人気ブログランキング | 話題のタグを見る

米国神経学会の心房細動における脳卒中予防の「エビデンスに基づくガイドライン改訂版」を読む

Neurology 2月25日号より

Summary of evidence-based guideline update: Prevention of stroke in nonvalvular atrial fibrillation: Report of the Guideline Development Subcommittee of the American Academy of NeurologyAntonio Culebras et al
Neurology February 25, 2014 vol. 82 no. 8 716-724


米国神経学会の非弁膜症性心房細動(NVAF)における脳卒中予防に関する「エビデンスに基づくガイドライン改訂」サマリーが公表されました。

データ解析のプロセスは各種データベース上で1998年〜2013年までにpeer reviewされたヒトに関する英語論文をサーチし、
GRADEシステムの修飾版を使用し、Delphi法を用いて推奨度をABCUの4段階に決定するという手法を用いています。

GRADEシステムでは先日のブログでも取り上げましたように、エビデンスの強さ以外にケアの原則、害に比べた利益の総量、経済的負担、介入しやすさ、患者の好みなどの要素に基づいて推奨度の決定がなされています。

各推奨をまとめてみます

【潜在性NVAF患者の同定】
1.潜在性心房細動を見つけるために、NVAFが認められていない潜因性(原因が特定できない)脳卒中患者の不整脈検査を施行すること(レベルC)

2.潜在性心房細動の同定数を増やすために、24時間程度の短いモニターなく、1週間以上の長期モニターを行うこと(レベルC)

【抗凝固療法適応患者の選択】
1.臨床家は、NVAFにより脳卒中リスクが増加し、抗凝固薬によりそのリスクが減少することを患者に伝えるべきである。患者は大出血リスクが増加することを知らされるべきである(レベルB)

2.臨床家は全てのNVAF患者に対し、抗凝固薬使用の決定は脳卒中減少の利益が大出血のリスクを上回った時にのみなされることを説明すべき(レベルB)

3.臨床家はNVAFかつ脳卒中/TIAの既往のある患者には、抗凝固療法の提案をルーチンに勧めねばならない(レベルB)

4,臨床家は他のリスクのないNVAF患者(孤立性心房細動)に抗凝固療法を勧めないほうが良い。臨床家はそうした患者にアスピリンを提案することは合理的。抗凝固療法を提案しない方が良い(レベルC)

5.抗凝固療法からより恩恵を受ける患者へこうした決断を伝えるために、臨床家は高リスクまたは無リスク患者の同定のためのリスク層別化スキームを使うべきである

【特異的な経口抗凝固薬の選択】
1.以下の選択肢のうち一つの選択が推奨される(レベルB)
・ワルファリン:INR2.0〜3.0
・ダビガトラン150mg:CCr30以上
・リバーロキサバン;15mg(CCr30-49)、20mg
・アピキサバン5mg(Cr1.5未満)、2.5mg(減量基準に基づく)
・トリフルサル(抗血小板薬)+アセノクマロール(VKA):INR1.25-2.0(中等度リスク、主に途上国)

2.ワルファリン服用者
・コントロール良好なワルファリン服用者には、NOACへの切り替えよりワルファリン継続を勧めたほうが良い(レベルC)

3.頭蓋内出血リスク
・抗凝固薬が必要で頭蓋内出血リスクの高い例にはNOACを処方したほうが良い(レベルB)

4.消化管出血リスク
・消化管出血リスクのある患者にはアピキサバンを勧めたほうが良い(レベルC)

5.NOACに影響を与える他の因子
・頻回のINRテストを希望しないまたはできない患者に対するNOACの提案はすべき(レベルB)
・ワーファリン治療に適さない、または希望しない患者へのアピキサバン処方は提案すべき(レベルB)
・アピキサバンが使用できない例ではダビガトランかリバーロキサバンを提案すべき(レベルC)
・経口抗凝固薬が使用できない場合、アスピリン+クロピドグレルを提案したほうが良い(レベルC)
・トリフルサルが使用でき、NOAC服用を希望しない場合(ほぼ途上国)、アセノクマロールとトリフルサルを勧めるべき(レベルB)
米国神経学会の心房細動における脳卒中予防の「エビデンスに基づくガイドライン改訂版」を読む_a0119856_23574679.gif


【特殊な患者群】
1.誘発された出血や頭蓋内出血のない75歳超の患者への定期的な抗凝固薬服用の提案(レベルB)

2.認知症あるいは転倒が時に見られる患者への抗凝固薬の提案;中等度〜高度認知症あるいは頻回の転倒患者には本人、家族にリスクベネフィットにつきよく説明すべき(レベルB)

3.終末期CKDにおいては抗凝固薬のリスクべネフットは不明なので、推奨できるエビデンスは不十分(レベルU)

