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「ワルファリン単剤なら休薬なく生検してもよい」の意味:日経メディカルオンライン連載より

日経メディカルオンラインで連載させていただいております、”プライマリケア医のための心房細動入門」。本日、第9回を更新いたしました。

今回のテーマは”抗血栓薬休薬の最新ガイドラインを読み解く 「ワルファリン単剤なら休薬なく生検してもよい」の意味”です。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/odakura/201301/528619.html

昨年7月に発表された「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」の読み方について愚考しております。

ワルファリンを処方しながらも内視鏡をお願いする側(プライマリケア医あるいは循環器内科医)とお願いされ,実際にカメラを施行する側(消化器内科医)との間には、「リスク認知」の大きなずれがあります。

その源泉は、われわれは目の前に生じるリスク、あるいは自分が手を施したことにより起こるリスクを過大評価するという人間特有の癖です。

目の前に生じるリスクあるいは自分が手を施したことによるリスクとは、PC医、循内医にとっては、薬をやめることによる大塞栓であり、消化器内科医にとってはワルファリンを飲んだままで生検した後の出血です。
こうしたことは、言い換えれば当事者性の違いといってもよいかもしれません。ワルファリン錠数をちまちま変更しながら、血管が詰まることからの回避をひたすら腐心する循環器内科医。かれらにとっては内視鏡ごとき(消化器の先生済みません!)でだい塞栓を起こされてはたまったもんではありません。
一方内視鏡を実際やる身にとって、ワルファリンにアスピリン(時にクロピドグレルまで)まで足されて、がっぽり大きな潰瘍から露出血管が見え、血液が噴出している。そんな状況で止血に悪戦苦闘する労苦が循環器内科医にわかるのかと言いたくなる。
このようなお互いの持つ当事者性は、おそらく永久に心底わかり合えないのではないかとも思えてきます。

こうしたリスク認知のずれ,ひいては当事者性の絶望的とも思える解離が、これまで両者の間のツンデレ関係(by香坂俊先生)を生ぜしめていました。(本音はツンだが、表面上デレ)

このずれをすりあわせるには、やめるリスク、やめないリスクをクリニカルエビデンズのレベルで十分吟味することが不可欠です。
ですが、現時点でこの件に関するエビデンスは必ずしも十分なものではありません。またたとえ十分であったとしても、エビデンスだけ理性でわかっていても心底わかり合えません。

そうした場合重要となるのは、お互いのexpertize(専門性)を十分知ることではないかと思われます。特にPC医、循内医は、消化器内科医の生検をする上での注意点、スキルやマンパワーがどのくらい影響するのか、紹介する上でどういった点を注意すれば良いのか、等の点に留意する必要があります。
一方消化器内科医は、抗血栓薬がどれほど重要で、塞栓症がどの程度重篤であるのか、抗凝固薬の管理や選択の大変さなどもわかっていることが求められます。
そうしたことで、お互いのリスク認知が何に重きが置かれているのか、つまりお互いのリスク認知の癖をおもんぱかることができるかも知れません。

そして、なにより、そうしたリスク認知の擦り合わせが、不必要な塞栓症、出血、複数回の検査を減らすこと=患者の利益を基準に考えられねばなりません。

クリニカルエビデンス、専門性さらにはお互いのリスク認知の中身、そして患者の利益(これいわゆるEBMの3要素)これらを考え合わせてコラボして行くための格好のツールが今回のガイドラインではないかと思います。

と、きれいにまとめてしまいそうですが、根本的には当事者性の理解は、不可能かもしれません。しかし、患者の利益を少しでも高めると言う共通基盤の元では、不可避なことでもあるのです。

関連ブログはこちら
http://dobashin.exblog.jp/15952230/
http://dobashin.exblog.jp/15915806
http://dobashin.exblog.jp/15476080/
by dobashinaika | 2013-01-29 22:24 | 抗凝固療法:抜歯、内視鏡、手術 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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