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抗凝固薬の7つの出血リスクスコアは予測能の点で3年目臨床医の主観的予測に勝てない

The American Journal of Medicine 2012年11月号より

Scores to Predict Major Bleeding Risk During Oral Anticoagulation Therapy: A Prospective Validation Study
The American Journal of Medicine
Volume 125, Issue 11 , Pages 1095-1102, November 2012


【疑問】抗凝固療法の出血リスクスコアはほんとうに役に立つのか?

【方法】
・抗凝固療法における7つの出血リスクスコアの予後予測に関する妥当性を検証し比較する
・対象:抗凝固薬内服の515人
・アウトカム:登録後1年間の最初の大出血イベントに対する予測能、C統計量

【結果】
1)大出血頻度:6.8%(35/515)

2)7つのスコア全体としての出血率
  ①低リスク例:3.0〜5.7%
  ②中リスク例:6.7〜9.0%
  ③高リスク例:7.4〜15.4%
3)全体としての予測能は低く、C統計量で0.54〜0.61。各スコア間で有意差なし

4)心房細動の抗凝固両方においてのみ、ややまし:C統計量0.61(0.52-0.70)

5)医師(臨床経験平均3年)の出血に関する主観的確率より優れているわけではなかった

【結論】抗凝固薬服用患者さんにおける7つの大出血リスクスコアの予測パフォーマンスはあまりいいのではなく、医師の主観的評価より優れているわけではなかった。

### 昨年出た論文ですが、日経メディカルオンラインに紹介されていて、当ブログで漏れており、取り上げておくべき論文と思い、遅まきながら掲載です。HAS-BLED、ATRIA, HEMORR2HAGESなど出血に関するリスクスコア7つを集めてきてそのC統計量をリアルワールドで検討したという論文です。

以前から出血リスクスコアの予測能はC統計量で0.5〜0.7程度でそれほど良くないことが知られています。これらの中ではHAS-BLEDスコアが比較的良いとの報告はされていました。
http://dobashin.exblog.jp/15921779/

しかしそれとて今回の検討では0.57程度です。C統計量はROC曲線のAUC(Area under curve)に相当し、これが1に近いほどスコアの予測的中度が高くなります。およそ0.7あるいは0.8以上で精度が高いと言われているようです。

たしかにHAS-BLEDスコアにしたところで高血圧、肝腎機能、65歳以上、NSAIDSやアルコールなどなど、出血と関係有りそうな因子をつめあわせただけという印象も無きにしもあらず。

それよりこの論文で大変興味深いのは、なんと3年目の臨床医の主観的予測を上回れなかったという大変ショッキングな事実です。コンピューターが将棋で人間に勝ったのと同じくらいの衝撃かもしれません(ウソw)。

3年目の先生たちは抗凝固薬服用中患者の年間出血率を5%(2〜10%)と見積もったとのことですが、全くの勘(というわけではないでしょうが)で何%!と答えた場合でもC統計量は0.55だったのです。これは結構、愉快な結果だと思いませんでしょうか?

EBMは3年目臨床医の勘?に勝てないのか?まあリスクスコア自身、因子の決め方は恣意的とも言っていいわけでその意味では作成者の勘によっているともいえます。厳密な意味でのEBMではありません。CHADS2スコアにしても、あれはもともと入院中の患者さんのデータを元にしたものですが、あとからリアルワールドのデータをいろいろ付きあわせてみたら、予測能が良かったということにすぎないわけで、
「ことしの753」http://dobashin.exblog.jp/i47/
の選び方のセンスが良かっただけかもしれません。

私自身はHAS-BLEDスコアは高血圧の管理、併用薬やアルコール服用の制限など、出血リスク低減の努力目標として捉えています。

もともとHAS-BLEDスコアはCHADS2スコアとダブっているポイントが多いわけですが、塞栓リスクとダブらない貧血(A)、腎機能障害(K)、出血歴(B)の3因子をスコアリング化したAKBスコアが日本循環器学会で藤田保健衛生大学の渡邉英一先生のグループから提唱されており、C統計量も他のスコアよりも良好だったとのことでした。今後はAKBスコアを推しメンにしようかとも思います。

今までの出血スコアについてのブログはこちら
http://dobashin.exblog.jp/16694443/
http://dobashin.exblog.jp/12877808/
http://dobashin.exblog.jp/11658709/
by dobashinaika | 2013-04-08 18:40 | 抗凝固療法:適応、スコア評価 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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