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スクリーニングとリスクコミュニケーションは車の両輪:隠れ心房細動スクリーニングのレビュー

Thrombosis and Haemostasis 8月号より

Screening to identify unknown atrial fibrillation :A systematic review
Thromb Haemost 2013 110 2: 213-222


診断されていないいわゆる”隠れ”心房細動のスクリーニングについてのシステマティックレビューです。4月にオンライン版を取り上げましたが、ある企画でsubclinical AFについての原稿を書いているため再読してみました。

【疑問】ワンポイントの心房細動スクリーニングは未知の心房細動を十分数診断し、脳卒中予防につながるのか?

【方法】
・心電図または脈触知によるスクリーニングを扱った試験を検索
・30試験、122,571人、平均64歳、男54%、9カ国
・総合医外来12試験。一般住民健診18試験。

【結果】
1)65歳以上心房細動有病率2.3%(2.2−2.4)から4.4% (4.1-4.6)に増加
2)65歳以上の未知の心房細動の罹患率は1.0%(0.89−1.04)から1.4%(1.2−1.6)に増加
3)試験セッティングは罹患率に影響与えず
4)見つかった心房細動の67%は脳卒中高リスク。多くが抗凝固療法の適応

【結論】高齢者におけるコミュニティーベースの心房細動スクリーニングは心房細動が持つ健康負担を抑制する可能性あり

### 最近、こうしたsubclinical AF、いわゆる”隠れ”心房細動のスクリーニングに関する論文をよく目にします。本ブログでも再三述べているように、これからNOACの嵐が落ち着いたあとは、こうしたunmet needsの発掘のヘルスプロモーションが台頭してくることが確実と思われます。この予兆を先取りするレビューです。

単純に脈を取る、または心電図を取ることで、65歳の人の心房細動罹患率が0.4ポイント上昇とのことです。その多くが高リスクです。

今後例えばメタボやロコモといったアドバタイズ活動同様、”エーフィブ”とか”サイド−”とかのニックネームでスクリーニングの運動が展開されるかもしれません。「腹囲を測るのと同じように脈を取ろう」とか”エーフィブ体操”(どんなんだろう(笑))などが出てくるかもしれません。

冗談はさておき、メタボと違う点は、このレビューでも示されているようにスクリーニングにより脳卒中のハイリスク症例が確実に同定されるということです。つまりこうして見つかった隠れ心房細動に抗凝固療法の介入をすることにより、対象者全体の予後が良くなることが十分見込まれるということです。メタボなんかより大変有望です。心房細動も、それまで高リスク者の抗凝固療法という「ハイリスクストラテジー」から「ポピュレーションストラテジー」へとシフトしていく展開が広がりそうです。
 
ただしもしそうしたヘルスプロモーションが展開されるとして、エーフィブスクリーニングが広く行われるようになった場合、次に大きな課題がやってきます。それはズバリ、リスクコミュニケーションです(これまた今までも述べていますが)。たとえばメタボ検診をやっていて実感しますが、メタボと診断された方を積極的支援に参加するように説得することは大変困難です。事実積極的支援参加者は非常に少ないのが各自治体の実情でしょう。同じように、これまで無症候の人が突然心房細動ですよと言われて、はい、抗凝固薬を飲みましょうと言われてたらどうでしょうか?メタボの場合おなかが出てきているのが自分でわかるので多少の危機感がありますが、心房細動の場合症状がないわけです。抗凝固薬開始まで行き着く道のりは人によってかなり遠い場合も予想されます。

スクリーニングはリスクコミュニケーションとセットで普及しなければうまくいかないだろうと思います。

これまでも指摘してきたように、ポストNOAC時代の心房細動業界の2大イシュー、「隠れ心房細動を探せ」「超高齢者への抗凝固薬」。この心房細動の入口と出口ともいうべき2つの問題が、心房細動の残されたアポリアといえるかもしれません。

追記:スクリーニング+リスクコミュニケーション=ヘルスプロモーション と思いますので。題名と途中の文章を書き換えました。
by dobashinaika | 2013-08-13 13:41 | 心房細動:診断 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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