ダビガトラン使用の再調整:米FDA、ダビガトランの機械弁患者への使用を禁忌へ
アメリカ食品医薬局(FDA)からの12月19日付、ダビガトランに関する安全性情報です。
FDA Drug Safety Communication: Pradaxa (dabigatran etexilate mesylate) should not be used in patients with mechanical prosthetic heart valves
要約します。
安全性情報
・ダビガトランは機械弁患者において、脳卒中、塞栓血栓症予防のために使用すべきではない
・ヨーロッパのRE-ALIGN試験は、ダビガトラン使用者で、ワーファリン使用者よりも脳卒中、心イベント、弁塞栓症、大出血が多かったため中止となった
・ダビガトランは、心臓弁に起因する心房細動患者に認可されない
・FDAは機械弁患者へのダビガトラン使用に禁忌の追加を求める
・医療従事者は機械弁患者へのダビガトラン使用を、他の方法にすみやかに変更すべき
・生体弁については未だに評価されておらず、ダビガトランは推奨されない
・ダビガトランを服用中の弁置換術後の患者さんは、出来る限りすぐに医師に相談すべき
・患者さんは医師からのガイダンスなしに抗凝固薬を服用の中止はしないように:急にダビガトランや他の抗凝固薬をやめることは血栓や脳卒中のリスクを増やす
RE-ALIGN試験の要約
・対象:弁置換3ヶ月以上後
プラダキサ(n=160)ワーファリン (n=89)
死亡 1 (0.6%) 2 (2.2%)
脳卒中 8 (5.0%) 0 (0%)
全身塞栓症 0 0
TIA 2 (1.3%) 2 (2.2%)
弁塞栓 4 (2.5%) 0
心筋梗塞3 (1.9%) 0
複合イベント 16 (10.0%) 4 (4.5%)
大出血 6 (3.8%) 1 (1.1%)
心嚢出血 5(3.1%) 0
全出血イベント 36(22.5%) 12(13.5%)
### 大変衝撃的な情報です。RE-ALIGN試験デザインの論文が出たのが7月ですから、半年足らずで中止となってしまいました。
http://www.ahjonline.com/article/S0002-8703(12)00177-9/fulltext
ダビガトラン群では、脳卒中5.0%、弁塞栓症2.5%、心筋梗塞1.9%、大出血3.8%、心嚢への出血3.1%に対し、ワーファリン群はほとんどゼロ〜1.1%でした。
原因は何でしょうか?
上記論文を見ますと、ダビガトランの初期投与量はCCrが70未満で150mgx2,70−110で220x2、110以上で300x2となっており、CCr70以上では日本で用いる通常量の2倍またはそれ以上のドーズになっています。
出血が多かったのは、これが原因と考えて良いかもしれません。
維持量については血中濃度50ng/dl以上を維持するように調節となっていますが、ダビガトランの初期データ(以下)では50程度では、aPTT比は2倍を超えることはないように見受けられますので、このへん、実際のRE-ALIGN試験の細かなデータがほしいところです。
Stangier J,et al:The pharmacokinetics, pharmacodynamics and tolerability of dabigatran etexilate,a new oral direct thrombin inhibitor,in healthy male subjects. Br J Clin Pharmacol 2007;64:292-303.
弁血栓が多かったのはなぜなのか?機械弁上の血栓形成に対する抗凝固様式がビタミンK阻害薬と直接トロンビン阻害薬とで異なるのでしょうか?
今後専門家(特に血液学)のコメントが出てくると思われますので、待ちたいと思います。
しかし、やっぱりワーファリンは偉大ですね〜。なかなかにこの血栓予防というのは一筋縄ではいかないことを改めて痛感させられました。ダビガトランあるいは新規抗凝固薬の使用法、またここにきて、RE-ALIGN(=再調整)です。
日本での情報提供サイトはこちら(登録必要)
RE−ALIGN試験のブログはこちら
FDA Drug Safety Communication: Pradaxa (dabigatran etexilate mesylate) should not be used in patients with mechanical prosthetic heart valves
要約します。
安全性情報
・ダビガトランは機械弁患者において、脳卒中、塞栓血栓症予防のために使用すべきではない
・ヨーロッパのRE-ALIGN試験は、ダビガトラン使用者で、ワーファリン使用者よりも脳卒中、心イベント、弁塞栓症、大出血が多かったため中止となった
・ダビガトランは、心臓弁に起因する心房細動患者に認可されない
・FDAは機械弁患者へのダビガトラン使用に禁忌の追加を求める
・医療従事者は機械弁患者へのダビガトラン使用を、他の方法にすみやかに変更すべき
・生体弁については未だに評価されておらず、ダビガトランは推奨されない
・ダビガトランを服用中の弁置換術後の患者さんは、出来る限りすぐに医師に相談すべき
・患者さんは医師からのガイダンスなしに抗凝固薬を服用の中止はしないように:急にダビガトランや他の抗凝固薬をやめることは血栓や脳卒中のリスクを増やす
RE-ALIGN試験の要約
・対象:弁置換3ヶ月以上後
プラダキサ(n=160)ワーファリン (n=89)
死亡 1 (0.6%) 2 (2.2%)
脳卒中 8 (5.0%) 0 (0%)
全身塞栓症 0 0
TIA 2 (1.3%) 2 (2.2%)
弁塞栓 4 (2.5%) 0
心筋梗塞3 (1.9%) 0
複合イベント 16 (10.0%) 4 (4.5%)
大出血 6 (3.8%) 1 (1.1%)
心嚢出血 5(3.1%) 0
全出血イベント 36(22.5%) 12(13.5%)
### 大変衝撃的な情報です。RE-ALIGN試験デザインの論文が出たのが7月ですから、半年足らずで中止となってしまいました。
http://www.ahjonline.com/article/S0002-8703(12)00177-9/fulltext
ダビガトラン群では、脳卒中5.0%、弁塞栓症2.5%、心筋梗塞1.9%、大出血3.8%、心嚢への出血3.1%に対し、ワーファリン群はほとんどゼロ〜1.1%でした。
原因は何でしょうか?
上記論文を見ますと、ダビガトランの初期投与量はCCrが70未満で150mgx2,70−110で220x2、110以上で300x2となっており、CCr70以上では日本で用いる通常量の2倍またはそれ以上のドーズになっています。
出血が多かったのは、これが原因と考えて良いかもしれません。
維持量については血中濃度50ng/dl以上を維持するように調節となっていますが、ダビガトランの初期データ(以下)では50程度では、aPTT比は2倍を超えることはないように見受けられますので、このへん、実際のRE-ALIGN試験の細かなデータがほしいところです。
Stangier J,et al:The pharmacokinetics, pharmacodynamics and tolerability of dabigatran etexilate,a new oral direct thrombin inhibitor,in healthy male subjects. Br J Clin Pharmacol 2007;64:292-303.
弁血栓が多かったのはなぜなのか?機械弁上の血栓形成に対する抗凝固様式がビタミンK阻害薬と直接トロンビン阻害薬とで異なるのでしょうか?
今後専門家(特に血液学)のコメントが出てくると思われますので、待ちたいと思います。
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by dobashinaika
| 2012-12-20 19:19
| 抗凝固療法:ダビガトラン
|
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土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。
by dobashinaika
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筆者は、2013年4月以降、ブログ内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません
●医療法人土橋内科医院
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