結局、ダビガトランはワルファリンより心筋梗塞を増やすのか?:JAHAメタ解析
J Am Heart Assoc.2014; 3: e000515
Dabigatran Etexilate and Risk of Myocardial Infarction, Other Cardiovascular Events, Major Bleeding, and All‐Cause Mortality: A Systematic Review and Meta‐analysis of Randomized Controlled Trials
Jonathan Douxfils et al
【疑問】結局、ダビガトランはワルファリンより心筋梗塞を増やすのか?
【方法】
・結果に心筋梗塞、心血管イベント、大出血、全死亡を含んだRCTをメタ解析
・501の文献から14RCTを抽出
・対照群による層別化解析とダビガトランの用量別解析を設定
・fixedモデルでPetoオッズ比を算出
【結果】
1)ダビガトランのオッズ比(対対照群)
心筋梗塞:1.34 (95% CI 1.08 to 1.65, P=0.007)
他の心血管イベント:0.93 (95%CI 0.83 to 1.06, P=0.270)
大出血:0.85 (95% CI 0.76 to 0.96, P=0.007)
全死亡:0.89 (95% CI 0.80 to 1.00, P=0.041)
2)ダビガトランのオッズ比(対ワルファリン)
心筋梗塞:1.41 (95% CI 1.11 to 1.80, P=0.005)
他の心血管イベント:0.94 (95%CI 0.83 to 1.06, P=0.293)
大出血:0.88 (95% CI 0.79 to 0.99, P=0.029)
全死亡:0.90 (95% CI 0.81 to 1.01, P=0.061)
3)ダビガトラン150mg BIDのみで比べた場合(対対照群)
心筋梗塞:1.45 (95% CI 1.11 to 1.91, P=0.007)
他の心血管イベント:0.95 (95% CI 0.82 to 1.09, P=0.423)
大出血:0.92 (95% CI 0.81 to 1.05, P=0.228)
全死亡:0.88 (95% CI 0.78 to 1.00, P=0.045)
【結論】このメタ解析では、ダビガトランが心筋梗塞リスクを明らかに増加させるというエビデンスが示された。このリスク増加は、大出血や全死亡との総括的なベネフィットも考慮に入れて論じるべき
### この問題は長い論争、と言うかモヤモヤ状態が続いています。
経緯は以下のブログでまとめました。
http://dobashin.exblog.jp/18709455/
http://dobashin.exblog.jp/14384703/
簡単に言うと、もともとのRE-LY論文でワルファリンよりダビガトラン150が心筋梗塞を有意に増やした。しかしのちに FDAが勧告して、もう一度心電図を調べ直したら、心筋虚血を示した心電図が当初より少ない事がわかり、訂正論文が出た。ということです。
それで以下のメタ解析は、その訂正データを入れていないのですが、ダビは心筋梗塞を増やしたとなっています。
http://dobashin.exblog.jp/14384703/
また修正論文を入れての別なメタ解析でも、やはり心筋梗塞を増やすという結果が出ています。
http://bmjopen.bmj.com/content/2/5/e001592.full
一方、リアルワールドの登録研究では心筋梗塞は減るというデータがでています。
http://dobashin.exblog.jp/17599884/
更に最近の登録研究では、ワルファリン経験者がダビガトランに切り替えた症例で心筋梗塞が増加する(統計的には有意でない)という報告もあります。
http://dobashin.exblog.jp/19628093/
これらをふまえ本メタ解析は、上記の修正データや更に最近出たダビガトラン関連RCTを組み入れての最新版メタ解析です。
結果は心筋梗塞40%増加、大出血は12%減少、全死亡は10%くらい減る傾向、ということでした。
その説明として筆者らは、ワルファリンに心筋梗塞減少効果あること、トロンビン阻害薬が血小板活性を活性化させること、プラーク破綻は爆発的トロンビン生成の引き金になってしまい、ダビガトランの抗血栓作用を上回ってしまう、などをあげています。
このメタ解析の限界は、直接的なオッズ比が使えずPeto ORを採用している点、心筋梗塞の定義が試験ごとで曖昧な点、などがあります。
実臨床では、上記の登録研究のようにまた違うデータがでており、また日本人のデータももっとほしいところです。
いまのところ、やはり心筋梗塞既往例などには、やや慎重に使いたいという姿勢で行きたいと思います。
追記(2014・6・12):リアルワールドでの大切なコホート研究に言及するのを忘れておりました。
http://dobashin.exblog.jp/19798706/
FDAの13万例対象のビッグデータでは、心筋梗塞はリスク同等との結果が出ています。
RCTの世界と、なぜ違ってくるのか、考えてみます。
Dabigatran Etexilate and Risk of Myocardial Infarction, Other Cardiovascular Events, Major Bleeding, and All‐Cause Mortality: A Systematic Review and Meta‐analysis of Randomized Controlled Trials
Jonathan Douxfils et al
【疑問】結局、ダビガトランはワルファリンより心筋梗塞を増やすのか?
