ダビガトランはワルファリンに比べてトロンビン生成を抑える力は低い:試験管レベルでの測定より
J Thromb Thrombolysis
12月16日付オンライン版より
Dabigatran attenuates thrombin generation to a lesser extent than warfarin: could this explain their differential effects on intracranial hemorrhage and myocardial infarction?
DOI 10.1007/s11239-012-0857-9
ダビガトランとワーファリンのトロンビン生成抑制能力比較
【目的】ダビガトランはワーファリンに比べて、頭蓋内出血が少なく、心筋梗塞が多い。その理由をトロンビン生成への影響を比較することで探索する
【対象】
・健常ボランティアの血漿サンプル
・治療域を目標に管理されたワーファリン投与患者(INR平均2.6)
・RE-LY試験の血液バンクから年齢、性別をマッチさせた110x2, 150x2, ワルファリン内服例それぞれ18例ずつ抽出
【アウトカム】トロンビン生成量(in vitro)
【結果】
1)lag time(トロンビン生成開始までの時間):ダビガトラン高濃度群(250ng/mL)=ワルファリン群
2)トロンビンのピーク生成及び内因性トロンビン生成能(ETP)の抑制:ワルファリン群>ダビガトラン群
3)2)は組織因子(TF)の有無にかかわらず認められたが、TF高濃度でより顕著
【結論】脳や動脈硬化性プラークでの病的血栓において、通常の止血メカニズムをより抑制することが、ワルファリンはダビガトランより頭蓋内出血が多く、心筋梗塞が少ないことの説明になりうる
### だれでも知りたかったダビガトランのワルファリンに比べての特性、すなわち頭蓋内出血が少なく、心筋梗塞が多い理由を実験レベルで教えてくれる非常に興味深い研究です。12月に目にして、アップしようと思いつつ、手軽には扱えない感じがして、今日まで延ばし延ばしにしていました。
ダビガトランがワルファリンに比べてピークトロンビン生成の抑制が弱い理由として、筆者らはダビガトランがトロンビンを用量依存性に抑えるのに対し、ワルファリンは、凝固系の開始や増幅に関与するさまざまな因子をプロトロンビンやその上流でおさえるためとしています。すなわち、ダビガトランの効果はその時の血中濃度ですでに規定されてしまうため、大量のトロンビン生成時には対応し兼ねる面があるということでしょうか。
脳においては微小血管レベルの小出血は、抗凝固薬服用者では常に起っている可能性があると言われています。このとき血管外では大量の組織因子がリークした血液と反応することになりますが、この時ワルファリンがVII因子を抑えてしまうため、トロンビン生成抑制が不十分となり、出血が起こる。従来言われていたこの仮説をトロンビン生成能を測定することで証明しています。
同様に冠動脈のプラーク破綻時にも、血液が高濃度の組織因子に暴露され、この時大量のトロンビン生成が期待されますが、ワルファリンはそれをダビガトランより抑制するため冠動脈が、ダビガトランより血管を詰まらせないという理屈です。
ただし、RE-LYでダビガトラン150x2がワルファリンより塞栓血栓症を抑えた理由はこれでは説明つきません。筆者らは、左房では組織因子が低濃度のため、止血機転というよりうっ血が、血栓形成のトリガーとなるため、RE-LYでの治療域程度の濃度ではトロンビン生成をよく抑えたのだろうとしています。ダビガトランの安定性もその理由としています。ただこの説明はちょっと、推論の域を出ていない感があります。
トロンビン生成アッセイについては、全く素人ですので、専門の先生の教えを請いたいと思いますが、たぶん技術的、コスト的にまだ実用化に至る技術ではないのかと思います。
Dabigatran attenuates thrombin generation to a lesser extent than warfarin: could this explain their differential effects on intracranial hemorrhage and myocardial infarction?
DOI 10.1007/s11239-012-0857-9
ダビガトランとワーファリンのトロンビン生成抑制能力比較
【目的】ダビガトランはワーファリンに比べて、頭蓋内出血が少なく、心筋梗塞が多い。その理由をトロンビン生成への影響を比較することで探索する
【対象】
・健常ボランティアの血漿サンプル
・治療域を目標に管理されたワーファリン投与患者(INR平均2.6)
・RE-LY試験の血液バンクから年齢、性別をマッチさせた110x2, 150x2, ワルファリン内服例それぞれ18例ずつ抽出
【アウトカム】トロンビン生成量(in vitro)
【結果】
1)lag time(トロンビン生成開始までの時間):ダビガトラン高濃度群(250ng/mL)=ワルファリン群
2)トロンビンのピーク生成及び内因性トロンビン生成能(ETP)の抑制:ワルファリン群>ダビガトラン群
3)2)は組織因子(TF)の有無にかかわらず認められたが、TF高濃度でより顕著
【結論】脳や動脈硬化性プラークでの病的血栓において、通常の止血メカニズムをより抑制することが、ワルファリンはダビガトランより頭蓋内出血が多く、心筋梗塞が少ないことの説明になりうる
### だれでも知りたかったダビガトランのワルファリンに比べての特性、すなわち頭蓋内出血が少なく、心筋梗塞が多い理由を実験レベルで教えてくれる非常に興味深い研究です。12月に目にして、アップしようと思いつつ、手軽には扱えない感じがして、今日まで延ばし延ばしにしていました。
ダビガトランがワルファリンに比べてピークトロンビン生成の抑制が弱い理由として、筆者らはダビガトランがトロンビンを用量依存性に抑えるのに対し、ワルファリンは、凝固系の開始や増幅に関与するさまざまな因子をプロトロンビンやその上流でおさえるためとしています。すなわち、ダビガトランの効果はその時の血中濃度ですでに規定されてしまうため、大量のトロンビン生成時には対応し兼ねる面があるということでしょうか。
脳においては微小血管レベルの小出血は、抗凝固薬服用者では常に起っている可能性があると言われています。このとき血管外では大量の組織因子がリークした血液と反応することになりますが、この時ワルファリンがVII因子を抑えてしまうため、トロンビン生成抑制が不十分となり、出血が起こる。従来言われていたこの仮説をトロンビン生成能を測定することで証明しています。
同様に冠動脈のプラーク破綻時にも、血液が高濃度の組織因子に暴露され、この時大量のトロンビン生成が期待されますが、ワルファリンはそれをダビガトランより抑制するため冠動脈が、ダビガトランより血管を詰まらせないという理屈です。
ただし、RE-LYでダビガトラン150x2がワルファリンより塞栓血栓症を抑えた理由はこれでは説明つきません。筆者らは、左房では組織因子が低濃度のため、止血機転というよりうっ血が、血栓形成のトリガーとなるため、RE-LYでの治療域程度の濃度ではトロンビン生成をよく抑えたのだろうとしています。ダビガトランの安定性もその理由としています。ただこの説明はちょっと、推論の域を出ていない感があります。
トロンビン生成アッセイについては、全く素人ですので、専門の先生の教えを請いたいと思いますが、たぶん技術的、コスト的にまだ実用化に至る技術ではないのかと思います。
by dobashinaika
| 2013-01-17 19:54
| 抗凝固療法:ダビガトラン
|
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土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。
by dobashinaika
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筆者は、2013年4月以降、ブログ内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません
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●日経メディカルオンライン連載「プライマリケア医のための心房細動入門リターンズ」
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