アピキサバンは、高度腎機能低下例でワーファリンに比べて大出血が少ない:ARISTOTLE試験サブ解析
European Heart Journal 11月号より
Efficacy of apixaban when compared with warfarin in relation to renal function in patients with atrial fibrillation: insights from the ARISTOTLE trial
Eur Heart J (2012) 33 (22): 2821-2830.
腎機能別に見たワーファリンに対するアピキサバンの効果:ARISTOTLE試験サブ解析
P:ARISTOTLE試験参加者:GER別のサブ解析
GFRはCockcroft–Gault式およびChronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration (CKD-EPI)式を使用
E:アピキサバン
C;ワーファリン
O:脳卒中/全身性塞栓、全死亡、大出血
結果:
1)Cockcroft–Gault式によるGFRは>80ml/分=42%。50〜80=42%、50未満=15%
2)心血管イベント&出血は腎機能低下例(80未満)でより高い
3)アピキサバンは、腎機能にかかわらず脳卒中/全身性塞栓、死亡率減少でワーファリンより効果的。この結果は腎機能の評価法によらず。
4)アピキサバンはすべてのeGFRでベルを超えて、大出血を減らす
5)大出血のハザード比はeGFR50未満の例でより大きい:Cockcroft–Gault式で0.50、CLD-EPI式で0.48

結論;心房細動では、腎機能低下が心血管イベントや出血増加と関係。アピキサバンは、ワーファリンに比べ脳卒中、死亡、大出血を、腎機能にかかわらず減少させる。腎機能低下症例において、アピキサバンの出血減少傾向が最も大きい
### CKD-EPI式は以下の通りです。色々と補正して有ることしかわかりません。
GFR (mL/min/1.73 m2) = 141 × min(Scr/κ, 1)α × max(Scr/κ, 1)−1.209 × 0.993Age × 1.018 (if female) × 1.159 (if black), where κ is 0.7 for females and 0.9 for males, α is −0.329 for females and −0.411 for males, min indicates the minimum of Scr/κ or 1, max indicates the maximum of Scr/κ or 1, and Scr is expressed in mg/dL
この論文の主要所見は2つです
1)アピキサバンは、ワーファリンに比べて、腎機能にかかわらず、脳卒中/全身性塞栓、大出血を減らした。
2)大出血は、腎機能低下例(GFR50未満)の患者においてアピキサバンの有意セガ最大だった
興味深いのはもちろん2)です。リバーロキサバンでも致死性出血は、腎機能低下例で有意にワーファリンより良かったという結果があったかと思います。ダビガトランではそういう傾向はありませんでした。
http://dobashin.exblog.jp/13427434/
ワーファリンは引用の図にもあるように、腎機能低下とともに出血を増加させることが最近問題になっていますね。肝代謝なのに意外ですね。
出血傾向と腎機能は密接な関係にあって、腎機能低下は血小板機能やvW因子の低下、尿毒症毒素の出現などで出血傾向を助長させるとEditorialで指摘されています。
Apixaban in renal insufficiency: successful navigation between the Scylla and Charybdis
Eur Heart J (2012) 33 (22): 2766-2768.
ワーファリンはそれに加えて、腎機能低下によりCYP活性の低下や蛋白結合率の変化を受けやすいため、出血が増えることが指摘されています。
ワーファリンの持つ腎機能低下時の弱点と、新規抗凝固薬の持つ腎排泄率とのせめぎあいで、腎機能低下時にワーファリンに勝つかどうかが決まるのでしょう。
Editorialでアピキサバンの腎機能低下時例の管理は“successful navigation between the Scylla and Charybdis”と例えられています。“between the Scylla and Charybdis“というのは、ギリシャ神話に出てくる、メッシーナ海峡に住む海の魔物で、漁師たちがこの二匹の真ん中でぎりぎりの航路をとって通ることから「進退窮まって」というイディオムになっているようです(Wikipediaより)
これまではワーファリン管理が、まさにbetween the Scylla and Charybdisというにピッタリだったわけですが。。新規抗凝固薬でも、やっぱり簡単ではないということがこの表現からにじみ出ていますね。
Efficacy of apixaban when compared with warfarin in relation to renal function in patients with atrial fibrillation: insights from the ARISTOTLE trial
Eur Heart J (2012) 33 (22): 2821-2830.
