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ダビガトラン150mgと110mgの臨床的有効性は同等:RELY 試験のデータより

JACC 6月19日オンライン版より

Balancing the benefits and risks of two doses of Dabigatran compared with Warfarin in Atrial Fibrillation
J Am Coll Cardiol. 2013;():. doi:10.1016/j.jacc.2013.05.042


【疑問】ダビガトラン110mgx2と150mgx2の、Net clinical benefitはどちらがよいのか?

P:RE-LY試験組み入れ患者18113人

E:ダビガトラン110mgx2

C:ダビガトラン150mgx2

O:非中枢性塞栓、出血性脳卒中、硬膜下出血、頭蓋外出血、頭蓋外出血を除く大出血、心筋梗塞の罹患率に、虚血性脳卒中の死亡率をレファレンスとしてのハザード比を係数としてかけたNet clinical benefit(ischemic stroke equivalents)

【結果】
1)対ワルファリン:両用量ともワルファリンより少ない
110mgx2: -0.92 / 100人年 (95% CI: -1.74 to -0.21, p=0.02)
150mgx2: -1.08/人年 (95% CI: -1.86 to -0.34, p=0.01)

2)ダビ150 vs.110:両用量間で違いなし
150mgx2(to110mgx2); -0.16 (95% CI: -0.80 to 0.43)

3)死亡を結果に入れるとベネフィットは小さくなる
ダビガトラン150mgと110mgの臨床的有効性は同等:RELY 試験のデータより_a0119856_2323285.png


【結論】効果と安全性を含む重みづけ評価で、ワーファリンに比べてのベネフィットはダビガトラン両用量とも同等。こうしたオーバーオールでの両用量の同等性は、患者の特性、医療者患者の好みに基づく用量設定の個別化をサポートする。

###計算方法がちょっとややこしいですが、大雑把に言えばダビガトラン150x2の時の「虚血性脳卒中、非中枢性塞栓、出血性脳卒中、硬膜下出血、頭蓋外出血、頭蓋外出血を除く大出血、心筋梗塞」の罹患率を110mgx2の時の罹患率でひき算してプラスなら150mg優勢、マイナスなら110mg優勢という図式だと思います。ただし、虚血性脳卒中をレファレンスにした時にRE-LY試験において、対死亡率で比べた場合たとえば出血性脳卒中は3.29倍ですので、このハザード比を係数としてそれぞれの項目にかけ重みを付けがなされています。症例数が少ない場合はActive-Wからのデータも借用されているようです。

結局両用量とも、最終的な全イベントの差はなかったというのが結論。なぜか?ダビ150は虚血性脳卒中のRRR(相対リスク減少)が110mgの31%。一方大出血は110mgが150mgより12%減少。重み付け係数は虚血性脳卒中が大出血の1.4倍。ただし大出血率自体が虚血性脳卒中の2倍なので、結局差し引き同じとなり、両用量に差がなかった。と説明されています。

SingerらのATRIA研究からの有名なグラフでは頭蓋内出血だけを副作用として取り上げ、かつその重み付けは1.5とかなり恣意的なものでした。この論文では、大イベントが網羅されしかも理論的な係数で重み付けされていてより妥当性があるようにも思えます。

この論文から得られる知見をまとめますと
「ダビ150は梗塞予防ベネフィット大、ダビ110は出血リスク予防大。差し引きすれば両者のメリットは同等」
そこから導かれることは
「ダビ150と110はどちらを選択してもOK。梗塞をより予防したい人なら150、出血させたくない人なら110」
ということだと思います。

まあRELYの結果を概観すれば、こうした緻密な計算をしなくてもわかることだろうとは思います。1回の大規模RCTから、本当にいろいろな観点からの論文が出てくるものだと、感心したりもします。

2つの用量の使い分けができる。このダビガトランの最大の強みが、この論文ではより明らかになったと考えても良いかと思います。われわれはいま4つのNOAC、つまりダビガトラン150、ダビガトラン110、リバーロキサバン、アピキサバンの使い分けを考えねばならない。そうも言えるかもしれません。

Limitationとしては重みづけ係数が死亡に基づくもので良いのか、などの問題もありますが、一番は、日本では上記のような使い分けをする以前に年齢(70歳)で既に縛られてしまい、使い分けの妙が味わえない、というか意味を成さないということでしょう。そろそろ腎機能(クレアチニンクリアランス)だけの縛りにしてほしいものです。
by dobashinaika | 2013-06-26 20:33 | 抗凝固療法:ダビガトラン | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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