### NOACの区別がなされていますが、消化管出血リスク及びワルファリン不適合者にはアピキサバンが、他の2薬よりも推奨されるという点のみとなっています。

全体にGRADEシステムを用いているため、エビデンスだけでなく、患者の嗜好や不適合患者の場合のことなどを考慮し、医師の決断を促すような書き方がしてあります。

またエビデンスの判断材料は利益と害のバランスを考慮したシステマティックレビューからforest plotを作成し、判断されています。

認知症患者や転倒リスクのある患者における選択なども記述してあり、全体に臨床医に親切で使いやすい印象ですね。
by dobashinaika | 2014-02-27 23:58 | 抗凝固療法:ガイドライン | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


by dobashinaika

S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

カテゴリ

全体
インフォメーション
医者が患者になった時
患者さん向けパンフレット
心房細動診療:根本原理
心房細動:重要論文リンク集
心房細動:疫学・リスク因子
心房細動:診断
抗凝固療法:全般
抗凝固療法:リアルワールドデータ
抗凝固療法:凝固系基礎知識
抗凝固療法:ガイドライン
抗凝固療法:各スコア一覧
抗凝固療法:抜歯、内視鏡、手術
抗凝固療法:適応、スコア評価
抗凝固療法:比較、使い分け
抗凝固療法:中和方法
抗凝固療法:抗血小板薬併用
脳卒中後
抗凝固療法:患者さん用パンフ
抗凝固療法:ワーファリン
抗凝固療法:ダビガトラン
抗凝固療法:リバーロキサバン
抗凝固療法:アピキサバン
抗凝固療法:エドキサバン
心房細動:アブレーション
心房細動:左心耳デバイス
心房細動:ダウンストリーム治療
心房細動:アップストリーム治療
心室性不整脈
Brugada症候群
心臓突然死
不整脈全般
リスク/意思決定
医療の問題
EBM
開業医生活
心理社会学的アプローチ
土橋内科医院
土橋通り界隈
開業医の勉強
感染症
音楽、美術など
虚血性心疾患
内分泌・甲状腺
循環器疾患その他
土橋EBM教室
寺子屋勉強会
ペースメーカー友の会
新型インフルエンザ
3.11
Covid-19
未分類

タグ

(44)
(40)
(35)
(31)
(28)
(28)
(25)
(24)
(24)
(23)
(21)
(21)
(20)
(19)
(18)
(18)
(14)
(14)
(13)
(13)

ブログパーツ

ライフログ

著作
プライマリ・ケア医のための心房細動入門 全面改訂版

もう怖くない 心房細動の抗凝固療法 [PR]


プライマリ・ケア医のための心房細動入門 [PR]

編集

治療 2015年 04 月号 [雑誌] [PR]

最近読んだ本

ケアの本質―生きることの意味 [PR]


ケアリング―倫理と道徳の教育 女性の観点から [PR]


中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく) [PR]


健康格差社会への処方箋 [PR]


神話・狂気・哄笑――ドイツ観念論における主体性 (Ν´υξ叢書) [PR]

最新の記事

日本独自の新しい心房細動脳梗..
at 2024-03-17 22:31
心房細動診療に残された大きな..
at 2024-01-03 23:00
東日本大震災と熊本地震におけ..
at 2024-01-02 16:11
脳梗塞発症後の心房細動患者に..
at 2024-01-01 18:41
ACC/AHAなどから202..
at 2023-12-10 23:12
ライフスタイルを重視した新し..
at 2023-11-06 21:31
入院中に心房細動が初めて記録..
at 2023-11-05 11:14
フレイル高齢心房細動患者では..
at 2023-08-30 22:39
左心耳閉鎖術に関するコンセン..
at 2023-06-10 07:29
患者ー医療者間の「心房細動体..
at 2023-04-26 07:27

検索

記事ランキング

最新のコメント

血栓の生成過程が理解でき..
by 河田 at 10:08
コメントありがとうござい..
by dobashinaika at 06:41
突然のコメント失礼致しま..
by シマダ at 21:13
小田倉先生、はじめまして..
by 出口 智基 at 17:11
ワーファリンについてのブ..
by さすけ at 23:46
いつもブログ拝見しており..
by さすらい at 16:25
いつもブログ拝見しており..
by さすらい at 16:25
取り上げていただきありが..
by 大塚俊哉 at 09:53
> 11さん ありがと..
by dobashinaika at 03:12
「とつぜんし」が・・・・..
by 11 at 07:29

以前の記事

2024年 03月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 08月
2023年 06月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 03月
2007年 03月
2006年 03月
2005年 08月
2005年 02月
2005年 01月

ブログジャンル

健康・医療
病気・闘病

画像一覧

ファン