心房細動の新規抗凝固薬:1日1回か2回か?:CardioSourceより
American College of Cardiologyの"CardioSource”というサイトにNOACの服用回数に関する総説が掲載されています。
知識の整理になりますので,大事なところだけ要約してみます。
http://anticoagulation.cardiosource.org/Hot-Topics.aspx
【心房細動の新規抗凝固薬:1日1回か2回か?】
ダビガトラン:1日1回か2回かを比較した第2相試験はひとつ
<BISTRO II研究>:股関節または膝関節置換術後の静脈血栓塞栓症(VTE)予防
・有効性,出血率は同等。安定期の薬剤暴露も同等
・1日1回のほうがピーク−トラフの濃度差大。Cmax(最大血中濃度)と有効性安全性とはより強い相関あり
・このことは,VTE予防に比べて血栓塞栓症の高リスク状態である心房細動やVTE治療における用法選択の参考になる
リバーロキサバン:2つの試験あり
<ODIXa-DVT試験>
・40mg1日1回は20mg1日2回に比べ出血や血栓のリスクを増やさず(第2相)
・第3相では20mg1日1回が採用
・はじめ3週間は15mg1日2回:その方がCmin(最小血中濃度)がより高くなる→急性期には良い(”intensified effect")
・この投与法は、VTE予防に最適とされる10mg1日1回とは異なる
・ROCKET-AF試験は20mg1日1回が採用された。これはVTEの予防と治療における第2相試験の結果に基づく
<ATLAS ACS-TIMI46試験>
・急性冠症候群対象
・1日1回投与はより高いピークとより低いトラフを示す
・1日1回はより出血が多い傾向だった
・副次評価項目では両者と同じ結果
・よってこうしたケースでは1日2回が臨床的に有利と考えられ、第3相試験では1日2回が採用
アピキサバン
<APROPOS試験>
・効果と安全性は用量依存性であり、投与回数に依存しなかった(第2相)
・第3層では2.5mg1日2回が採用された。
<AVERROES, ARISTOTOKE>
・5mg1日2回:出血を増やすことなく、効果を増強される用量として設定
<APPRAISE試験>
・急性冠症候群後の高リスク患者
・抗血小板薬にアピキサバン1日1回投与
・20mg1日1回は10mg1日2回よりやや大出血が多い(統計的に有意でない)
・このためAPPRAISE-2では5mg1日2回が採用
・結果はプラシボ+抗血小板薬より出血大、効果同じ
エドキサバン
<Weltzらの研究>
・大出血は1日のトータル投与量に比例
・ただしエドキサバン30mgも60mgも1日1回ではワルファリン群と有効性安全性に差はなし
・30mg1日2回は60mg1日1回より出血が多い傾向
・AUC(総曝露量)は同じ
・1日2回の方が出血が多いのは、1日1回のより高いCmaxとより低いCminが、直感とは反対に出血を減らすことに関係していることを示す。
・このことは低いCminが出血を減らすのに最良だったことを示唆する
・このためENGAGE AF-TIMI 48試験では30mg、60mg1日1階が採用された
・また30mg1日1回はVTE予防、60mg1日1回はVTE治療に採用された
Darexaban
<RUBY〜1試験>
・第2相
・10.30,60mg1日1回または2回
・抗血小板薬2剤と併用
・用量依存性に2〜4倍出血増加
・直感に反し、1日2回で出血多い(統計的に有意ではない)
患者アドヒアランス
・上記のような薬物動態学的考察以外に患者アドヒアランスの面で投与回数は、リアル・ワールドにおいて重要
・少ない投与回数が良好なアドヒアランスをもたらすエビデンスが示されている
・アドヒアランスは抗凝固療法の良好な管理には決定的な役割あり
・他のすべてが等しければ、1日1回がより忍容性あり
結論
・薬物動態と病態生理学的考察は異なる状況下でのNOACの用法用量選択を支配する考え方である。それは他のすべてが等しければ、1日1回のほうがより便利で良いコンプライアンスをもたらすという前提に基づく。脳卒中/VTE予防においては1日1回投与は24時間未満での強い抗凝固作用をもたらし、十分な血栓塞栓予防効果を示す。しかるによりコンスタントなレベルというのは1日2回で達成でき、既に血栓を有する患者の治療においてはより適切といえる。しかし最新のデータは、薬剤選択に新たな原則をもたらし、異なるNOAC間での予期しないような差異を浮き彫りにしている。こうした新しいデータなさらなる探求と評価を必要としている。
### 長くなってすみません。乗りかかった船です(笑)。多くの場合、1日2回のほうがCmaxとCminとの差が小さく、より安全かつ効果が高いと考えられており、私自身もそう思っていたのでですが、そのような結果も多く認められますが、必ずしも全部の試験でそうしたデータが出ているわけではないようです。この辺り、NOACが一筋縄ではくくれないものを感じます。
「他の全てが等しければ」1日1回の方がいい。そうですが、「他のすべて」つまり薬物動態やエビデンスをどこまで「等しい」と考えるかが臨床家によって異なるのかもしれません。
大急ぎで訳したので、内容に誤りやわかりにくい箇所があるかもしれません。ご指摘いただければ幸いです。
知識の整理になりますので,大事なところだけ要約してみます。
http://anticoagulation.cardiosource.org/Hot-Topics.aspx
【心房細動の新規抗凝固薬:1日1回か2回か?】
ダビガトラン:1日1回か2回かを比較した第2相試験はひとつ
<BISTRO II研究>:股関節または膝関節置換術後の静脈血栓塞栓症(VTE)予防