腎機能別に見たワーファリンに対するアピキサバンの効果:ARISTOTLE試験サブ解析
P:ARISTOTLE試験参加者:GER別のサブ解析
GFRはCockcroft–Gault式およびChronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration (CKD-EPI)式を使用
E:アピキサバン
C;ワーファリン
O:脳卒中/全身性塞栓、全死亡、大出血
結果:
1)Cockcroft–Gault式によるGFRは>80ml/分=42%。50〜80=42%、50未満=15%
2)心血管イベント&出血は腎機能低下例(80未満)でより高い
3)アピキサバンは、腎機能にかかわらず脳卒中/全身性塞栓、死亡率減少でワーファリンより効果的。この結果は腎機能の評価法によらず。
4)アピキサバンはすべてのeGFRでベルを超えて、大出血を減らす
5)大出血のハザード比はeGFR50未満の例でより大きい:Cockcroft–Gault式で0.50、CLD-EPI式で0.48

結論;心房細動では、腎機能低下が心血管イベントや出血増加と関係。アピキサバンは、ワーファリンに比べ脳卒中、死亡、大出血を、腎機能にかかわらず減少させる。腎機能低下症例において、アピキサバンの出血減少傾向が最も大きい
### CKD-EPI式は以下の通りです。色々と補正して有ることしかわかりません。
GFR (mL/min/1.73 m2) = 141 × min(Scr/κ, 1)α × max(Scr/κ, 1)−1.209 × 0.993Age × 1.018 (if female) × 1.159 (if black), where κ is 0.7 for females and 0.9 for males, α is −0.329 for females and −0.411 for males, min indicates the minimum of Scr/κ or 1, max indicates the maximum of Scr/κ or 1, and Scr is expressed in mg/dL
この論文の主要所見は2つです
1)アピキサバンは、ワーファリンに比べて、腎機能にかかわらず、脳卒中/全身性塞栓、大出血を減らした。
2)大出血は、腎機能低下例(GFR50未満)の患者においてアピキサバンの有意セガ最大だった
興味深いのはもちろん2)です。リバーロキサバンでも致死性出血は、腎機能低下例で有意にワーファリンより良かったという結果があったかと思います。ダビガトランではそういう傾向はありませんでした。
http://dobashin.exblog.jp/13427434/
ワーファリンは引用の図にもあるように、腎機能低下とともに出血を増加させることが最近問題になっていますね。肝代謝なのに意外ですね。
出血傾向と腎機能は密接な関係にあって、腎機能低下は血小板機能やvW因子の低下、尿毒症毒素の出現などで出血傾向を助長させるとEditorialで指摘されています。
Apixaban in renal insufficiency: successful navigation between the Scylla and Charybdis
Eur Heart J (2012) 33 (22): 2766-2768.
ワーファリンはそれに加えて、腎機能低下によりCYP活性の低下や蛋白結合率の変化を受けやすいため、出血が増えることが指摘されています。
ワーファリンの持つ腎機能低下時の弱点と、新規抗凝固薬の持つ腎排泄率とのせめぎあいで、腎機能低下時にワーファリンに勝つかどうかが決まるのでしょう。
Editorialでアピキサバンの腎機能低下時例の管理は“successful navigation between the Scylla and Charybdis”と例えられています。“between the Scylla and Charybdis“というのは、ギリシャ神話に出てくる、メッシーナ海峡に住む海の魔物で、漁師たちがこの二匹の真ん中でぎりぎりの航路をとって通ることから「進退窮まって」というイディオムになっているようです(Wikipediaより)
これまではワーファリン管理が、まさにbetween the Scylla and Charybdisというにピッタリだったわけですが。。新規抗凝固薬でも、やっぱり簡単ではないということがこの表現からにじみ出ていますね。
by dobashinaika
| 2012-11-26 23:47
| 抗凝固療法:アピキサバン
|
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土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。
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筆者は、2013年4月以降、ブログ内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません
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