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心房細動治療における「健康格差」を考える:Circulation誌

Circulation.2014; 129: 1568-1576
Variations in Cause and Management of Atrial Fibrillation in a Prospective Registry of 15 400 Emergency Department Patients in 46 CountriesThe RE-LY Atrial Fibrillation RegistryJonas Oldgren et al


【疑問】プライマリ・ケアセッティングでの心房細動患者にはどのようなバリエーションがあるか?

【方法】
・46カ国164施設の救急部門における心房細動患者。2008〜2011年まで登録

【結果】
1)年齢:全体平均65.9±14.8歳、アフリカ57.2±18.8、北米70.1±13.4 (P<0.001)

2)高血圧:最も多い合併症。インド41.6% vs. 東欧80.7% (P<0.001)

3)リウマチ性心疾患:北米2.2% vs. アフリカ21.5% vs. インド31.5% (P<0.001)

4)CHADS2スコア2点以上への抗凝固薬使用:北米65.7% vs. 中国11.2% (P<0.001)
心房細動治療における「健康格差」を考える:Circulation誌_a0119856_2246337.gif


5)平均TTR:西欧62.4%、北米50.9%、インド、中国、東南アジア、アフリカ:32〜40%の間

【結論】年齢、リスク因子、合併症、治療において大きな地球規模での多様性がある。アウトカム改善にはこの多様性への理解がグローバルに必要だし、異なる環境や異なる社会経済状況と心房細動との関連に焦点を当てたリサーチが要求される

### あのRELY試験ではなくRELY登録研究です。Fundはベーリンガーインゲルハイム社です。

標題はVariationと穏当な表現ですが、実質的には治療あるいはTTRにおけるgapsまたはdifferentials=つまり格差の問題を扱っているように思います。
CHADS2スコア2点以上への処方率はアフリカでも20%弱、インドが25%程度、中国は上記の11.2%!。またTTRは欧米以外は40%未満であり、抗凝固療法をしないほうが安全なレベルです。

結局、降圧薬を始めとし抗凝固療法までも含む予防的薬剤に関しては、いまだに「欧米など一部の国の医療」であり、全然グローバリゼーションされていないということが顕になっていますね。

経済的格差による医療上の不公平は、当院でも感じることができます。言うまでもなくNOAC。年金暮らしの3割負担の方は、やはりワーファリンでないと困るとおっしゃられることが多いのです。介護施設入所の方は、はじめからNOACが採用されずワーファリンです。そうでなくてもちょと高いからという理由で躊躇される方は、少なくありません。

効果の差があるにも関わらず、コストの面で拒否されてしまう、それゆえにより処方したい患者さんに出せないコモンディジーズ薬というのもそう滅多にはないように思います。

このような事例に接するにつけても、NOACのあまりの高さから健康格差が生じていることに少なからず疑問、疑義を感じますね。

NOAC、NOACとうるさいわけですが、単なる欧米と日本のしかも経済的に困っていないひとにしか処方されていない状況で、世界の圧倒的多数はその恩恵に預かれないでいるということを知っておきたいです。

ちょっと論文の本題とはズレましたか・・
by dobashinaika | 2014-05-19 22:46 | 抗凝固療法:ダビガトラン | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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