【方法】
・結果に心筋梗塞、心血管イベント、大出血、全死亡を含んだRCTをメタ解析
・501の文献から14RCTを抽出
・対照群による層別化解析とダビガトランの用量別解析を設定
・fixedモデルでPetoオッズ比を算出
【結果】
1)ダビガトランのオッズ比(対対照群)
心筋梗塞:1.34 (95% CI 1.08 to 1.65, P=0.007)
他の心血管イベント:0.93 (95%CI 0.83 to 1.06, P=0.270)
大出血:0.85 (95% CI 0.76 to 0.96, P=0.007)
全死亡:0.89 (95% CI 0.80 to 1.00, P=0.041)
2)ダビガトランのオッズ比(対ワルファリン)
心筋梗塞:1.41 (95% CI 1.11 to 1.80, P=0.005)
他の心血管イベント:0.94 (95%CI 0.83 to 1.06, P=0.293)
大出血:0.88 (95% CI 0.79 to 0.99, P=0.029)
全死亡:0.90 (95% CI 0.81 to 1.01, P=0.061)
3)ダビガトラン150mg BIDのみで比べた場合(対対照群)
心筋梗塞:1.45 (95% CI 1.11 to 1.91, P=0.007)
他の心血管イベント:0.95 (95% CI 0.82 to 1.09, P=0.423)
大出血:0.92 (95% CI 0.81 to 1.05, P=0.228)
全死亡:0.88 (95% CI 0.78 to 1.00, P=0.045)
【結論】このメタ解析では、ダビガトランが心筋梗塞リスクを明らかに増加させるというエビデンスが示された。このリスク増加は、大出血や全死亡との総括的なベネフィットも考慮に入れて論じるべき
### この問題は長い論争、と言うかモヤモヤ状態が続いています。
経緯は以下のブログでまとめました。
http://dobashin.exblog.jp/18709455/
http://dobashin.exblog.jp/14384703/
簡単に言うと、もともとのRE-LY論文でワルファリンよりダビガトラン150が心筋梗塞を有意に増やした。しかしのちに FDAが勧告して、もう一度心電図を調べ直したら、心筋虚血を示した心電図が当初より少ない事がわかり、訂正論文が出た。ということです。
それで以下のメタ解析は、その訂正データを入れていないのですが、ダビは心筋梗塞を増やしたとなっています。
http://dobashin.exblog.jp/14384703/
また修正論文を入れての別なメタ解析でも、やはり心筋梗塞を増やすという結果が出ています。
http://bmjopen.bmj.com/content/2/5/e001592.full
一方、リアルワールドの登録研究では心筋梗塞は減るというデータがでています。
http://dobashin.exblog.jp/17599884/
更に最近の登録研究では、ワルファリン経験者がダビガトランに切り替えた症例で心筋梗塞が増加する(統計的には有意でない)という報告もあります。
http://dobashin.exblog.jp/19628093/
これらをふまえ本メタ解析は、上記の修正データや更に最近出たダビガトラン関連RCTを組み入れての最新版メタ解析です。
結果は心筋梗塞40%増加、大出血は12%減少、全死亡は10%くらい減る傾向、ということでした。
その説明として筆者らは、ワルファリンに心筋梗塞減少効果あること、トロンビン阻害薬が血小板活性を活性化させること、プラーク破綻は爆発的トロンビン生成の引き金になってしまい、ダビガトランの抗血栓作用を上回ってしまう、などをあげています。
このメタ解析の限界は、直接的なオッズ比が使えずPeto ORを採用している点、心筋梗塞の定義が試験ごとで曖昧な点、などがあります。
実臨床では、上記の登録研究のようにまた違うデータがでており、また日本人のデータももっとほしいところです。
いまのところ、やはり心筋梗塞既往例などには、やや慎重に使いたいという姿勢で行きたいと思います。
追記(2014・6・12):リアルワールドでの大切なコホート研究に言及するのを忘れておりました。
http://dobashin.exblog.jp/19798706/
FDAの13万例対象のビッグデータでは、心筋梗塞はリスク同等との結果が出ています。
RCTの世界と、なぜ違ってくるのか、考えてみます。
by dobashinaika
| 2014-06-10 23:52
| 抗凝固療法:ダビガトラン
|
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土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。
by dobashinaika
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筆者は、2013年4月以降、ブログ内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません
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●日経メディカルオンライン連載「プライマリケア医のための心房細動入門リターンズ」
●ケアネット連載「Dr,小田倉の心房細動な日々〜ダイジェスト版〜」
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