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日本人心房細動患者の最近の死亡率と合併症率:Circulation Journal誌のレビュー

Circulation Journal 4月号から

Recent Mortality and Morbidity Rates of Japanese Atrial Fibrillation Patients
– Racial Differences and Risk Stratification –
Circulation Journal.Vol. 77 (2013) No. 4 864-868

山下武志先生の「日本の心房細動患者の最近の死亡率と合併症率」に関するレビューです。

大変ためになる内容ですので、備忘録として書き留めます。
あくまで備忘録程度の粗いまとめですので、特に研修医の先生は、きちんと全文を読んでください。

・ 心房細動は単なる不整脈の一つではなく、”AF syndrome”になりつつある
・ 疾病管理には自然経過と死亡率、合併症率を理解する必要あり
・ このとき2つの問題点が浮上。1つは人種差。1つは合併疾患の多様性

【日本人心房細動患者の死亡率】
・ 日本の3つの研究(NIPPONDATA80, J-TRACE, Shinken Databaseにおける心房細動患者の死亡率は年間約1~1.8%
・ これらの死亡率は諸外国データより低い。Euro Heart Surveyでは年間5.3%。Framingham study, AFFIRMも同様数値
・ 日本の3研究における死因は非心血管由来が多く、また死亡率は年齢に大きく依存している
・ 日本人心房細動患者の死亡率については情報としてまだ不十分

【日本人心房細動患者の心不全】
・ Framingham studyでは心房細動患者の3%/年に心不全発症。ACTIVE-Iでも同様
・ 日本の2つの研究では1〜2%で欧米より低率
・ リスク層別化が、心不全発症率に大きく関与する

【日本人心房細動患者の脳卒中】
・ 欧米の,心房細動患者における脳卒中発症の相対危険度は4〜8倍
・ 脳卒中リスク評価のCHADS2スコア、CHA2DS-VAScスコアは欧米のデータに基づく
・ 日本の最初の疫学研究は北海道の研究(n=2457):
  ➢脳卒中3%/年、ワルファリン群で著明低値
  ➢年齢、脳卒中の既往、器質的心疾患をリスク因子とした
・ その後のいつくかの研究では、nは少ないが欧米より脳卒中は低率の印象
・ J-TRACE(n=2056)では70%ワルファリン内服下の集団で1.5%/年
  ➢CHADS2スコア増加とイベント率増加がリネアに一致
  ➢北海道の研究や欧米の実臨床研究に一致
・ 脳卒中率が日本と欧米で同等である点は心不全と違う
・ これまでの日本の研究はリスク層別化の点でイマイチなのでJ-RHYTHM Registryが有用となろう

【日本人心房細動患者における発作性から持続性への進行】
・ JALT-2コホート研究(n=244)では8.4%/年
・ Shinken databaseでは5.5%/年(器質的心疾患例は10%以上)
・ J-RHYTHM II(高血圧患者)では約10%
・ Euro Heart Surveyでは15%、RedordAF studyでは15%、他も6.2%、8.6%など
・ いずれもそれほど変りなし、人種差なし
・ 背景疾患によって持続性への進展率は影響されEuro Heart Surveyでは、HATCHスコア(心不全、年齢、脳卒中/TIAの既往、COPD、高血圧)が提唱されている
・ 発作性→持続性への進行は、死亡率、合併症率の両方に影響を与える。しかし未だに不明な部分がある

【将来の見通し】
・ 有病率同様、死亡率、心不全リスクには人種差あり
・ 脳卒中率と持続性への進行率には人種差なし
・ 日本におけるデータベースの編集、構築が大切
・ カテーテルアブレーション、新規抗凝固薬は死亡率、合併症率との関係についての十分なデータなし
・ 心房細動は年齢、生活スタイル、多様な合併症の観点から見て広範囲なスペクトラムを持つ症候群である。
・ 「死亡率」「合併症率」と言った単純な言葉では理解できない
・ 議論の始めに「あなたが言うところの心房細動の臨床的バックグラウンドは何ですか?」とたずねる必要がある。人種もバックグラウンドの一つ

### 日本人心房細動患者の死亡率、心不全や脳卒中の合併率、持続性への移行率などが、欧米と比較しながら俯瞰され、心房細動は多様なバックグラウンドを持つ「症候群」として捉えよ、という啓発をも含んだ、大変インパクトのあるレビューです。

心房細動、あるいはそのエビデンスを語るとき、心房細動というくくりの中のどういうヒトのことを言ってるのかで、だいぶ話しが異なってくるというのは、抗凝固薬の大規模試験の解釈で。我々がつい最近経験したばかりですね。RE-LY,ROCKET-AF,ARISTOTLEでそれぞれに患者背景が違う訳です。それぞれがワーファリンに対してどれだけ非劣勢だったか、優位だったかをいくら言ってみても3剤の比較にはならない訳ですね。「60歳男性高血圧だけの白人」もいれば、「85歳女性、心不全、脳梗塞の既往、糖尿病の日本人」もいる訳です。

抗凝固薬に限らず、抗不整脈薬、レートコントロ—ル薬、カテーテルアブレーション等々、心房細動のすべての治療選択の際に、この「症候群」という考え方であたる必要があると思われます。

なお、”morbidity rate”はincidence rate(罹患率)とprevalance(有病率)を総称した形で「罹病率」ととらえることもありますが、ここでは”morbidity”を心不全、脳卒中などの合併症として捉えていますので、「合併症率」とさせていただきました。
by dobashinaika | 2013-04-15 23:20 | 心房細動:リアルワールドデータ | Comments(2)
Commented by 大塚俊哉 at 2013-04-16 09:49 x
"心房細動は年齢、生活スタイル、多様な合併症の観点から見て広範囲なスペクトラムを持つ症候群である"

まさに、いつも患者さんにお話している内容です。私の方法の利点は、(もちろん完全ではないですか)患者さんの広範囲のニーズに答えられる点ではないかと思っています。

7月に開催される日本不整脈学会の心房細動のパネルデイスカッションに私の演題が採択されました。カテアブとの激論ができればよいかと思います。先生は参加されますでしょうか?
Commented by dobashinaika at 2013-04-16 23:18
>私の方法の利点は、(もちろん完全ではないですか)患者さんの広範囲のニーズに答えられる点ではないかと思っています。

そう思います。不整脈学会参加予定です。激論期待しております!


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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