バルサルタン問題で刑事告発:今こそ”宣伝に基づく医療”から脱却できるチャンス
厚生労働省が,バルサルタン(ティオバン™)問題でノバルティスファーマとその社員を薬事法違反(誇大広告)容疑で東京地検に刑事告発しました。
そして私が,毎日新聞社の取材に答えた記事が,同新聞のホームページに掲載されています。
http://mainichi.jp/select/news/20140109k0000e040157000c.html?inb=tw
ここで述べているように,製薬会社の責任は当然問われるべきです。医療者皆が憤りを感じています。
ただ,製薬会社のみを責めるに終始しても,事の本質は見えません。
この件について,字数の都合で掲載されなかった私の言いたいことを述べたいと思います。
このような大きな社会問題の場合,個々のプレイヤーだけ見ていてもゲーム(とあえて呼びます)の大筋は見えません。
ゲームを形作る構造に目を向ける必要があります。
本問題のプレイヤーは,製薬会社,オピニオンリーダー,現場医師,そして患者さんの4者です。
今回はもちろん患者さんには何の責任もありません。前3者それぞれに責任があると思います。
そして私が一番の問題だと思うのは,薬剤に関する情報の流れに関する構造そのものです。
最近は若手医師を中心に,EBMの基本にのっとり自ら医療情報を入手し,批判的吟味を行い治療の適応を考える医師も増えていると思います。
しかし日本に良い二次情報のリソースが無いことや,言語の壁もあって,プライマリケアの現場全体としては(特に年配層),自ら医療情報を収集する態度には乏しいように思います。
特に新薬に関する情報の流れというのは,
製薬会社の出すパンフレット,医学雑誌などの広告,各都市のホテルなどで開かれる講演会
↓
大学や病院のいわゆるオピニオンリーダーがそうした場で情報を発信
↓
現場医師が参考にし
↓
患者さんに薬剤を処方
というストリームが,やはり一番大きいのではないかと思います。
いや,私は,きちんと論文を読むなりUpToDateに当たるなりしている,という先生もおられるかもしれません。
しかし,ディオバンが世に出回った時,probe法の危うさや,複合エンドポイントのからくりを大きな流れを持って明らかにできなかったのは,それはちょっと違うよねといって,ディオバンの席巻に待ったをかけられなかったのは,それ以上に大きな流れ,つまり「宣伝に基づく医療」の大きな流れに,我々が依存していたからにほかならないと思うのです。
じゃあ,どうすればいいか。現場医師として2つやることがあると思います。
1つは,やはり自らの情報リテラシーを高めるしかない,です。
幸いこちらの領域には,素晴らしいオピニオンリダーの先生がたくさんいらっしゃいます。学校教育でEBMの施しを受けていない世代は,そうした人の著書やサイト,セミナー等で論文の読み方を吸収し,最低でも医学論文の基本的な読み方を,聴診器の使い方と同様のレベルでする必要があります。
もう1つは,我々の情報入手のあり方そのものを製薬会社とは独立した形で創出することです。
これを機会に製薬会社共催,主催と言った講演会,セミナーからの脱却を図るのです。
もちろん,まだまだ新薬などの情報については情報の非対称性があり製薬会社からの情報提供は必要です。
しかし,それとて,会社主導でなく,例えば医師会,例えば大学病院の専門医などを中心とした小規模な勉強会を各地域ごとで開くというような形を創出することで,「会社の製品」というバイアスのかかった情報からフリーな医学知識を共有する場を作るのです。
会社の学術の人はオブザーバー参加などの形にするという方法もあると思います。
このときメーリングリストとかSNSの果たす役割は大きい物があると思われます(このことはまた別に書きたい)。
かく言う私も,この問題が起きるまでは,製薬会社の講演会に参加し,少数ながら講演料などはいただき,共催の会の世話人になるなどにあまり疑問を持たずにやって来ました。しかしこの問題を契機に,我々現場の医師といえども,いやだからこそ,自分の判断力にバイアスをかけないためにも襟を正すべきだと思うようになり,講演の際の謝礼などはすべてお断りするようにしています。
今回のバルサルタン問題は倫理意識の向上も含めてやはり現場から,医療情報共有のあり方を洗いなおす,ある意味良いチャンスであると思います。暗中模索しながら,医療情報に関して「自立した」医療者を目指したいものだと思います。
以下のブログも参照ください。
ディオバン問題での患者さん説明用パンフレット
http://dobashin.exblog.jp/18253831/
アンジオテンシン受容対拮抗薬についての復習
http://dobashin.exblog.jp/18083317
私のより言いたいことは,毎日新聞の12月26日夕刊に掲載されていますので,ご参照ください。

そして私が,毎日新聞社の取材に答えた記事が,同新聞のホームページに掲載されています。
http://mainichi.jp/select/news/20140109k0000e040157000c.html?inb=tw
ここで述べているように,製薬会社の責任は当然問われるべきです。医療者皆が憤りを感じています。
