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抗凝固療法のリスクコミュニケーション:健康日本21推進フォーラムの調査を読んで

かなり旧聞に属しますが、5月にプレス・リリースされた健康日本21推進フォーラムという団体からの「心房細動の患者さんのコンプライアンス」の実態調査を備忘録としてアップいたします。

http://prw.kyodonews.jp/prwfile/release/M000261/201305222001/_prw_OR1fl_27sXS647.pdf

主な知見をコピペいたします。

レセプトデータに見る抗凝固薬の服薬中止者数
■抗凝固薬の服用中止者数は年間約33,000人と推定。

Q:抗凝固薬の服用中止者の中止時期とその理由
■ 服用開始1年以上たってからの中止者が4割強(41.9%)。
■ 中止理由として薬剤要因が5割以上(54.9%)を占め、通院要因(25.1%)を倍以上上回る。

Q:服用中止者における脳梗塞発症の危険性に関する意識
■ 服用中止者の8割強(83.9%)が服用中止に伴う脳梗塞発症の危険性を軽視する反面、9割弱 (87.1%) が脳梗塞の発症を心配。

Q:服用中止者と継続者の心房細動に関する理解
■中止者(32.3%) 、継続者(48.0%)ともに抗凝固療法による脳梗塞予防に関する理解に乏しく、 特に中止者で理解度が低い。

Q:服用中止者と継続者の脳梗塞に関する理解
■ 中止者の4人に3人(77.4%)が抗凝固薬を服用しないと脳梗塞の発症リスクが高まることを 知らない。

Q:服用中止者と継続者の家族の介護負担に対する意識
■脳梗塞発症時の家族の介護負担を意識している人は、中止者の3人に1人(33.4%)にとどまり、継続者(58.0%)の意識と大きな開きが存在。

Q:服用中止者と継続者が抗凝固薬に望むこと
■ 抗凝固薬に望むことは、中止者(50.5%)、継続者(68.0%)ともに、「1日1回の服用で済む」 がトップ。

Q:服用中止者と継続者の新しい抗凝固薬の認知
▪中止者(91.4%) 、継続者(90.0%)ともに新しい抗凝固薬への関心は9割にのぼる反面、 中止者(45.2%) 、継続者(41.0%)とも4割以上が抗凝固薬の選択肢が増えていることを 知らない。
▪中止者の9割以上(95.7%)が“服用や通院の負担、家族の負担が少なくなる抗凝固薬” の選択肢を知れば、医師へ相談する意向。 


### 論文ではありませんので、あくまで参考資料としてみておきたいですが、それでも調査方法について一応抑えておきたい点あるいは不明な点を書いておきます。

・「1年間の抗凝固薬服用中者数」がレセプトデータから推計されていますが、母集団の抽出方法や患者背景が不明。

・レセプトベースで服薬が中止となったレセを組み入れたようですが、服薬中止した患者さんは、もう医療機関に来なくなる方がお多いように思います。そういう方のデータはレセベースでは拾い上げられないのでは?

・インターネット調査で服用中止した人93人、服用継続した人100人のデータを解析しているが、その抽出方法が不明。コントロール群は背景をマッチさせているかも不明。

・服用中止理由に「副作用・出血の危険性」「規則的に服用することが難しい」などがあるが、この理由を医師も納得して中止に至ったのかどうか知りたい。超高齢者などではそういった理由で医師の方から中止を申し出ることもありうるかもしれないが、例えば70歳前後でお元気な方から、出血が怖いから中止したいと申し出られても、医師の承諾は簡単にえられないと思われる。中止者の年齢層、CHADS2スコア、中止に至る経緯をもっと知りたい。

など色々あります。また「抗凝固薬に望むこと」のトップが「1日1回の服用で済む」というのもちょっと意外です。「出血が少ない」あるいは特に東北、関東では「納豆が食べたい」のほうが上位のような印象です。
さらに服薬中止者が年間4.3%とのことですが、それ以前に服薬を拒否して投薬できていない患者さんがどのくらいいるかがより知りたいところです。当院では、後述する心房細動外来を施行する前は拒否率11.2%でした(施行してからは3%未満)。

ただ、「中止者の77.4%が抗凝固薬を服用しないと脳梗塞の発症リスクが高まることを知らない」「脳梗塞発症時の家族の介護負担を意識している人は中止者の3人に1人」「中止者は中止時の脳梗塞は起こるかもしれないが、そんなに高い確率ではないと思っていた」等のデータは興味深いです。

当院では心房細動外来で、1人20分〜40分と長い時間かけて患者さんに服薬の重要性とリスクお話ししますが、それでも抗凝固薬の服薬目的を知らない方が時におられます。
当院でのコミュニケーションキーポイントは4つ
1)服薬のゴールを示す
2)抗凝固薬のリスクベネフィットバランスを示す
3)出血リスクを減らす手段を示す
4)上記3つの基礎に患者さんの抗凝固薬への解釈モデル(解釈、期待、感情、影響)を聞いておく

です。

そしてそれをいつやるかが大事です。処方前の早い段階でよく情報共有出来ればその後の服薬中止はかなり予防できるように思います。

「抗凝固薬のリスクコミュニケーションいつやるか?」「最初でしょ」
by dobashinaika | 2013-06-21 15:53 | 抗凝固療法:リアルワールド | Comments(1)
Commented by 大塚俊哉 at 2013-06-21 17:08 x
7月の不整脈学会でデータを出そうと思ってますが、(左心耳を切除して)抗凝固を中止すると、ED-5Qで評価したQOLが有意に良くなります。理由としては、心理的(脳梗塞への不安と抗凝固治療への恐怖からの解放)なものもあるでしょうが、貧血の改善もQOLの向上(ADLの向上)につながっているのではないかと感じています。抗凝固治療を受けている患者はsymptomaticな出血がなくても貧血傾向があり、左心耳を切って抗凝固をやめると、Hbが10-30%増加します。今日、外来に来た81歳の患者さんも術前10.2で、術後なんと13.2となり、納豆を10年ぶりにバクバク食べただけでなく、なんだか馬力がついたとおっしゃっていましたが、心房細動自体は何もいじってないので、貧血の改善が理由のひとつだろうと思ってます。左心耳切除はADLも改善するという新しいキャッチフレーズですね。


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