人気ブログランキング | 話題のタグを見る

臨床上の意思決定とは、所詮不可能,にもかかわらず不可避な営み:ワーファリンの患者満足度研究より

Journal of Investigative Medicine 3月21日オンライン版より

Patient Satisfaction With Warfarin- and Non-Warfarin-Containing Thromboprophylaxis Regimens for Atrial Fibrillation.
doi: 10.231/JIM.0b013e31828df1bf


【疑問】心房細動脳塞栓予防においてワーファリン服用が患者満足度に同影響を及ぼすか?

【方法】
・ 横断研究
・ 2010年7月から2011年8月までに心房細動があり脳塞栓予防療法を受けた患者対象
・ ワーファリン群65人、非ワーファリン群15人
・ 抗凝固治療スケール(Anti-Clot Treatment Scale (ACTS)による満足度を調査

【結果】
1)17の質問中6つの患者が受ける身体活動制限やダイエット上の制限、不便な感じ、欲求不満、負担に関する質問スコア:ワーファリン群の方がよくない(P<0.05)

2)ACTSの平均負担スコア:非ワーファリン群の方が負担が少ない(P=0.003)

3)ACTSのベネフィットスコア:有意差なし

【結論】ワーファリン服用患者は、血栓予防に関する感情という点で、非ワーファリン群に比べよい感情は持っていない。ワーリンについての制限や負担感はより大きい。

### 非ワーファリン群には時期的に見て、新規抗凝固薬は少ないように思われます。おそらくアスピリンが多いのでしょうか?アウトカムを患者の身体制限、や感情的負担に設定した場合は、当然の結果とも言えます。より出血リスクが大きい。食事や採血の制限がある。他のどの経口薬よりも制約感があるのがワーファリンです。

その制約感、負担感に対し、NOACは当然勝るはずですが、それは医者側の論理だけにすぎないかもしれません。ワーファリンの「負担感」は出血リスクそのものに対する根源的な不安に由来するとことが大きいと思われるからです。

NOACはエビデンス的に確かに頭蓋内出血がワーファリンより明らかに少ない訳ですが、ゼロではありません。

ワーファリンの制約感、負担感に勝るだけのエビデンス的優位があるか。医者の論理では明らかに利がありますが、患者側から見ると頭蓋内出血がワーファリンより70%減るからと言ってゼロにはならず、やっぱりけがや転倒に対して十分な注意が必要なことには代わりはありません。

そもそもエビデンスという科学的あるいは数値的カテゴリーと「負担感」という感情的カテゴリーを比較すること自体に不可能性が存在します。

よくエビデンスと患者の好み(と医者の専門性)を総合的に考えて意思決定せよと言われますし、私も好んで使うフレーズですが、考えてみればエビデンス、患者さんの好み、専門性って3つとも全くカテゴリー概念、あるいは次元の違うものですよね。それを比較しながら総合的に判断しろと。しかも患者と医者とで話し合ってやれと.それって、本来実現不可能な行為じゃないでしょうか?

ことほど左様に意思決定という行為は、統合することが元来不可能なカテゴリーレベル(次元)の違う概念をいろいろと考えこねくり回しながら、最後の最後には何かしらの論理の飛躍を不可避なものとして成立するというきわめて矛盾に満ちた行為であろうと思います。

不可能だからと言って、でも避けられないー。それが人生だと言えばそれまでですが、不可能ながらも最適解を見つける鋭意努力こそが人生とも言えるわけで、それこそがEBMの真髄だとも言えるのだと思います。

所詮エビデンスだからと言って、リアルワールドとは違うからと言ってハナから取り合わない,という態度は不誠実です。少しでもリアルワールドに近付けるよう、経験を積む、登録データを集積する、現時点で最適な患者さんを考えて使っていく。。。。そうした行為が医療者、特に専門医に求められます。

と、あらら。。。。何のことを言っているのかわからなくなってしまいました。ってNOACのことを言いたかったのですが。ちょっとワーファリンとNOACのことについて考えるところがあったのですが、つい暴走して支離滅裂になってしまいました(笑)。明日もう少しリファインして書きます。

