人気ブログランキング | 話題のタグを見る

新規抗凝固薬に関する大規模試験の問題点(その2):T/H誌

昨日からの続きです。

New oral anticoagulants for stroke prevention in atrial fibrillation: impact of study design, double counting and unexpected findings on interpretation of study results and conclusions
http://dx.doi.org/10.1160/TH13-11-0918
N. C. Chan et al


<予期せぬ副作用>
1.各NOACともワルファリンより頭蓋内出血が少ない
2.高用量ダビガトランとリバーロキサバンで消化管出血が過多
3.ダビガトランで心筋梗塞が過多
4.低用量エドキサバンは、虚血性脳卒中が高率にも関わらず、血管死、全死亡は明らかに減少した

1)頭蓋内出血
・3NOACでワルファリンに比べた頭蓋内出血減少は強く一貫している:RR中間値0.40
・RELYとROCKETAFでは、脳内出血の大多数は頭蓋内出血(各46%、72%)。次が硬膜下出血(45%、24%)
・NOACは凝固因子を量的に抑えるので、局所の微小出血部位で組織因子絡みで大量に生成されるXaやトロンビンにより駆逐されてしまう。
このことが微小出血を大出血に変換させないことにつながる
・対するワルファリンはXaやトロンビンを修飾し、微小出血部位で組織因子に関連する凝固因子(VIIと思われる)を抑える
・このことは実験レベルで証明済み

2)消化管出血
・ダビ150,リバーロ、エド60はワルファリンに比べ、消化管出血率を増やした
・一方、アピは消化管出血減少傾向を認め、エド30は明らかに減らした:出血減少としては最も地味であるが
・これらの薬剤は消化管において活性型として高濃度に配置される
・ダビ150が糞便中の薬物濃度が最も高い
・NOAC(リバーロ除く)のうち、ダビは上部下部消化管で出血率は同等だが、アピ、エドは上部に多い(2/3)。
・ダビは吸収がpoorで、エステル化による生物学的活性化による活性化された薬剤が腸管に高濃度に残るためであろう。

3)心筋梗塞
・ダビはワルファリンに比べ、心筋梗塞リスク増加と関連した:キシメラガトランなども同様
・Xa阻害薬にはその傾向なし
・メカニズム不明
・影響は軽微だが、統計的には明らか
・プラークラプチャーした部位でのトロンビン凝集を妨げる力の違いかもしれない

<低用量エドキサバンの死亡率低下>
・ENGAGE AFでは、エドキサバンは15〜60mgという4倍のスパンの用量設定がなされた
・低用量エドキサバンは、ワルファリンより虚血性脳卒中を明らかに減らし(ARR0.55%/年)、血管死も減らした(ARR0.46%)
・死亡率も低下させ、出血減少がこれに寄与した:大出血ARR1.82%、致死的出血ARR0.25%:多くは頭蓋内出血減少
・低用量エドキサバンとワルファリンの死亡率減少の差は、頭蓋内出血減少だけでは説明不可能:致死的脳卒中のARRは0.07%、死亡率のARRは0.55%
・他に死亡率減少の理由としては血管死の減少がある
・大出血が、非出血性血管死に寄与しているとするのは妥当:機序として抗凝固薬の中止、低血圧、過凝固など

【考察】
・再評価によって見えてきたこと
1)有効性のアウトカムから頭蓋内出血を省くと、虚血性脳卒中の減少効果でワルファリンより優れたのは高用量ダビのみ

2)リバーロキサバンとエドキサバン60のITT解析での優越性欠如は、高い早期脱落率によるものであり、間接比較の問題を浮き彫りにした

3)ダビ、リバーロ、エド60は消化管出血増加に関連

4)特に低用量NOAC使用で、出血減少に伴い死亡率が減少

・アピとエド30は出血高リスク例にアピールする:消化管出血増加に関連せず

・エド30はワルファリンより脳梗塞が高率だがアピは脳梗塞の低い傾向

・リバーロとエド60は1日1回が強みだが、消化管出血はワルファリンより多い

・ダビ150は、非出血性脳卒中をワルファリンよりも減らす唯一のNOACであり、2012ESCガイドラインでもアピ、リバーロ内服中の脳梗塞高リスク例には推奨された:ただし消化管出血、心筋梗塞は増やすのでそうしたリスクのある例には注意

・直接比較はない時点では、NOAC間の選択は虚血性脳卒中予防、大出血リスク(頭蓋内出血と消化管出血)、心筋梗塞リスク、死亡率と1日1回という便利さを検討することに影響を受けるであろう。

【結論】4NOACは、より便利で、頭蓋内出血を減らし、少なくとも脳卒中/全身性塞栓症予防に効果的であり、死亡率を減少させる。NOAC間の相対的な有効性と安全性についての明確な結論は、直接比較がない以上控えるべき。

