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抗菌薬に関わらず上気道感染はワーファリンの作用を増強させる;米保険会社データベースより:JAMAIM

JAMA Intern Med 1月20日付オンライン版より

Warfarin Interactions With Antibiotics in the Ambulatory Care Setting doi:10.1001/jamainternmed.2013.13957


【疑問】抗菌薬はワーファリン管理にどのように影響するのか?

P:コロラド州のカイザー保険加入者で2005年1月〜2011年3月までにワルファリンを投与された患者

E:抗菌薬投与:5857例48.8%

C:健常でワルファリンのみ(stable control):5579例46.5%、上気道感染ありで抗菌薬なし(sick control):570例4.7%

O:INR5.0以上の患者の割合。登録日前の最後のINR測定とフォローアップINR間の変化

T;後ろ向きコホート

【結果】
1)平均68.3歳。心房細動44.4%

2)INR5.0以上の割合:抗菌薬群3.2%、sick control 2.6%、stable control 1.2%
抗菌薬vs stable;P<0.001, sick vs stable;P<0.017, 抗菌薬vs sick; P=0.44

3)がんの診断、ベースラインINRの上昇、女性はINR5.0以上の予測因子

4)抗菌薬群の中で、ワーファリン代謝に干渉するものはINR5.0以上の大きなリスク

【結論】
急性上気道感染は、抗菌薬使用の有無にかかわらず抗凝固作用過多のリスクを増加させる。抗菌薬もリスクではあるが、それまでワーファリン管理が安定している患者においては、抗菌薬投与あるいは上気道感染がINRを増させることにはならない。

### 抗菌薬使用の有無にかかわらずワーファリン管理には感染症それ自体が影響するとのことです。

一般にマクロライド系やアゾール系抗菌薬はINRを増加させることが知られています。
しかし私自身は、外来で単なる上気道感染に抗菌薬を使うことはほとんどありませんので、抗菌薬で1INRが変動したという経験は殆ど無いというのが実感です。

今回の論文では抗菌薬に関係なく感染そのものが良くないといいう結論ですが、本当なのかなという気がします。
感染症→脱水→腎機能低下→INR増強などの機序が思い浮かびますが。

一番の限界として保険会社のデータベースである点です。上気道感染と言ってもどの程度のものなのか、脱水をきたすような重症なものから単なるかぜまで様々と思われます。また後ろ向きコホートですから、交絡因子多数です。

また抗菌薬で何を使ったかも気になるところです。
ワーファリンと抗菌薬の併用については以下のブログに大変詳しい考察があります。
http://syuichiao.blogspot.jp/2012/12/blog-post.html

まあ上気道感染時はINR管理に注意、特に抗菌薬使用時には更に注意という警告として受け止めておきたいですね。
NOACでさえ、抗菌薬の併用注意はありますので私としては、上気道感染症であれば安易にクラリスなど処方しないことをまず肝に銘じたいです。

上記ブログではアゾール系、セフェム、ST合剤のオッズ比が高いとの報告が紹介されていますが、プライマリケアセッティングでセフェムは殆ど使わないし、アゾール系も無理して使う場面も少ないです。膀胱炎でバクタは重宝しますが、まあ3日間処方ですし。

どうしても使用せざるをえない時はINRをややこまめにモニターしつつペニシリン系などで切り抜けるというスタンスでやっています。
by dobashinaika | 2014-01-24 23:54 | 抗凝固療法:ワーファリン | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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