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ワルファリンの「遺伝子的管理」は「さじ加減」に勝てない?:NEJM誌より(COAG試験)

NEJM 11月19日付オンライン版より

A Pharmacogenetic versus a Clinical Algorithm for Warfarin DosingDOI: 10.1056/NEJMoa1310669

【疑問】ワルファリンの用量調節は遺伝子ガイドによるものと、臨床的アルゴリズムによるもののどちらがより良いか?

P:米国18施設からの登録研究。ワルファリン服用者;INR2.0〜3.0目標

E:CYP2C9とVKORC1のジェノタイプ+臨床的変数のアルゴリズムによる用量設定

C:臨床的変数のみによる用量設定

0:一次エンドポイント=TTR、二次エンドポイント=INR4以上、大出血、血栓塞栓症

T:無作為割付。6ヶ月追跡


【結果】
1)4週間でのTTR:ジェノタイプ群45.2% VS. 臨床ガイド群45.4% (P=0.91)

2)ワルファリン1日1mg以上においてもそれ以下の群でも、両群間で差はなし

3)2つのストラテジーと人種とに交互作用あり:黒人は臨床ガイド優位、非黒人はジェノタイプ優位

4)INR4以上の割合、出血、血栓塞栓症は両群間で差なし
ワルファリンの「遺伝子的管理」は「さじ加減」に勝てない?:NEJM誌より(COAG試験)_a0119856_23585625.png


【結論】ワルファリンのジェノタイプガイド用量設定は最初の4週における抗凝固管理を改善させない。

### ワルファリンはビタミンKエポキシド還元酵素(VKOR)を抑制してビタミンk依存性凝固因子産生を抑制し、CYP2C9で分解されます。これらには遺伝子多型があり、それらの有無がワルファリンの用量調節に左右すると言われています。

こうした要素と年齢、人種、BMI、糖尿病、喫煙その他の臨床因子を組みあせてワルファリンの用量と決める方法と臨床因子のみで決める方法とでTTRに差があるのかを見た論文です。
で、本論文は遺伝子の要素を加味してもワルファリン管理には影響しないという結果でした。

ところがほぼ同様の研究が同時掲載されていますが、こちらはなんと遺伝子ガイドの方が管理が良かったという正反対の結果になっています
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1311386

この差の由来は、用量設定を決めるアルゴリズムにあると思われます。
ワルファリンの用量は、この補足にあるように、遺伝子多型のある場合それにいろいろな係数をかけた関数式で決定されます。
http://www.nejm.org/doi/suppl/10.1056/NEJMoa1310669/suppl_file/nejmoa1310669_appendix.pdf

この係数の設定などで用量が大きく変わってしまうものと思われます。各臨床因子の中には過去数回のINRも含まれており、「さじ加減」的要素も含まれています。

本論文はTTRは40%台とか、4週間でしか比較していないとかで、やや実臨床に即していない傾向が感じられます。それにしても、かなり研究されていると思われるワルファリンのジェノタイプを使用してすら、「さじ加減」には勝てないということは。。。。

我々の臨床的”勘”は侮れないということでしょうか?
これだからワルファリンから離れられないのですねえ。
やっぱり数ある薬の中でも、毎回の検査結果を見ながらちょっとずつ量を変えることが出来る薬なんて、これくらいしかありませんので。
その”薬師”的味わいも含めて好きなんですけどねー。ワルファリン。決してワルくないです。

こちらのブログも参照を
http://dobashin.exblog.jp/16487585/
by dobashinaika | 2013-11-22 23:55 | 抗凝固療法:ワーファリン | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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