### 最後の1文が全てのように思います。その割には結構大胆に使い分けに関して述べているように思いますが。。中断率が高いためNOAC間比較は難しいという指摘が一番目を引いたように思います。

現時点では4NOACを上記のようないろいろな観点から優劣を考えて使い分けすること自体、医師の”好み”の問題に帰結せざるを得ないというのが本当のところだろうと思います。まあこの件に関しては、論じればキリがないですが、疲れたのでこの辺で。
by dobashinaika | 2014-03-05 01:10 | 抗凝固療法:比較、使い分け | Comments(1)
Commented by 大塚俊哉 at 2014-03-05 22:19 x
NOACの消化管出血は日本人に多いような気がします。大腸憩室、胃炎などですね。それから、顕在性の出血がなくても貧血傾向はあるようです。左心耳を切除してNOAC(もちろんワーファリンも)を離脱1年後のHbは顕在性の出血がない患者でも10%強アップします(循環器学会総会のシンポでも発表します)。


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


by dobashinaika

S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

カテゴリ

全体
インフォメーション
医者が患者になった時
患者さん向けパンフレット
心房細動診療:根本原理
心房細動:重要論文リンク集
心房細動:疫学・リスク因子
心房細動:診断
抗凝固療法:全般
抗凝固療法:リアルワールドデータ
抗凝固療法:凝固系基礎知識
抗凝固療法:ガイドライン
抗凝固療法:各スコア一覧
抗凝固療法:抜歯、内視鏡、手術
抗凝固療法:適応、スコア評価
抗凝固療法:比較、使い分け
抗凝固療法:中和方法
抗凝固療法:抗血小板薬併用
脳卒中後
抗凝固療法:患者さん用パンフ
抗凝固療法:ワーファリン
抗凝固療法:ダビガトラン
抗凝固療法:リバーロキサバン
抗凝固療法:アピキサバン
抗凝固療法:エドキサバン
心房細動:アブレーション
心房細動:左心耳デバイス
心房細動:ダウンストリーム治療
心房細動:アップストリーム治療
心室性不整脈
Brugada症候群
心臓突然死
不整脈全般
リスク/意思決定
医療の問題
EBM
開業医生活
心理社会学的アプローチ
土橋内科医院
土橋通り界隈
開業医の勉強
感染症
音楽、美術など
虚血性心疾患
内分泌・甲状腺
循環器疾患その他
土橋EBM教室
寺子屋勉強会
ペースメーカー友の会
新型インフルエンザ
3.11
Covid-19
未分類

タグ

(44)
(40)
(35)
(32)
(29)
(28)
(25)
(25)
(24)
(23)
(21)
(21)
(20)
(20)
(19)
(18)
(14)
(14)
(13)
(13)

ブログパーツ

ライフログ

著作
プライマリ・ケア医のための心房細動入門 全面改訂版

もう怖くない 心房細動の抗凝固療法 [PR]


プライマリ・ケア医のための心房細動入門 [PR]

編集

治療 2015年 04 月号 [雑誌] [PR]

最近読んだ本

ケアの本質―生きることの意味 [PR]


ケアリング―倫理と道徳の教育 女性の観点から [PR]


中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく) [PR]


健康格差社会への処方箋 [PR]


神話・狂気・哄笑――ドイツ観念論における主体性 (Ν´υξ叢書) [PR]

最新の記事

ヨーロッパ心臓病学会の新しい..
at 2024-09-01 23:53
心房細動とHFrEF:昔から..
at 2024-08-18 21:39
AF burden :新たな..
at 2024-08-15 14:46
高齢の心房細動患者における2..
at 2024-06-25 07:25
2024年JCS/JHRS不..
at 2024-03-21 22:45
日本独自の新しい心房細動脳梗..
at 2024-03-17 22:31
心房細動診療に残された大きな..
at 2024-01-03 23:00
東日本大震災と熊本地震におけ..
at 2024-01-02 16:11
脳梗塞発症後の心房細動患者に..
at 2024-01-01 18:41
ACC/AHAなどから202..
at 2023-12-10 23:12

検索

記事ランキング

最新のコメント

血栓の生成過程が理解でき..
by 河田 at 10:08
コメントありがとうござい..
by dobashinaika at 06:41
突然のコメント失礼致しま..
by シマダ at 21:13
小田倉先生、はじめまして..
by 出口 智基 at 17:11
ワーファリンについてのブ..
by さすけ at 23:46
いつもブログ拝見しており..
by さすらい at 16:25
いつもブログ拝見しており..
by さすらい at 16:25
取り上げていただきありが..
by 大塚俊哉 at 09:53
> 11さん ありがと..
by dobashinaika at 03:12
「とつぜんし」が・・・・..
by 11 at 07:29

以前の記事

2024年 09月
2024年 08月
2024年 06月
2024年 03月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 08月
2023年 06月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 03月
2007年 03月
2006年 03月
2005年 08月
2005年 02月
2005年 01月

ブログジャンル

健康・医療
病気・闘病

画像一覧

ファン