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GRADEシステムを用いると欧米の心房細動ガイドラインでの抗不整脈薬推奨と利益相反に疑問:JAMAIM誌

JAMA Intern Med 2月17日付オンライン版より

Dronedarone for Atrial FibrillationThe Limited Reliability of Clinical Practice Guidelines
Primiano Iannone, et. al.
JAMA Intern Med. doi:10.1001/jamainternmed.2013.14485


【疑問】心房細動ガイドラインにおけるドロネダロンの推奨度は妥当か?

【方法】
・抗不整脈薬ドロネダロンに関し、医療系学会からの3つのガイドラインを検証した
・3ガイドラインはAHA(アメリカ)、CCS(カナダ)、ESC(ヨーロッパ)
・GRADEシステムを用いて評価

【結果】
1)レートコントロール薬として:サロゲートマーカー(心拍数)に関してはプラセボよりドロネダロンが優る

2)リズムコントロール薬として:ドロネダロンはプラセボに比べて1000患者あたり13(95%CI;−15〜61)の超過死亡に関連した

3)アミオダロンに比べ、ドロネダロンは効果が低い:1000患者あたり214(130〜294)回多く心房細動が再発

4)アミオダロンに比べ忍容性は同等:薬剤中止となった重度副作用イベント1000患者あたり−28 (−69〜 33)

【結論】
エビデンスの限界にかかわらず、3つのガイドライン全てで心房細動の再発予防にドロネダロンが推奨されていた。今回の知見はこうした臨床ガイドラインの信頼性だけでなく、多くの作成委員とドロネダロンの製薬会社との金銭的関係に疑問を投げかけるものである。

### 限りなく興味深い論文です。イタリア・ボローニャのEmilia Romagna Health and Social Care Agencyというおそらく民間の疫学調査会社のようなところ(?)のEBM部門からの発信と思われます。まったくガイドラインメッタ斬り、という感じです。
全文入手しましたのでかいつまんで紹介します。

ドロネダロンは日本では発売されていませんが、アミオダロンからヨードを排した構造で「副作用の少ないアミオダロン」として注目された薬でした。

AHAガイドラインでは推奨度IIaで「発作性あるいは持続性心房細動の停止後の患者で心血管イベントを減らすために妥当」とされ、「NYHAIV、過去4週以内の非代償性心不全、LVEF35% 以下」は推奨度IIIで禁忌となっています。
ESCでは、再発性心房細動に対して推奨度I、エビデンスレベルAであり、持続性心房細動には推奨度IIIとなっています。(カナダは調べていません、すみません)

今回のガイドラインの評価法にはGRADEシステムが用いられていますが、GRADEはすでに多くのガイドラインに採用されたシステムで、上記のCCSのガイドラインもこの方法を採用していたと思います。詳細は以下のサイトなどを参照ください。
http://www.grade-jpn.com/

ドロネダロンは以下のブログで取り上げましたが、ATTENA試験では入院を減らしましたが、心不全患者対象のANDROMEDA試験では死亡例が増加し試験中止となりました。そして永続性心房細動対象のPALLAS試験でも全てのアウトカムを悪化させたため中止となっています。
http://dobashin.exblog.jp/14029569/

GRADEシステムは推奨の強さをエビデンスレベルだけではなく、価値観や好み、医療資源などを考慮して判定するもので、観察研究のエビデンスに基づく強い推奨や、質の高いエビデンスに基づく弱い推奨もあり得るシステムです。その推奨度はあくまで望ましい効果と望ましくない効果のバランスで決まります。

ですからたとえATTENA試験で入院をへらしても、真のアウトカムである死亡に関してはプラセボとかわらないため臨床上のアウトカムとしては「示されていない」と判定されます。

こうしたアウトカム判定もさることながら、「ガイドラインの質の評価」が興味深いです。Institute of Medicine(米国医学研究所)のチェックリストに基づいて透明性、利益相反の管理、作成グループの構成、ガイドラインとシステマティックレビューの連携などの8基準のチェックリストで3ガイドラインを評価しています。利益相反のパートでは、AHAガイドラインでは12メンバー中4人、CCSは34人中19人、ESCでは25人中10人が製薬会社と何らかの金銭的関係があったと指摘され、それぞれ利益相反管理の評価点は"partial"(一部)となっています。

アウトカム評価については意見の別れるところもあると思われますが、ガイドライン自体の評価を論文に掲載してしまうあたり、JAMAの懐の深さを思います。

この論文を読んでしまったら、当然日本のガイドラインはどうなのか、に興味が移りますね。
by dobashinaika | 2014-02-25 00:11 | 心房細動:ダウンストリーム治療 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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