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患者ー医療者双方の正しいリスク認知が抗凝固療法の第一歩:webカンファランスより

本日(12日)、webカンファレンスに山下武志先生とご一緒に参加させていただきました。

以前にも書きましたが、こうした講演会のお誘いを最近受けることがあるのですが、基本的に謝礼を受け取らない、特定の薬剤の宣伝になるようなスライドや発言は表出しない、を条件にお受けすることにしています(利益相反の私の考え方は、後日詳述いたします)。

理由はひとつの講演をまとめると、自院のデータや内外の文献を当たらざるをず、そうした作業の中から新たに見えてくる知見が必ずあるからです。

もうひとつは参加者からの質問や、ご一緒させていただく講師の先生から思わぬインスピレーションを受けることが往々にしてあるからです。

本日は「抗凝固薬の導入」について話をさせていいただきましたが、このテーマ、考えようによっては、途方もなく大きくて20分の発表枠内ではとても収まらない問題を抱えています。導入はCHADS2スコアでクリアカットだと思われがちですが、全くそんなことはなくて、CHADS2スコア、2点以上のある意味ガイドライン上は「鉄板」と考えられる例の多くに抗凝固薬が処方されていない現実があります。その多くの原因はやはり出血、患者アドヒアランス、転倒の懸念など、医者のリスク認知によるものが大きいことをGARFIELD研究などのデータは示しています。
患者ー医療者双方の正しいリスク認知が抗凝固療法の第一歩:webカンファランスより_a0119856_0535567.png

一方患者さんも「出血リスク」や「コスト」を懸念して抗凝固薬の服用に難色を示したり、中断をしてしまったりすることがままあります。

NOACが登場以来、抗凝固薬の市場はじりじりパイを広げつつありますが、他方非循環器専門医の先生の間では、「今ひとつ処方に踏み切れない」との声も聞きます。こうした”抗凝固薬デビュー控え”の原因は、医者、患者双方ともの「出血(これが主)「高齢」などに対する懸念(ビビリとでもいいますか)にあるように思われます。だとすると、これはたとえNOACであってもなかなか解決策が見いだせない、抗凝固薬の宿命的な問題点ではないか、とも思うのです。

今回の講演会準備を通じて、そうした「おそれ(ビビリ)」に対して、
・「抗凝固薬は脳を守る」というゴールを共有しよう
・リスクとベネフィットを的確に把握することで克服しよう
・そのリスクを患者さんとしっかり共有しよう
・それが真のリスクコミュニケーションである
というような「リスクの正しい理解がビビリ克服につながる」ということを自分なりに「発見」したつもりで述べたのでしたが、短時間のため、どれだけ伝わったかはあまり自信がありません。

一方、山下先生のご講演は、相変わらずスマートで、自験例のリバーロキサバン投与時のPT測定について、非常に実践的なお話をされていて大変参考になりました。
・多くの循環器薬が細胞に効くのに対し、抗凝固薬は分子に効くため、効果にばらつきが生じる
・不適切な用量を用いてはいけない(本来標準量を出すべき人に低用量を出すといった)
・ばらつきの中で見られる外れ症例を見逃さないためにPT測定が有用かもしれない
・PT測定はPTINRではダメ
・試薬により感度に大きな違いがある(ネオプラスチンプラスまたはリコンビプラスチンプラスが良い)
・なるべくピーク値と思われる時間帯で測る(トラフはほとんど正常値となる)

また、患者教育について、最初に教育しても忘却曲線があるため、糖尿病教室のような定期的な集団教育が有効かもしれない、という提言も大変納得でした。

このように自分でまとめ上げる作業の中で新たな考え方が芽生えたり、山下先生の彗眼に接することができ収穫の多い1日でした。
by dobashinaika | 2013-11-13 00:59 | 抗凝固療法:リバーロキサバン | Comments(1)
Commented by 大塚俊哉 at 2013-11-13 21:34 x
是非同様のカンファランスがありましたら私も参加させてもらいたいと思うのですが、日本の製薬会社には商売敵と思われているフシがあるので無理かもしれませんね(光栄ともいえますが)。抗凝固治療の被害者をたくさん治療している私こそ、実は逆に抗凝固治療の最適症例を一番理解している゛抗凝固治療のよき理解者”であると自負しているのですが、まあそろばん勘定しかできない方々には理解不能だろうととあきらめてます。


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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