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新規抗凝固薬に関する大規模試験の問題点(その1):T/H誌

Thromb Haemost誌に4NOACの大規模試験に関して興味深い総説が掲載されていますので、紹介します。

New oral anticoagulants for stroke prevention in atrial fibrillation: impact of study design, double counting and unexpected findings on interpretation of study results and conclusions
http://dx.doi.org/10.1160/TH13-11-0918
N. C. Chan et al


【(これまで)公表されている結論】
1.ダビガトラン150は、大出血を増やすことなく、ワルファリンに比べ脳卒中/全身性塞栓症予防に効果あり

2.ダビガトラン110は、ワルファリンに比べ脳卒中/全身性塞栓症予防は非劣性で、大出血は少ない

3.リバーロキサバンは、大出血を増やすことなく、ワルファリンに比べ脳卒中/全身性塞栓症予防は非劣性

4,アピキサバンは、ワルファリンよりも脳卒中/全身性塞栓症予防、および大出血、死亡率減少に優れる

5,エドキサバン60は、ワルファリンに比べ脳卒中/全身性塞栓症予防は非劣性、大出血、心血管イベントリスクは減らす

6.エドキサバン30は、、ワルファリンに比べ脳卒中/全身性塞栓症予防は非劣性、大出血、心血管イベントリスクは減らす

総じて、4NOACは安全性、有効性で少なくともワーファリンと同等で、頭蓋内出血は減らす。このことは市販後調査や、登録研究、モデル研究で指示されている。

【データの批判的審査後の上記結果の再評価】
結果の解釈や推奨度の考慮に影響を与える問題として以下があげられる。
1.4試験とも、頭蓋内出血(出血性脳卒中)は脳卒中(有効性アウトカム)と大出血(安全性)による”ダブルカウント”

2.ROCKET AFとENGAGE AFにおける高い早期中断率:これらはITT解析においてリバーロキサバンとエドキサバンの不利益となる

3.RE-LY,ROCKET-AF,ENGAGE-AFにおける予期せぬ副作用

4.低用量エドキサバンの予期せぬ死亡率減少

〈頭蓋内出血のダブルカウント〉
・伝統的に、心房細動の脳卒中予防研究では一次有効性アウトカムは脳卒中(出血と梗塞)と全身性塞栓症の複合である
・各4試験において、NOACは脳内出血(合併症)を減らした
・ゆえに、出血性脳卒中を有効性と安全性の両方に組み入れることはワルファリンに比べたNOACのネットベネフィットを過大評価する可能性あり
・有効性アウトカムから脳内出血を外すことはNOACのワルファリンに比べてのベネフィットの解釈を以下の3つの形で変化させることになる
1)4つのNOAC全てでネットクリニカルベネフィットの誇張された評価があきらかになる
2)ワルファリンに比べて虚血性脳卒中を減らすのはダビガトラン150のみである
3)これまで認知されているアピキサバンの脳卒中と頭蓋内出血の両方の減少に関する対ワルファリン優位性は両方に出血性脳卒中が含まれることで説明可能

<ITT解析の早期中止のインパクト>
・各論文はITT解析が報告されているが、ROCKETAFとENGAGEAFの初期解析法はon-treatment 解析である
・ITT解析すると、リバーロキサバンと高用量エドキサバンはワルファリンに比べ非劣性だが、アピキサバンと高用量ダビガトランは優位性を示した
・このことをもってアピ、ダビよりリバーロ、エドの効果が少ないと考えるべきではない
・その比較が間接的であるという事実とは別に、4試験には早期中断者数とITT解析に含まれるoff-treatmentでのイベント(試験期間中)の数に重要な差異がある
・4試験のうちROCKETAFとENGAGEAFは高い早期中断率であった:参加者のCHADS2スコアが高くより重症例がいるため
・ROCKETAFではリバーロキサバン群の35.4%、ワルファリンの34.6%が早期に中断、ENGAGEAFではエドキサバン34.3%、ワルファリン34.4%で早期中断
・このためこれらでITT解析を行うとoff-treatmentでのイベント(が多くカウントされてしまうこと)により薬の効果が薄まる
・早期中断は各試験の両群間のoff-treatmentイベントにアンバランスをきたす:ROCKETAF=ワルファリン群66追加に対しリバーロ群81イベント追加。ENGAGEAF=ワルファリン群105に対しエド群14追加
・高い早期中断率の結果、ROCKETAFではハザード比はon-treatmentでは0.79(p=0.02)だが、ITTでは0,88となりもはや優位性は消失。ENGAGEAFでの高用量エドキサバンも同様

### さすがマクマスター大学グループ、というか、脳出血のダブルカウントは以前から矛盾として指摘されていました。脱落率過多によるITT解析の不適切さは、EBMをかじったものなら気づくべきですが、私も脱落率高いなあと思いながら、まあそんなもんかとも思ってスルーしてしまっていました。RELYでは21%、ARISTOTLEも23%で、総じて決して低くはない数字ですね。

ここまでまとめるだけで疲れましたので、後半の「予期せぬ副作用」とディスカッションもかなり面白いのですが、すみません、明日できれば紹介いたします。
by dobashinaika | 2014-03-03 23:37 | 抗凝固療法:比較、使い分け | Comments(1)
Commented by そもそも at 2014-03-04 15:48
いつも興味深く拝見させていただいてます。

そもそも大規模試験はNOACのワーファリンに対する優越性、もしくは非劣性を示すためのものしかデザインされないし、お金も誰も出さないわけで、根本からバイアスがありますよね。新薬だからしょうがないですけど、ARBやDPP-4の騒ぎもさめないうちに、何だかなあと思います。先生がCOIにとても気を遣っていらっしゃるように、将来のRCTや臨床研究は、製薬会社からお金をもらってはだめ・・・、なんてなるわけないですね。たとえば、国がお金を出すようになれば、医療費の足りない国では、薬を出さないメリットを確認したり非劣性を示す試験ばかりになるでしょうし。

後半も楽しみにしてます、ていうか自分でも目を通してみます。


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