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ジゴキシンが心房細動患者の予後を悪化させるというエビデンスは乏しい;AFFIRM試験サブ解析

European Heart Journal 4月16日付けオンライン版より

Lack of evidence of increased mortality among patients with atrial fibrillation taking digoxin: findings from post hoc propensity-matched analysis of the AFFIRM trial
doi: 10.1093/eurheartj/eht120


【疑問】AFFIRM試験においてジゴキシンは心房細動患者の死亡率を増加させるか?

P:AFFIRM試験参加者

E:登録時のジゴキシン服用者のうち、対照群と59のベースライン属性によるpropensityスコアをマッチできた878人

C:同様にスコアマッチした非ジゴキシン服用者878人

O:死亡率

【結果】
1)両群あわせて年齢平均70歳。女性40%、3.4年フォロー

2)死亡率:ジゴキシン群14%vs. 非ジゴキシン群13%:ハザード比1.06 (0.83−1.37), P=0.640

3)入院率;両群で有意差なし:ハザード比0.96

4)非致死性不整脈:有意差なし:ハザード比0.90

【結論】ベースラインの初期治療時ジゴキシン服用者において、死亡率あるいは入院率が増加するエビデンスは見いだせなかった。

### 昨年11月の同じEuropean Heart Journalに発表されたAFFIRM試験サブ解析とは、真逆の内容です。
http://dobashin.exblog.jp/16894537/


アブストラクトだけ読んでしまうと論文というものが信じられなくなります。この違いを解く鍵は、統計解析の方法によります。

くわしくはEditorialをご覧いただきたいのですが、大まかに言うと、以前紹介したWhitbeckらの論文では、試験当初ジゴキシンを処方された患者さんが途中でジゴキシンを中断してしまった場合、非ジゴキシン群として扱うように決められていました。たとえば最初の9ヶ月ジゴキシンを服用していて、その後服用を中止し、死ぬまでの残り9ヶ月ジゴキシンを飲まなかった場合は、はじめの9ヶ月はジゴキシン群として生存として扱い、次の9ヶ月は非ジゴキシン群として生存として扱い、18ヶ月の時点では死亡として扱うというものです。
一方、今回の論文ではジゴキシン服用者の予後はあくまでベースライン登録時で決め、はじめの6ヶ月ジゴキシン服用し、その後中断した患者や、割り付け時にジゴキシンの情報がなかったものは除外されています。
http://eurheartj.oxfordjournals.org/content/early/2013/04/10/eurheartj.eht087.extract
ジゴキシンが心房細動患者の予後を悪化させるというエビデンスは乏しい;AFFIRM試験サブ解析_a0119856_2357754.png



このように両論文では、ジゴキシン服用者の定義が異なることになります。一見以前紹介したWhitbeckらの方が、より詳細なモデルを使用しているように見えますが、欠点もあります。この分析法だと当初からのジゴキシン非服用者が、途中から心不全を起こし、その治療としてジゴキシンを開始した場合、もしその患者が亡くなった場合はジゴキシンが死亡に寄与したとみなされてしまいます。

どちらも一長一短ですね。Editorialではそもそもpropensityスコアマッチによる、非ランダム化の後付け解析であり、所詮無作為化試験を越えることはできないとしています。

 この2論文はEBMerが後付け解析はあくまで後付け解析、鵜呑みにするな、ということを説くのに、非常に適したサンプルとなるかもしれません。

で、ジゴキシン、どうしましょう?(私は心機能正常例ではほとんど使っていませんが)
by dobashinaika | 2013-04-25 23:54 | 心房細動:ダウンストリーム治療 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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