・有効性,出血率は同等。安定期の薬剤暴露も同等
・1日1回のほうがピーク−トラフの濃度差大。Cmax(最大血中濃度)と有効性安全性とはより強い相関あり
・このことは,VTE予防に比べて血栓塞栓症の高リスク状態である心房細動やVTE治療における用法選択の参考になる
リバーロキサバン:2つの試験あり
<ODIXa-DVT試験>
・40mg1日1回は20mg1日2回に比べ出血や血栓のリスクを増やさず(第2相)
・第3相では20mg1日1回が採用
・はじめ3週間は15mg1日2回:その方がCmin(最小血中濃度)がより高くなる→急性期には良い(”intensified effect")
・この投与法は、VTE予防に最適とされる10mg1日1回とは異なる
・ROCKET-AF試験は20mg1日1回が採用された。これはVTEの予防と治療における第2相試験の結果に基づく
<ATLAS ACS-TIMI46試験>
・急性冠症候群対象
・1日1回投与はより高いピークとより低いトラフを示す
・1日1回はより出血が多い傾向だった
・副次評価項目では両者と同じ結果
・よってこうしたケースでは1日2回が臨床的に有利と考えられ、第3相試験では1日2回が採用
アピキサバン
<APROPOS試験>
・効果と安全性は用量依存性であり、投与回数に依存しなかった(第2相)
・第3層では2.5mg1日2回が採用された。
<AVERROES, ARISTOTOKE>
・5mg1日2回:出血を増やすことなく、効果を増強される用量として設定
<APPRAISE試験>
・急性冠症候群後の高リスク患者
・抗血小板薬にアピキサバン1日1回投与
・20mg1日1回は10mg1日2回よりやや大出血が多い(統計的に有意でない)
・このためAPPRAISE-2では5mg1日2回が採用
・結果はプラシボ+抗血小板薬より出血大、効果同じ
エドキサバン
<Weltzらの研究>
・大出血は1日のトータル投与量に比例
・ただしエドキサバン30mgも60mgも1日1回ではワルファリン群と有効性安全性に差はなし
・30mg1日2回は60mg1日1回より出血が多い傾向
・AUC(総曝露量)は同じ
・1日2回の方が出血が多いのは、1日1回のより高いCmaxとより低いCminが、直感とは反対に出血を減らすことに関係していることを示す。
・このことは低いCminが出血を減らすのに最良だったことを示唆する
・このためENGAGE AF-TIMI 48試験では30mg、60mg1日1階が採用された
・また30mg1日1回はVTE予防、60mg1日1回はVTE治療に採用された
Darexaban
<RUBY〜1試験>
・第2相
・10.30,60mg1日1回または2回
・抗血小板薬2剤と併用
・用量依存性に2〜4倍出血増加
・直感に反し、1日2回で出血多い(統計的に有意ではない)
患者アドヒアランス
・上記のような薬物動態学的考察以外に患者アドヒアランスの面で投与回数は、リアル・ワールドにおいて重要
・少ない投与回数が良好なアドヒアランスをもたらすエビデンスが示されている
・アドヒアランスは抗凝固療法の良好な管理には決定的な役割あり
・他のすべてが等しければ、1日1回がより忍容性あり
結論
・薬物動態と病態生理学的考察は異なる状況下でのNOACの用法用量選択を支配する考え方である。それは他のすべてが等しければ、1日1回のほうがより便利で良いコンプライアンスをもたらすという前提に基づく。脳卒中/VTE予防においては1日1回投与は24時間未満での強い抗凝固作用をもたらし、十分な血栓塞栓予防効果を示す。しかるによりコンスタントなレベルというのは1日2回で達成でき、既に血栓を有する患者の治療においてはより適切といえる。しかし最新のデータは、薬剤選択に新たな原則をもたらし、異なるNOAC間での予期しないような差異を浮き彫りにしている。こうした新しいデータなさらなる探求と評価を必要としている。
### 長くなってすみません。乗りかかった船です(笑)。多くの場合、1日2回のほうがCmaxとCminとの差が小さく、より安全かつ効果が高いと考えられており、私自身もそう思っていたのでですが、そのような結果も多く認められますが、必ずしも全部の試験でそうしたデータが出ているわけではないようです。この辺り、NOACが一筋縄ではくくれないものを感じます。
「他の全てが等しければ」1日1回の方がいい。そうですが、「他のすべて」つまり薬物動態やエビデンスをどこまで「等しい」と考えるかが臨床家によって異なるのかもしれません。
大急ぎで訳したので、内容に誤りやわかりにくい箇所があるかもしれません。ご指摘いただければ幸いです。
by dobashinaika
| 2013-12-17 01:02
| 抗凝固療法:比較、使い分け
|
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土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。
by dobashinaika
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筆者は、2013年4月以降、ブログ内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません
●医療法人土橋内科医院
●日経メディカルオンライン連載「プライマリケア医のための心房細動入門リターンズ」
●ケアネット連載「Dr,小田倉の心房細動な日々〜ダイジェスト版〜」
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