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本日発表の心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)を読む:日本循環器学会HP

本日、日本循環器学会のホームページに心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)が発表されました。
http://www.j-circ.or.jp/guideline/
(2014年1月27日、日本循環器学会HP閲覧、最新情報は上記URLをご確認下さい)

2014年に発表ですが、「2013年改訂版」となっているのはさておきまして、、、

序文に当たる「再改訂にあたって」で、旧ガイドラインからの大きな変更点として以下の5つが挙げられています。
1)新規経口抗凝固薬の追加
2)ワルファリンの至適抗凝固レベル
3)CHADS2スコアの採用
4)「弁膜症性」の定義
5)治療方針の解説にあたっては「孤立性心房細動」という用語を原則使用せず


以下、「V.治療編」に絞って個人的に注目した旧GLからの変化を見てみます。

【2.1 心房細動における脳梗塞発症のリスク評価と抗血栓療法】
1)CHADS2スコア2点以上は全抗凝固薬「クラスI」(推奨)だが、1点ではダビとアピが「クラスI」でリバーロ、エド、ワルファリンは「クラスIIa」(考慮可)

2)「心筋症」「65〜74歳」「血管疾患」を「考慮可」とし、「女性」「甲状腺中毒」は省いた

3)INR管理の原則を2.0〜3.0(クラスI)とし(旧GLではリスク1点はクラスIIa)、「70歳以上は1.6〜2.6」もクラスIとした(旧ではIIa)

【2.6抜歯や手術時の対応】
消化器内視鏡による観察時や低出血危険度の内視鏡手技での抗凝固療法や抗血栓療法の継続など、消化器内視鏡ガイドラインと同様の内容となった。

【3.心拍数調節の適応と方法】
1)緩やかな目標心拍数(安静時心拍数 110 拍 /min 未満) で開始し,自覚症状や心機能の改善がみられない場合 はより厳密な目標(安静時心拍数 80 拍 /min 未満,中 等度運動時心拍数 110 拍 /min 未満)とする

2)心不全例の心拍数調節ににアミオダロン、ランジオロール、カルベジロール、ビソプロロールの投与がクラスI

3)「発作性心房細動へのジギタリス投与」がクラスIII(禁忌)

【4.2心房細動の再発予防】
器質的心疾患ありは「アミオダロン」「ソタロール」、なしは従来からの「強力なNa blocker5剤」とよりシンプルになった

【非弁膜症性の定義】
・人工弁置換(機械弁、生体弁とも)とリウマチ性僧帽弁膜症(主に狭窄症)を「弁膜症性」とした。
・「僧帽弁修復術後」は非弁膜症性として扱う。
・リウマチ性でない僧帽弁閉鎖不全症は非弁膜症性に含める。

【孤立性心房細動の定義】
・「臨床上有意な器質的心疾患を認めない心房細動」とする。
・器質的心疾患とは肥大心、不全心、虚血心をさす。

###抗凝固薬と心拍調節が、やはり大きい変化のように思いました。

リバーロとエドは第III相試験にCHADS2スコア1点以下が含まれていないため「考慮可」でした。
若干違和感があるのはダビ、アピとワルファリンとの関係性です。ダビとアピはサブ解析でCHADS2スコア1点以下で重大な出血や頭蓋内出血が明らかに少ないことから「推奨」となっていますが、RE-LYのサブ解析論文を読むと、脳梗塞/全身性塞栓症、大出血、頭蓋内出血とも両用量ともスコア別の交互作用なし、つまりCHADS2スコアは結果に影響しないというふうに読み取れます。
http://annals.org/article.aspx?articleid=1033155

ARISTOTLE試験の本論文にもCHADS2スコア別の差はP=0.40(大出血)で交互作用なしと読めます。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1107039

ですので、もしこれが本当であればCHADS2スコアが1点でも2点以上でもワルファリンは「考慮可」となる、もしくはNOACとワルファリンの関係性はCHADS2スコア何点であれ同じにすべきようにも思いますが。。。ワルファリンのその他の利点が考慮されたのかもしれません。

アウトカムごとによく図表をもう少し見てみたいと思いますが、間違っていたらすみません。ご指摘ください。

<追記>上記文章はガイドライン発表当日に書きましたが、その後読み直しますと図7の脚注に「同等レベルの適応がある場合、新規経口抗凝固薬がワルファリンよりも望ましい」とあり、
本文中にも「腎機能低下がなく、抗凝固薬の適応である場合は、ワルファリンよりも新規経口抗凝固薬のほうがより強く勧められる。」とあります。
これは、CHADS2スコア1点ではワルファリンのネットクリニカルベネフィットは不定なのに対し、NOACのダビとアピは頭蓋内出血が少ない分おそらくNCBが正になるからワルファリンは「考慮可」でNOACは「推奨」とし、2点以上ではワルファリンもNCB正なので「推奨」に格上げするが、NOACはもっとNCBがいいから、2点以上でもできるだけNOACを使うように」というロジックだと思います。
ようするに2点以上ではNOACは「スーパー推奨」または「超イチ推し」といったニュアンスですね。
ゆっくり読んでその意図がわかりました。(2013.2.5追記)

細かい点もいろいろ変わっているところがありますが、全体に最近の知見を反映した堅実な内容という印象です。また、各ポイントや用語の定義がよりシンプルでスッキリしたと思われます。

個人的には、
1)日本の代表的な登録研究のFUSHIMI AF Registryのアウトカム論文が間に合わなかったのが残念
2)広義のアップストリーム治療、つまり心不全の管理、血圧の管理、その他心房細動以外の管理について少し言及しても良かった
というのが、しいて言えばの注文です。

もっと読み込んでみたいと思います。

追記:あと、一番目を引いた点を書き忘れました。日本で、現時点で未承認のエドキサバンが掲載されていますね。
本日発表の心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)を読む:日本循環器学会HP_a0119856_23305374.png

by dobashinaika | 2014-01-27 23:32 | 抗凝固療法:ガイドライン | Comments(0)


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