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第4の新規抗凝固薬エドキサバンの実力は?:ENGAGE AF試験を読む

NEJM11月19日付オンライン版より

Edoxaban versus Warfarin in Patients with Atrial Fibrillation
DOI: 10.1056/NEJMoa1310907


【疑問】エドキサバンはワルファリンに比べて有効性、安全性はどうか?

P:12誘導心電図で心房細動が記録されている21歳以上の人。CHADS2スコア2点以上。
<除外基準>
* CCr30未満
* 抗血小板薬2剤併用
* 中等度以上の僧帽弁狭窄症
* 抗凝固薬禁忌例、急性冠症候群、脳卒中30日以内など

E:エドキサバン60㎎1日1回(高用量群)、30㎎1日1回(低用量群)

C:ワルファリン:INR2.0〜3.0に管理

O:
* 一次エンドポイント(有効性):脳卒中/全身性塞栓症
* 一次エンドポイント(安全性);大出血(ISTH基準)
* 二次エンドポイント(有効性);脳卒中/全身管理を必要とする出血、心血管死

T:ダブルブラインド、ダブルダミーによる3群無作為割付
* CHADS2スコア2〜3点と4〜6点を1:1になるように割付
* 減量基準:CCr30-50、体重60kg、P糖タンパク阻害薬(ベラパミル、キニジン)のうち1つ以上

【結果】
1)一次エンドポイント(有効性):評価法=modified ITT、年間発症率
・ワルファリン 1.50%
・エドキサバン60mg 1.18%(ハザード比0.79:P<0.001(非劣性))
・エドキサバン30mg 1.61%(ハザード比1.07:P=0.005(非劣性))

2)一次エンドポイント(有効性):評価法=ITT、年間発症率
・ワルファリン1.80%
・エドキサバン60mg 1.57%(ハザード比0.87:P=0.08(優越性))
・エドキサバン30mg 2.04%(ハザード比1.13:P=0.10(優越性))

3)一次エンドポイント(安全性):年間発症率
・ワルファリン 3.43%
・エドキサバン60mg 2.75%(ハザード比0.80:P<0.001)
・エドキサバン30mg 1.61%(ハザード比0.47:P<0.001)

4)二次エンドポイント(有効性);年間発症率
・ワルファリン4.43%
・エドキサバン60mg3.85%(ハザード比0.96:P=0.005)
・エドキサバン30mg4,23%(ハザード比0.96:P=0.005)

5)心血管死:年間発症率
・ワルファリン 3.17%
・エドキサバン60mg 2.74%(ハザード比0.86:P<0.01)
・エドキサバン30mg 2.71%(ハザード比0.85:P=0.008)
第4の新規抗凝固薬エドキサバンの実力は?:ENGAGE AF試験を読む_a0119856_23561677.png

【結論】
* 両用量とも有効性に関してはワルファリンに対し非劣性
* 大出血、心血管死は有意に減少

### 日本時間で20日明け方に発表されました第4のNOACエドキサバンの大規模試験ENGAGE AFの結果です。

<いくつか確認事項>
* 平均年齢 71歳(RELY71, ROCKETAF 73, ARISTOTLE 70)
* 75歳以上40%(RELY40%, ROCKETAF 43.5%, ARISTOTLE 31.2%)
* 減量した人の割合25.4%(RELYー, ROCKETAF 20.7%, ARISTOTLE 4.7%)
* ワルファリン群の平均TTR68%64.9%(中間値は68%)(RELY64%, ROCKETAF 55%, ARISTOTLE 62%)
* ワルファリン投与歴59%(RELY50%, ROCKETAF 62%, ARISTOTLE 66%)
* 平均CHADS2スコア2.8 (RELY2.1, ROCKETAF 3.5, ARISTOTLE 2.1)

<他の試験とのハザード比比較>:エド60,エド30の順。カッコ内はダビ150/ダビ110/リバーロ/アピの順。*は有意差あり
* 脳卒中/全身性塞栓症(ITT):0.87, 1.13 (0.66*/0.91/0.88/079*)
* 大出血:0.80*, 0.47* (0.93/0.80*/1.04/0.69*)
* 頭蓋内出血:0.47*, 0.30* (0.40*/0.31*/0.67*/0.42*)
* 虚血性脳卒中:1.00. 1.41* (0.76*/1,11/0.94/0.92)
* 消化管出血:1.23*,0.67* (1.48*/1.08/1.48*/0.89)
* 心筋梗塞:0.94, 0.82 (1.27/1.29/0.81/0.88)

まず試験デザインとデータ解析ですが、追跡率は99.5%(脱落者1人)と驚異的です。TTRは悪くならないよう医師に勧告が出るようにしたため68%(中間値)と今まで最良です(平均は64.9%でRELYとほぼ同じ)

一次エンドポイントは通常のITT解析のほか、何らかの理由で割付後に一度も薬剤を服用せずに終わった例(各群23〜32例)をのぞいたmodified ITT解析も行われています。

先行3NOACとの比較を念頭に置いた今回の試験(対ワルファリン)の特徴を挙げてみました。
* 有効性(脳卒中/全身性塞栓)は同等(非劣性):ダビ150,アピは優位性あり、リバーロは非劣性
* 大出血は大変少ない:特に30mgはワルファリンの半分以下でこれまでで最小
* 頭蓋内出血も少ない:ダビガトラン、アピキサバンと同じくらいのハザード比
* 虚血性脳卒中は30mgで有意に上昇:先行3剤ではなし
* 消化管出血は60mgで有意に上昇(30mgでは減少):上部、下部とも増加
* 心血管死は減少

消化管出血と低用量での虚血性脳卒中増加が気になります。このへん、日本での発売時の用量に影響があるのかですね。

総じて、TTR68%と非常に優秀な管理のワルファリン群に対し一歩も引かず、有効性は同等、出血はかなり少ないということで、1日1回ということも考えると先行3剤に比肩する(部分的には上回るとも思わせる)結果だろうと思われます。

と、ついマニアックにいろいろ列挙してしまいましたが、とはいえ、やはりRCTです。高齢者、アドヒアランス低下者などリアルワールドの複雑性はこぼれ落ちています。

また4剤比較は、何回も言いますように間接比較であり、特にサブ解析同士の比較などはあまり意味が無いと思われます。それから一番最後のRCTなので、プロトコールにいろいろな工夫が凝らされていて、その点が結果に反映されている可能性もありますね。

私としては、まあそれでもワルファリンを使うべき時はきちんと使いながら、徐々に感触を見て行きたいと思います。

当日発表のスライドはこのサイトで見られます。
http://www.clinicaltrialresults.org/

同じNEJMのワルファリン管理に関する試験も相当面白そうですよ(明日アップ予定)。

※ENGAGE AFのTTRの記載で誤りがあったので上記赤字のように訂正いたします。
by dobashinaika | 2013-11-20 23:54 | 抗凝固療法:エドキサバン | Comments(0)


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