ただ,製薬会社のみを責めるに終始しても,事の本質は見えません。
この件について,字数の都合で掲載されなかった私の言いたいことを述べたいと思います。
このような大きな社会問題の場合,個々のプレイヤーだけ見ていてもゲーム(とあえて呼びます)の大筋は見えません。
ゲームを形作る構造に目を向ける必要があります。
本問題のプレイヤーは,製薬会社,オピニオンリーダー,現場医師,そして患者さんの4者です。
今回はもちろん患者さんには何の責任もありません。前3者それぞれに責任があると思います。
そして私が一番の問題だと思うのは,薬剤に関する情報の流れに関する構造そのものです。
最近は若手医師を中心に,EBMの基本にのっとり自ら医療情報を入手し,批判的吟味を行い治療の適応を考える医師も増えていると思います。
しかし日本に良い二次情報のリソースが無いことや,言語の壁もあって,プライマリケアの現場全体としては(特に年配層),自ら医療情報を収集する態度には乏しいように思います。
特に新薬に関する情報の流れというのは,
製薬会社の出すパンフレット,医学雑誌などの広告,各都市のホテルなどで開かれる講演会
↓
大学や病院のいわゆるオピニオンリーダーがそうした場で情報を発信
↓
現場医師が参考にし
↓
患者さんに薬剤を処方
というストリームが,やはり一番大きいのではないかと思います。
いや,私は,きちんと論文を読むなりUpToDateに当たるなりしている,という先生もおられるかもしれません。
しかし,ディオバンが世に出回った時,probe法の危うさや,複合エンドポイントのからくりを大きな流れを持って明らかにできなかったのは,それはちょっと違うよねといって,ディオバンの席巻に待ったをかけられなかったのは,それ以上に大きな流れ,つまり「宣伝に基づく医療」の大きな流れに,我々が依存していたからにほかならないと思うのです。
じゃあ,どうすればいいか。現場医師として2つやることがあると思います。
1つは,やはり自らの情報リテラシーを高めるしかない,です。
幸いこちらの領域には,素晴らしいオピニオンリダーの先生がたくさんいらっしゃいます。学校教育でEBMの施しを受けていない世代は,そうした人の著書やサイト,セミナー等で論文の読み方を吸収し,最低でも医学論文の基本的な読み方を,聴診器の使い方と同様のレベルでする必要があります。
もう1つは,我々の情報入手のあり方そのものを製薬会社とは独立した形で創出することです。
これを機会に製薬会社共催,主催と言った講演会,セミナーからの脱却を図るのです。
もちろん,まだまだ新薬などの情報については情報の非対称性があり製薬会社からの情報提供は必要です。
しかし,それとて,会社主導でなく,例えば医師会,例えば大学病院の専門医などを中心とした小規模な勉強会を各地域ごとで開くというような形を創出することで,「会社の製品」というバイアスのかかった情報からフリーな医学知識を共有する場を作るのです。
会社の学術の人はオブザーバー参加などの形にするという方法もあると思います。
このときメーリングリストとかSNSの果たす役割は大きい物があると思われます(このことはまた別に書きたい)。
かく言う私も,この問題が起きるまでは,製薬会社の講演会に参加し,少数ながら講演料などはいただき,共催の会の世話人になるなどにあまり疑問を持たずにやって来ました。しかしこの問題を契機に,我々現場の医師といえども,いやだからこそ,自分の判断力にバイアスをかけないためにも襟を正すべきだと思うようになり,講演の際の謝礼などはすべてお断りするようにしています。
今回のバルサルタン問題は倫理意識の向上も含めてやはり現場から,医療情報共有のあり方を洗いなおす,ある意味良いチャンスであると思います。暗中模索しながら,医療情報に関して「自立した」医療者を目指したいものだと思います。
以下のブログも参照ください。
ディオバン問題での患者さん説明用パンフレット
http://dobashin.exblog.jp/18253831/
アンジオテンシン受容対拮抗薬についての復習
http://dobashin.exblog.jp/18083317
私のより言いたいことは,毎日新聞の12月26日夕刊に掲載されていますので,ご参照ください。

by dobashinaika
| 2014-01-09 23:25
| 循環器疾患その他
|
Comments(0)
土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。
by dobashinaika
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筆者は、2013年4月以降、ブログ内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません
●医療法人土橋内科医院
●日経メディカルオンライン連載「プライマリケア医のための心房細動入門リターンズ」
●ケアネット連載「Dr,小田倉の心房細動な日々〜ダイジェスト版〜」
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