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心房細動に対する知識レベルを問う11の質問

International Journal of Cardiology 1月のオンライン版より

The atrial fibrillation knowledge scale: Development, validation and results
doi:10.1016/j.ijcard.2012.12.047


【疑問】心房細動に関する知識を問うテストの妥当性,信頼性はどうか?

P:オランダのマーストリヒト大学の医療センターに登録された心房細動患者(18歳以上、既存の処方薬なし)712人
・外来フォロー1年後に以下のような11項目からなる質問票を送付し、2週間後の外来までに答えてもらう

E:介入群:心房細動一般および治療、生活習慣に関する教育を行う。30分間。3、6、12ヶ月後

C:対照群:教育なし。初回20分、以後10分

O:このスケールの妥当性、感度、信頼性を統計学的に検証

〈心房細動知識スケール〉
1.心房細動の引き金となるものは何ですか?
a) 植物、動物、ハウスダストに対するアレルギー
b) アルコール、カフェイン、香辛料
c) 騒音、大きな音

2.心房細動の薬を正しく飲むことはなぜ大切なのですか?
a) 医師が私にそう望むから
b) 不整脈が重症になるのを防ぐため
c) 心臓発作や突然死の可能性を避けるため

3.心房細動が患者さんの症状なしに見つかった場合、その患者さんは直ちに病院を受診すべきである。
a) 正しい
b) 正しくない
c) 不明

4.心房細動とは何ですか?
a) 心臓が体全体に十分な血液を供給できない心臓病
b) 心臓の中で血栓を生じる血液病
c) 人望の電気的以上により心臓が早く、不規則に収縮する病気

5.なぜ心房細動のある種の患者さんは抗凝固薬を処方されるのですか?
a) 脳卒中の原因となる血栓リスクを予防するため
b) 全身への血流をより早めるため
c) 全身の水分貯留(たまること)を予防するため

6.なぜ抗凝固薬を飲んでいる人はアルコールを飲むことに注意が必要なのですか?
a) アルコールは水分を体にとで貯めることで、血液が薄まってしまうから
b) アルコールが心臓への血液の流れを遅くし血管の中を詰まらせるから
c) アルコールが他の薬二影響し血圧を固まらせるように働くため

7.心房細動とはまれな現象ですか?
a) はい
b) いいえ
c) 不明

8.心房細動を自覚していない場合は、特に危険性がありますか?
a) はい
b) いいえ
c) 不明

9.運動について心房細動患者さんにとって正しいのはどれですか?
a) 正常の心臓の活動を保ちためには安静が大事である
b) 慢性心房細動の患者さんはフルタイム労働はできない
c) その人のできる範囲で通常の運動は大切である

10.どの状態が正しいですか?
a) 心房細動は心臓発作を引き起こすので生命の危機を脅かす
b) 心房細動は全く無害である
c) 心房細動は正しい医療を受けていれば無害である

11.抗凝固センターの役割は何ですか?
a) 血液凝固をモニターし服用する薬の数を決める
b) 不整脈があるかどうかを確認する 
c) 患者さんは抗凝固薬服用を継続すべきか否かを判断する

【結果】
1)回答率:529/712、74.3%

2)表面的および内容妥当性:24人の循環器専門看護師および2人の循環器専門医による質問の層別化についてのコメントなし

3)構成概念妥当性:因子分析において構成概念妥当性を確認

4)信頼性:529人の対象における内的な一貫性を示すCronbach's α=0.58

5)感度:新規発症時と1年後のスコアには改善あり(7.08点→7.98点)

【結論】
このツールは妥当性があり、心房細動患者の知識レベルの評価が可能だった。患者教育において重要なツールとなりうる

### 私の最も興味ある分野である患者さんの知識ニーズの把握に関する論文です。1月にさらっと読んで、後でじっくり読もうと思って延び延びになっていました。

改めて読んでみると、やや食い足りないというか不満があります。第一に、論文がこの11項目テストの妥当性信頼性の検証目的なので仕方ありませんが、このテスト結果の差が、塞栓症や出血などの臨床的アウトカムとどう関係するかという最も知りたいところの検討ではない点です。

もう1点、質問項目が果たして適切かどうか?たとえば質問2ですが、多分抗不整脈薬について問うていると思いますが(それもはっきり明記されていない)、「不整脈の重症化を防ぐため」というのは適切な表現かどうか。また質問10で正しい治療を受けていればはたして”harmless”といえるか(そもそも正しい=“right”治療とは何か)。

まあ突っ込めばキリがありませんが、当院で治療の始めに心房細動の知識ニーズを質問すると、多くは心房細動が今後どうなるのか、薬の副作用は何かという質問が多いのです。また患者さんはやはり抗凝固薬に対する不安を口にすることが多いため、皮下出血などの小出血時にどうするか、薬の飲み合わせや飲み方の質問などもあった方が良いような気もします。

しかしながら、このような心房細動に関する知識レベルの評価を検討した研究としては最初であり、まずここから考えるという点でも、高く評価したいと思います。またlimitationのところで述べられているように、患者さんのQOL、不安やうつの評価スケールも同じように必要と思われます。

当院では抗凝固薬を処方するにあたっての患者さんの(心房細動に対する)解釈、(医療への)期待、感情、(日常生活や仕事への)影響の4項目(=解釈モデル)を聞くことにしています。
これは非常に有効であると思います。この論文の知識レベルとセッットで聞くとより有効と思います。
日経メディカルオンラインの連載をご参照ください。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/odakura/201206/525418.html
by dobashinaika | 2013-04-07 00:08 | 心房細動診療:根本原理 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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