このスコアの中に「出血への根源的な負担感」がどの程度盛り込まれているのか、興味深い点です。
by dobashinaika | 2013-04-01 23:18 | 抗凝固療法:ワーファリン | Comments(2)
Commented by 大塚俊哉 at 2013-04-02 13:13 x
たかが予防治療(されど予防治療!)ということも関係してますよね。
私も患者さんのバックグラウンド(職業、趣味、家庭環境、価値観etc.)をできるだけ根掘り葉掘り聞きながらDISCUSSIONするようにしてます・・・最近EuroQOLのEQ-5Dも含む“AFsurgery Entry Sheet”を作って診察前に記入してもらってますので今度お見せします。結局患者さんは最後に「悩むなー」という方が多いですね。でも、悩ませることができれば、1st Interviewとしては大成功かなと思ってます。2週間ぐらいThinking Timeをさしあげて最終決断してもらってます。
Commented by dobashinaika at 2013-04-02 22:34
「悩ませることができれば、,,大成功」とはまさに至言のように思います。従来の、悩む暇を与えないintervenrionist像へのアンチテーゼですね。ぜひSheetを拝見したいです。


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


by dobashinaika

S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

カテゴリ

全体
インフォメーション
医者が患者になった時
患者さん向けパンフレット
心房細動診療:根本原理
心房細動:重要論文リンク集
心房細動:疫学・リスク因子
心房細動:診断
抗凝固療法:全般
抗凝固療法:リアルワールドデータ
抗凝固療法:凝固系基礎知識
抗凝固療法:ガイドライン
抗凝固療法:各スコア一覧
抗凝固療法:抜歯、内視鏡、手術
抗凝固療法:適応、スコア評価
抗凝固療法:比較、使い分け
抗凝固療法:中和方法
抗凝固療法:抗血小板薬併用
脳卒中後
抗凝固療法:患者さん用パンフ
抗凝固療法:ワーファリン
抗凝固療法:ダビガトラン
抗凝固療法:リバーロキサバン
抗凝固療法:アピキサバン
抗凝固療法:エドキサバン
心房細動:アブレーション
心房細動:左心耳デバイス
心房細動:ダウンストリーム治療
心房細動:アップストリーム治療
心室性不整脈
Brugada症候群
心臓突然死
不整脈全般
リスク/意思決定
医療の問題
EBM
開業医生活
心理社会学的アプローチ
土橋内科医院
土橋通り界隈
開業医の勉強
感染症
音楽、美術など
虚血性心疾患
内分泌・甲状腺
循環器疾患その他
土橋EBM教室
寺子屋勉強会
ペースメーカー友の会
新型インフルエンザ
3.11
Covid-19
未分類

タグ

(44)
(40)
(35)
(31)
(28)
(28)
(25)
(24)
(24)
(23)
(21)
(21)
(20)
(19)
(18)
(18)
(14)
(14)
(13)
(13)

ブログパーツ

ライフログ

著作
プライマリ・ケア医のための心房細動入門 全面改訂版

もう怖くない 心房細動の抗凝固療法 [PR]


プライマリ・ケア医のための心房細動入門 [PR]

編集

治療 2015年 04 月号 [雑誌] [PR]

最近読んだ本

ケアの本質―生きることの意味 [PR]


ケアリング―倫理と道徳の教育 女性の観点から [PR]


中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく) [PR]


健康格差社会への処方箋 [PR]


神話・狂気・哄笑――ドイツ観念論における主体性 (Ν´υξ叢書) [PR]

最新の記事

日本独自の新しい心房細動脳梗..
at 2024-03-17 22:31
心房細動診療に残された大きな..
at 2024-01-03 23:00
東日本大震災と熊本地震におけ..
at 2024-01-02 16:11
脳梗塞発症後の心房細動患者に..
at 2024-01-01 18:41
ACC/AHAなどから202..
at 2023-12-10 23:12
ライフスタイルを重視した新し..
at 2023-11-06 21:31
入院中に心房細動が初めて記録..
at 2023-11-05 11:14
フレイル高齢心房細動患者では..
at 2023-08-30 22:39
左心耳閉鎖術に関するコンセン..
at 2023-06-10 07:29
患者ー医療者間の「心房細動体..
at 2023-04-26 07:27

検索

記事ランキング

最新のコメント

血栓の生成過程が理解でき..
by 河田 at 10:08
コメントありがとうござい..
by dobashinaika at 06:41
突然のコメント失礼致しま..
by シマダ at 21:13
小田倉先生、はじめまして..
by 出口 智基 at 17:11
ワーファリンについてのブ..
by さすけ at 23:46
いつもブログ拝見しており..
by さすらい at 16:25
いつもブログ拝見しており..
by さすらい at 16:25
取り上げていただきありが..
by 大塚俊哉 at 09:53
> 11さん ありがと..
by dobashinaika at 03:12
「とつぜんし」が・・・・..
by 11 at 07:29

以前の記事

2024年 03月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 08月
2023年 06月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 03月
2007年 03月
2006年 03月
2005年 08月
2005年 02月
2005年 01月

ブログジャンル

健康・医療
病気・闘病

画像一覧

ファン