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なぜ薬はモニタリングしなければならないのか?

さすがに4日もブログを更新しないでいると、心配される方もおられますでしょうか(おられたら嬉しい限りです!)。自分でも更新しないとなんとなく落ち着きません。論文を読むほどの時間が取れなかったので、たまたま思い浮かんだことなど、連ねます。

抗凝固薬でそもそもなぜモニタリングするかということです。治療薬物モニタリング(TMD)をウィキペディアで調べて自分なりにデフォルメすると以下の様な理由があるようです。

1.薬の治療域が狭く、治療域と中毒域が近い
2.薬が効いているかどうかわからない
3.過剰投与による副作用が重篤
4.出血時、手術施行時等で何らかの介入または中止が必要な場合
5.患者の服薬アドヒアランス確認と向上


ワルファリンは理由1の最たるもので、これを払拭するために登場したのがダビガトランです。ダビガトランは当初モニターしなくて良い、採血しなくて良いとの触れ込みで登場しました。たしかに大規模試験のような理想的な状態であれば理由1は克服できるかもしれません。

でもやっぱりモニターは必要でした。ブルーレターで騒がれたからかもしれません。モニターでこれほど騒いでいるのは日本だけということも聞いたことがあります。

しかしながら、降圧薬、糖尿病薬、脂質低下薬、尿酸低下薬、骨粗鬆症薬等々いわゆる予防薬のたぐいは「イベントが起こらないこと」がアウトカムなので、その効果をわれわれは実感することができません。せめて「ある数値以上、あるいは以下になった時、プラセボに比べてイベントが少ない」ということがわかっていないと落ち着いて治療も出来ません。上記理由2は世の予防薬に通底する本質です。

更に抗凝固薬には「大出血」という恐ろしい副作用があります。いくら治療域が広く出血リスクは低いと言われても、インパクトが高ければ、われわれは予測しないでいられません。なんせモニターの語源は「モンスター」と同じなのですから(理由3)。

理由4に述べたように、もし万が一リスクが発生した場合のリスクヘッジにも有用です。どの時点で中和薬を投与するか、服薬を中止するか、その目安が緊急時には是非必要です。ダビガトランというのはこの点悩ましい薬です。たとえば降圧薬なら、血圧が非常に高値または低値になったら増減、追加、変更が自在に可能です。しかしダビガトランは用量が2つしかありません。あとはワーファリンです。モニターできるということは、それだけリスクヘッジも十全にできるという条件を我々に突きつけます。ワルファリンも使えるようになることが、ダビガトランをうまく使いこなす秘訣と言えます。

さて、ここまで見て、私としては、一番重視したいのは理由5です。血圧を測る、HbA1cを測る、体重を測る。モニタリングとはこのように治療効果を「見える化」することにほかなりません。モニタリングは患者さんに治療に対するモチベーションや安心感を持ってもらうツールです。このことこそ日々の診療における「マーカー」の大きな存在理由だと思います。マーカーは患者さんと医師の共通言語と考えられます。

であるので、新規抗凝固薬にはぜひとも、良いマーカーがほしいのですね。哲学的な意味でも、リスク管理の意味でも、コミュニケーションの視点からも。

このあたりのことも含め、先週のCirculation誌の
Clinical Updateに詳しい記事があります。そのうちまとめて紹介します。
Periprocedural Management and Approach to Bleeding in Patients Taking Dabigatran
Circulation. 2012; 126: 2428-2432

by dobashinaika | 2012-11-19 00:35 | 抗凝固療法:全般 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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