなく診断するのは不可能ですし、診断したところでリモデリングがどの程度進んでいるのか、正確にわかる画像診断法やバイオマーカーは現時点ではありません。

くわえて、たとえ早期発見をしても、症状の乏しい人にどれだけ治療のコンセンサスが得られるか。それには強いエビデンスと医療者のコミュニケーション能力が求められます。

昨日のproと合わせ読む限り、早期介入ー理屈はわかるが現実が追いついていない。そんな感じです。
by dobashinaika | 2014-06-17 23:17 | 心房細動:ダウンストリーム治療 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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